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第四十四話  拡大の、青魔石と救援と

「街の各地で青魔石の出現を確認!」


「負傷者多数! 把握しきれません!」


「複数の青魔石使いによる戦闘を確認! 規模、拡大……このままでは街は全滅です!」


「なんだと……!?」


 ギルド支部、作戦司令室。

 数多の報告の職員の悲鳴が飛び交う中、ギルドマスター・グランは愕然としていた。


「すでに東四地区、南六地区内で大規模な火災発生! 建物の崩落や爆発で多数の被害が出ています!」


「負傷者が増大中! 住民の非難、間に合いません! すでに東と東南、南地区では多数の犠牲者が!」


「確認しただけでも新たな青い魔石使い――《ダースユニコーン改》、《ソードゴブリン改》、《エンプーサ改》、《アクトスパイダー改》の使い手が! なおも増殖中と思われます!」


「最初の『青魔石』使いのリット、マルコ、ローグ、バセル――彼ら交戦していた小隊と連絡、途絶! おそらく全滅か、新たな魔石使いの奇襲を受け撤退したものかと……」


「なんということだ……っ、これほどまでに『青魔石』が……!?」


 矢継ぎ早に報告される悲鳴に、グランは歯噛みして、指示を送っていく。

 完全な想定外の事態だ。もたらされる報告の数々に体が震える。


「ちっ……東と南地区に増援を送れ! 《三級》騎士だろうが《四級》だろうが構わん、出せるだけ者は全て出せ! 一般職員でも、戦える者は予備兵として投入しろ! リットら最初の四人の対応には、《二級》を中心とした部隊を再編成! キール、ニキータ、ベルティンらは……」


 グランの指示と報告が乱れ飛び、職員から怒号や悲鳴めいた声が飛び合う。

 グラン自身も顔を真赤にして怒鳴り、命令を繰り返すが、報告される被害が尋常ではない。


「くっ……何故このような事に」

「……マズイことになりましたねー」


 窮状の中、目を細めながら状況を観察していたグランへ、参謀長レベッカが前髪を払いながら言う。


「おそらくは『リット』らに対する怨恨などから発生したのでしょう。最も憂慮すべき事態の一つとなりましたね」

「怨恨? それはどういう事だ?」

「『青魔石』に関して、私はいくつか仮説を持っていたのですが、そのうちの最悪に近いもの二つが――現実になりました。すなわち『青魔石』の『進化』と、その『凶悪化』です」

「……どういうことだ? 判るように話せ」


 焦りの極地にあるグレンに対し、あくまで平静にレベッカは説明する。


「ずばり言いましょうー、あの青魔石は『進化』しています。……思い返せば最初、青魔石は『八時間』ごとに増殖を繰り返すだけでした。ですがその後は『街』の中にも出現するようになり、『リット』ら青魔石使いを生んだ。……問題は、その先にあります」

「先……とは?」

「『青魔石』は、機能が『進化』しているという事です。あれは……それ自体が一種の魔術兵器なのでしょう。初めの『八時間』ごとの『増殖』はいわゆる成長期……『青魔石』が己の成長を繰り返す期間。第二段階は、リットら『恵まれない者』へ出現する。そして第三段階……今の状態ですが、『とある条件』を満たす、全ての人々に急速に広まる」


 確かに、『青魔石』は初期と今とでは性能が違っている。初めは増殖……それもギルド地下内のみだったが、それ以降は『街中』に、『八時間』ごとの出現となり、それ以降はさらに急激拡大している。

 それは明らかだろう。


「その条件とは?」

「簡単ですよ。『負の感情』ですー。『怒り』、『憎しみ』、『嫉妬』、『絶望』、『破壊欲』、『悲しみ』……それら膨大な『負』の感情を根底として、『青魔石』は出現しています」

「つまり、今後の拡大も……止められぬと?」


 グラン以下、職員の誰もが呆然とその言葉に聞き入った。


「そうです。始まりのリットやマルコ然り。ローグやバセル然り。それぞれ『嫉妬』、『怒り』、『強欲』、『殺人欲』。……もっと高い地位に行きたい、無力な自分への怒り、女を抱きたい、人を殺したい……理由は様々ですが根底は同じ。希望や安心とは対極の感情。人が持つ、『暗い感情』の発露。それが呼び水となって、あの『青魔石』を生んでいます」

「それは……今現在の拡大している『青魔石』も同じということか?」

「おそらくは。時間の枷を解き放たれ、無尽蔵に『増殖』する青魔石は、驚異としか言いようがありません」


 グランの、その総身が大きく震える。


「まさか……そんな事が? だとすればどうすれば止められる_」

「元を断ちましょう。――『始まり』の青魔石である、《ロードオブミミック改》の青魔石を破壊するのです」

「だが! それは危険だ! これ以上刺激を与えれば、より悪化する可能性も……」

「それはそうですが、もうそれしか方法はありませんー。すでに、『時間』の概念や『空間』の概念が変化しているのです。これよりさらに『進化』が起こる可能性もあります。これは仮ですが、『一人に対し複数の青魔石が出現する』、『ランクマイナス五以上の魔石が出現する』、『些細な負の気持ちだけでも出現する』……そのレベルだけで収まればいいのですが、さらにもっと『上』の段階になると、本当に手がつけられなくなる」


 それは、確かに予期し得る意見だった。

 『増殖』、『負の連鎖』と続き、さらなる段階へと至る可能性は当然ある。

 破壊が可能か、それが適切な、そんな議論をしている余裕すら惜しい。


「四の五の言ってる暇はないですー。やれることやらなきゃこの街が――いえ、この大陸が青い魔石だらけになるかもしれませんよ?」

「……それ、は……」


 確かにそうだ。

 グランは迷い、震え、決断する。

 《ロードオブミミック改》の破壊を。始まりの『青魔石』の破壊を。一縷の望みを掛けて。苦渋の決断をする。



†   †



「破壊するの……ですか?」


 地下保管室に降りてきたグランやレベッカの説明を受け、《二級》解析官のコルとバルトは困惑した。


「しかし、破壊は最後の手段だと以前……」

「もはや事態は急変した。これ以上保管は出来ん。今、地上では多数の『青魔石』使いが破壊を繰り広げている」

「「っ!」」


 《ロードオブミミック改》の監視をしていたがゆえに、事情を把握していなかった二人の目が見開かれる。


「まさか……っ」

「我々としては、諸悪の根源たるこの魔石の破壊に道はない」


 語りながら、グランは保管庫奥で淡く光っている、『青魔石』を睨みつけた。

 特殊保管庫の中で、まるで永遠の宝石の如く光り続ける『ランクマイナス八』、《ロードオブミミック改》の青魔石。

 それはまるで、混迷する人間の街をあざ笑うように輝いていた。


「封印保管庫を解放する。その後、我ら四人の総攻撃で魔石を破砕、事態の収束を目指す」

「しかしギルドマスター……」

「時間がない、すぐにでも行う」


 言うやいなや、グランはコルやバルトに複雑な紋様が描かれた白銀剣ミスリルソードを手渡した。通常のそれより遥かに美しく、輝かしい物だ。


「まさか……これは、一級殲滅宝具『アストラルミスリルソード』!?」

「馬鹿な……我々があれを砕くというのですか!?」


 部下の当然の問いに、グランは渋面で告げる。


「すでに人手は足りず、これ以上の人員は望めない。本来は《二級》解析官に渡す代物ではないがやむを得ない」


 コルとバルトは息を呑んだ。

 通常ならば絶対に許可されないギルド最高峰武装。

 ギルド職員の憧れとも言うべき純白の宝剣、その威力は都市破壊級――まさにギルド最高級の武器だ。

 その名剣を前に、背筋が震えた。


「いいか、我々のみで《ロードオブミミック改》の青魔石を砕く。四人分の宝具の威力は折り紙付きだ。全力で放てば周囲十キロは荒野になる代物だ。……くれぐれも魔力の出し惜しみはするな。魔石を砕く事が最優先だ」


 グランが自分の鞘からアストラルミスリルソードを抜く。レベッカも自慢の杖――アストラルミスリルロッドをくるくると回転させて構えた。


「地下保管室に《結界》を張りますー。ちょっとびりりってなりますけど我慢してくださいねー」


 レベッカが短い文言を唱えると、周囲に淡い紫色の靄が広がる。

 それは彼ら四人の体と部屋の隅々に浸透し、強固な『防護膜』を構築する。

 今、この地下保管室に、巨人の攻撃にも余裕で耐えうる最大級の守りが付与された。

 ギルドの地上への被害を防ぐためである。


 グレンが詠唱し、愛剣に魔力を注ぐ。

 レベッカが複雑な呪文を唱え、杖に力を注ぐ。

 コルと、バルトも、渡された純白の宝剣に詠唱して魔力を注いでいく。


[天と地と神明の名において命じる。我は破壊の化身。紅王の使徒。邪悪なるものを滅せ、――『アルゾール・グレストラ』!]

[リ・リ・ヴォルゲスト・リシュベーン・アリエシュル。――薙ぎ払え、『冥皇の獄閃』!]

[集え、集え、隼の神! 光まといて悪を裁く! 断罪のつるぎよ! ――『ヘリオス・スパーダ』!]

[岩塊の虚影を召喚す! 我は岩石司るものなり。ゴーレムの王よ、我に力を! ――『ブラスバーストヘルズ』!]


 四人分の魔力が、最大の奥義が、紅蓮色の閃光となり、地獄の黒光となり、光の剣となり、巨大な岩の鉄となり、《ロッドオブミミック改》の青魔石へと放たれた。

 辺りを震撼させ、目も眩むほどの大爆炎と大閃光が炸裂し、そして――。


 

†   †


 

「な、なんだ……?」


 地を揺るがす大きな揺れを感じ、リットと交戦していたギルドの騎士達は、思わず背後の方向を振り返った。


「あ、あれはまさか、ギルド支部が……っ!」


 小さな閃光と爆炎の柱が、天高く上り詰めていく。

 わずかに地面から洩れた、細長い光。だがそれでも衝撃は激烈だった。

 

「爆発だ! ギルド支部からか!? いったい何が……状況は!? 本部、応答を!」


 交戦していた《ソードゴブリン改》の魔石使いから離れ、騎士達が、一斉に青ざめる。

 空を切り裂き、まばゆい程の光量の閃光の後、衝撃波が彼らのところまで到達する。



†   †



「止まらないで! 皆急いで走ってください!」


 被害民の誘導を行っていた衛兵たちが、空に上がった閃光に、一斉に見上げた。


「なんだあの光と炎は……!? 何が起こってんだよ!?」

「おいおいおい、終末の光じゃねえよなあれ!?」


 悲鳴や動揺、それらを抑え、衛兵達が彼らを先へ促していく。



 その時――。

 ギルド支部の地下から立ち上った閃光と炎は、空の雲を突き抜け、成層圏の上にまで到達した。

 レベッカの張った結界をわずかに貫いて登った細く――しかし長大な閃光と炎は、数千メートル上空の雲を貫き、膨大な衝撃波を発生させた。

 付近の青魔石使いが、数名吹き飛んでいく。

 ギルド騎士たちは予め警告を受けていたため無事だったが――それでも衝撃は苛烈だった。 

 

 人々にとっては、天災のような出来事。

 グラン達は《ロードオブミミック改》の魔石破壊を確信した。いや、願った。

 しかし――。



†   †



「失敗、か……」


 立ち登る地下での爆炎にあおられながら、グランは忌々しげに吐き捨てた。


「まさか……四人分の宝具の直撃にも耐えられるとはな……」


 保管室のあらゆる機材が砕け、あるいは蒸発していた。

 保管室全体が原型を留めないほど崩れ落ち、廊下や上階まで一部が吹き飛んでいる。

 しかし、それでも、《ロッドオブミミック改》の魔石は傷一つなく存在していた。

 平然と、虫けらの攻撃など効かぬ、と言うように。


「こうなると力づくでは無理ですねー。一級殲滅宝具でどうこう出来ないとなると、お手上げです」

「ならばどうする?」


 都市破壊級の攻撃、四人分を受けなお無傷な青魔石は、まさに驚異。これに対処する術など、ないように思える。


「これは、副案を使うしかなさそうです。そもそもの大元。これが発見された《迷宮》に赴く他なさそうですねー。《ロードオブミミック改》と戦った探索者、『リゲル』さんに会いに行きましょう。彼から情報を聞き出し、第八迷宮《砂楼閣》の奥へ向かってもらう。そうすれば、あるいはこの事態を収束出来るかもしれません」

「……そのようだな」


 そうして、彼らは協力を仰ぐことにした。

 この事態の始まりに。青き魔石を手にした少年の手に。

 ギルドは――その運命と未来を委ねる事になる。



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