第二十四話 青い魔石の異変
「状況は」
ギルドマスター・グランの問いかけに、二級解析官、コルとバルトは緊張した面持ちで答えた。
「はっ、現在、隔離魔術具『アエラ』にて封印。状況の維持に努めています」
「対象の状態は極めて安定。《ロードオブミミック改》、《ゴブリン改》、の魔石共々、異変の兆候は見られません」
「よし。引き続き『封印』の維持に努めろ。この魔石の詳細は未だ不明だ。一級の奴らが来るまで、決して怠るなよ」
『はっ!』
緊張を孕んだ表情のまま、二人の二級解析官は礼した。
あの後、二人の二級解析官はグランに報告をした。
その結果、言い渡されたのは封印魔術具による『隔離』。
現在、青魔石は《ロードオブミミック改》、《ゴブリン改》も含め、封印魔術具で封印済みだ。
『封印魔術具』とは、その名の通り爆発や毒、その他危険と思われる代物を『封じる』事が出来る代物。
外部はおろか内部からの干渉も叶わない。
封印の維持には絶えず魔力を注ぎ込まねばならないが、今の所二人の魔力で維持は可能。
「なあ、少し言いたいんだけどよ」
ギルドマスターが退室した後、コルが尋ねた。
「この魔術具で本当に大丈夫か? ぶっ壊れたり、封印が破られたりしたら……」
「心配性だな。この封印魔術具は効力こそ一等の封印具には劣るが、上級の魔物すら隔離できる。何も問題はない」
「どうだかな。『ランクマイナス』なんて未知ものに通じるか? 本当にそう信じてるか?」
「その判断は俺達ではなくギルドマスターがするものだ」
二級解析官、コルはため息を漏らす。
それは、困惑や焦りというより、不安に染まったもの。
「これは勘だが、ヤバイ臭いがする。やはり一等の封印魔術具を使った方がいい」
解析官に《一級》などのランクが存在するように、封印具にもランクは存在する。
現在試用しているものは『二等』――決して性能が低いわけではないが、最上位ではないため、コルの不安はもっともだった。
「それは杞憂だろ。そもそも一等の封印魔術具は『実害』が出て初めて使用できる。維持魔力も膨大だし、俺達の魔力では、すぐに枯渇するぞ?」
「だったら! せめて人数を増やして監視すべきだろうが!」
「繰り返すが、それも含めギルドマスターの判断だ」
「この、わからず屋が!」
『地下保管室』の立ち並ぶ透明容器の一角、特別な呪印が施されたケースを見て、バルトは思う。
問題はない。コルは心配しているが、二等封印魔術具は上位魔術具だ。
かの有名な『霊剣レイティアス』や『烈剣シャルソ』に並ぶ、上位魔術具なのだ。
ちょっとやそっとどころか、都市破壊規模の爆発でも壊れるかどうか。
だから安心して、今は魔力を注ぎ込めばいい。
だが――。
「おい……」
「なんだよ、コル。またいらない事考えて――」
「封印具が、何かおかしい……!」
「えっ?」
コルの焦燥の声が、響いた瞬間。
甲高い音と光が溢れ、封印具が破裂した。
四散したケースの欠片が天井のランプを破砕する。ばかりか、コルとバルト、二人の腕や胴に刺さり、小さくない血しぶきを出した。
「ぐあああ!?」
「コルっ!」
「だ、大丈夫だ! それより、魔石を!」
瞬時に《回復》の魔術を自分にかけ叫びを上げるコルたち。
見れば、二人の視線の先――『青魔石』は不気味に明滅していた。
しかし、数秒もすると発光は減少、元も静かな状態となる。
だが、恐ろしい光景は次の瞬間だった。
忽然と。
その隣に、『新たな魔石』が。
増えているではないか。
あたかも鏡のように、妖しく、青く、燦然と――。
「馬鹿な!? 封印が……!?」
「そ、それより魔石が……っ! また増えやがった……」
ぞわり、と彼らの背筋に震えるものが這い回る。
『青魔石』の――さらなる増殖。
二人の二級解析官は怯える。
二等封印具でも駄目だった――いやそれ以前に、さらなる数の増殖。
事態は彼らの及ぶところではない。
事態はより重く、そして未曾有の領域に入っていく。





