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第二十二話  異変のはじまり

「いや、まったく凄まじい日ですね」


 都市ギエルダ、ギルド中央支部内。

 リゲルに応対した女性職員が、作業の傍らギルドマスター『グラン』へ話しかけていた。


 すでにリゲルの報告を終えて数分経っているが、未だ動揺は収まらない。


「青い魔石とは。まさか……迷宮内で魔物に変化があったのでしょうか」

「判らんよ。我々が迷宮について知っているのはごく一部だ。何故存在するのか、いつから存在しているのか……原理も何も判っていない以上、ある日変化が訪れたとしても不思議はない」

「あの魔石の魔物も、じつに奇妙です。《ロードオブミミック改》……第三迷宮《惑乱》や第四迷宮《樹海》に、ロードオブミミックが生息しているのは確認済みですが、第八迷宮《砂楼閣》では未だ未発見……仮に生息しているとしても、第一階層にいていい存在ではありません」

「同感だ。ランク『マイナス八』というのも前代未聞……いったい、何が起こっているのやら。今日は寝る暇もなさそうだ」

「私も肌が荒れるので徹夜はちょっと……ですが、致し方ありませんね」

「我慢の時だな。――それで? 調査員はどうなっている? 命令通り人材は集められたのか?」


 女性職員は、手元の資料を見ながら応じた。


「はい。ご指示の通り、『ランク黒銀』以上の探索者集団パーティを集め調査に向かわせます。すでに『烈紳同盟』、『ラストレーアの風』、『夢幻舞曲』など、計九つの集団パーティが現地で待機。第八迷宮《砂楼閣》、及び第三迷宮《惑乱》、そして第四迷宮《樹海》の低層を調査させます」

「九つの集団パーティだけか? もっと確保できなかったのか。できれば全ての迷宮に、調査を頼みたいが」


 女性職員は首を横に振った。


「無理です、探索者が足りません。《ロードオブミミック改》は等級レベル八十クラス……高位魔物です。そのレベルの魔物に対抗でき、なおかつすぐに連絡がつく集団パーティとなると……」

「高位探索者は、普段は迷宮の深くに潜り込んでいるものだからな。致し方ないか……」


 女性職員は悔しげな表情のままに頷いた。


「その通りです」

「多少の無理は言っても構わん。上位集団パーティを可能な限り集めろ。報酬は弾ませる。第一階層に等級レベル八十の魔物が出るなど、重大事件だ。事はギルドの信用にも関わる」

「――承知致しました。では経理部に言って、報酬の上乗せを要請致します」

「また嫌味を言われそうだな。だがまあ、よろしく頼む」

「はい。小言を言われる分、私の給料も弾むんですよね?」

「ははは」


 それには笑ってスルーし、グランはギルドマスターの仕事に戻る。

 先程から彼は不休で作業に当たっている。探索者集団パーティの呼び戻し、依頼、状況説明、一般人への情報操作……やるべき事は多い。一刻も早く迷宮の安全を確認するため、ギルドは総員で取り掛かっている。ギルドマスターともなれば、その統率でトイレに行く暇も惜しい。

 女性職員が離れる直前に、グランがふと思い出す。


「そう言えば、『青い魔石』の調査はどうした?」

「……現在、準備中です。西大陸に遠征していた《一級専門官》を呼び出し、帰還させている最中です。それまでは《二級専門官》が保管を担当します」


 ギルドの部門には魔石や素材の『解析官』がおり、上から『一級』、『二級』、『三級』とランク分けされている。

 当然、一級ともなれば超有能。対象の材質、年月、触れた者の痕跡など、事細かに判明できる。――が、不在では仕方ないだろう。


「保管には厳重注意を言い渡したな? 不測の事態など招けば、目も当てられないからな」

「抜かりはありません。二級とは言いえ彼らもプロ、矜持を持って対処するでしょう」



†   †



「あーあ、何で俺達はただの保管係なのかね」

 

 同ギルド地下保管室にて。

 二級解析専門官コルは、つまらなげに愚痴をこぼした。


「これでも俺は五十の難解物を解析した腕利きなのに。ギルドマスターは未だ一級の奴らを贔屓ばかり。俺たちの事なんて、雑用にしか思ってやがらねえ」


 共同で保管を任せられた同僚の『二級』解析専門官バルトが、苦笑いで応じる。


「そう腐るな。ギルド長も考えあって決断したのだろう。新種の『魔石』は、俺達には手に余る。『一級』の奴らを待つのは妥当な判断さ」

「それだ、それが気に入らねえ。何だって『一級』ばかり贔屓を? 俺らだけでもできるってのに」

「慎重に慎重を重ねた上での判断だろう。お前も専門官ならわきまえろ」

「だがよ……」


 それでもコルは納得がいかない。これでも自分は『二級専門官』、その中でも実力は『一級』に限りなく近いとされている。

 なのに命じられたのは『青魔石を監視せよ』……『一級』が帰ってくるまでの繋ぎ役。


 正直、納得できない。不当だ。何もあんな奴ら、待たずとも自分たちで解析してみせるのに――。


「ん?」


 ふと、『青の魔石』が入っている金属容器を見て、コルは驚いた。


「お、おい見ろ、これ……」

「何だ、まだグチグチ言っているのか」

「ち、違うって、いいから見ろ!」


 半分迷惑そうに振り返った同僚の肩を捕まえ、コルが無理やり容器に目を向けさせる。


「……え? あれ?」

「見間違え……じゃないよな。これ、どう見ても」


 二人の解析専門官は、同時に呻いた。

 その容器。

 青の魔石が入っている半透明の金属箱。リゲルから届けられ、グランギルドマスターに保管を命じられた魔物の青き魔石が入った収容器。

 その中で――。


「魔石が……増えている……?」


 不可思議な魔石が、一個、『増えていた』のだ。

 間違いない。たった今まで、半透明の器には一つの魔石しかなかったのに。


 それはまるで、鏡に映し出されたかのように。

 まったく同じ形、まったく同じ光沢をもって。

 元の青の魔石の隣に――出現していたのだ。


「お、おいどういうことだ!? これは!?」

「わ、わかんねーよ! ……と、とにかく、一度『鑑定』してみないと!」

 

 『解析専門官』とは、一般の職員より数段上の《解析》魔術が使える存在である。

 通常なら不鮮明な解析も、彼らならば解析可能。よって、現在の状態を把握しようとしたのだが――。


「あ、よせっ、いきなり調べるのはまずいだろう……おいっ!」


 コルは同僚の注意も耳を貸さず、増えた方の魔石を手に取った。

 鑑定スキル、発動――。



【《ゴブリン改》 『効果:打撃(小)』 『ランク:マイナス一』】



「な、な、なんだこりゃあ……」

 

 眼前に表示された文字列に、コル達は驚愕した。


「しゅ、種類が、最初のと違うぞ!?」

「《ゴブリン改》だと!? ど、どういう事だこれは!?」

「わからねえよ!」


 《ゴブリン改》――そのような名前の魔物など、聞いたことがない。

 いやそもそも、何故増えた? 原因は? 条件は? いったいこれは、何だというんだ?

 魔石がいきなり増えたのも異常なら、新たな未知の魔物の名も異常。

 不吉に青く輝く『魔石』に、コル達は震え上がる。


「ぎ、ギルドマスターに報告だ! 急げ!」

「応っ!」


 焦燥に駆られる二級解析官たち。

 そしてそれは、始まりに過ぎない。

 ギルド内で、その密かな『異常』は続いていく――。



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