表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/167

第十七話  新たなる災いの種

〈リゲルさん、見て見て、勝利の絵画!〉

「突然どうしたの……うわ、これ僕!?」


 体も回復して動けるようになったリゲルは、メアが描いた砂絵サンドアートを見て驚いた。

 何かやたらとイケメンなリゲルが《変幻》と対峙しているし、しかも無駄に上手い。

 ドヤ顔のメアが胸を反らして言う。


〈他に描いてほしいものがあれば言ってね! エッチなイラストも描けるよ!〉

「いったい全体どうして君は僕にそんな事を言うのかな?」

〈え? リゲルさんの好きなことはなるべくしてあげたいからだよ?〉


 そんな「当たり前だよね?」みたいな顔をされても困る。

 というよりメアの両親は、特に父親は、いったいどんな教育をメアに施したのだ。この娘の行く末が少々心配である。


〈そう言えばリゲルさんは巨乳好き? それとも貧乳好き?〉

「あのね、会話の脈絡というものを知ろう」

〈はっ!? まさかおばあちゃんの垂れた乳が好きとかそういう――〉

「ないから! 何だよ、そういう……いやそれよりメア、整理しなければならな事がたくさんあるよね。そちらを優先しよう」

〈ちょっとしたジョークだよ許して〉


 体も心もすっかり本調子に戻ってきたリゲルは、苦笑しつつ話の整理に掛かる。


「まあ、ともかくだ。今後の方針を決めよう。……まず気になるのはあの《変幻の魔物》が、どこから来たのか、だね」

〈迷宮の魔物じゃないの? 奥から来たよね?〉

「いや、いくら《砂楼閣》が特殊な迷宮でも、第一階層からあんな魔物が出るとは思えない。『希少種』とも違うだろうし、おそらくは――アーデルの仕業かな」


 現状、そのくらいしか考えられない。あのような怪物を生み出せるのはアーデル以外には知らないし、超絶的な強さだ。

 メアも頷いてみせる。


〈あたしもそうだと思う! 二年半前もアーデルは地下からやって来たの。この下に、彼の拠点があるのかもしれないね〉

「いや、それはどうだろう。すでに二年半もの歳月が経っている。彼がいるとは思えないし、魔力も違う」


 アーデルほどの強者がいるのなら、魔力の欠片くらい感じてもいいはずだ。

 それがないということは、アーデル自身は、この《迷宮》にはいないのだろう。

 あるいは、彼の拠点なり何なりはあるが、それが二年半の中で暴走……それに近い状況に陥り、あの怪物が襲撃した可能性。 


「そもそもアーデルが二年半前、何のために、君や父君を襲撃したのかが不明だ」


 メアの父親の研究は尋常ではない。おそらく『宝剣』以外にも『何か』あるのだろう。

 それが欲しくてアーデルが襲撃した可能性はもちろんある。しかしその場合、地下施設が残っているのは不自然だ。隠蔽のために地下施設ごと破壊すべきだし、二年以上も放置することも不自然。

 そもそも、なぜ《結界》で封印していた?


 何かやむを得ぬ事情があったか、『この状況』自体が彼の思惑の内なのか……何にせよ情報が少なすぎる。


〈いっそのこと、あたしが下に行って見てこようか? 《通り抜け》や『宝剣』があればどんな相手でも負ける気がしないよ〉

「……それはちょっと控えて。何が待っているかわからないし、彼が黒幕にせよ戦力が《変幻》だけとは限らない。不用意に探索するのは危険すぎる」

〈平気、平気。いざとなれば《通り抜け》能力で地上に戻るから!〉


 リゲルはゆっくりと首を横に振った。


「それでも駄目だ。破邪系の攻撃があったら終わりだし、メア一人では危険過ぎる」

〈破邪ってなに?〉

「死霊系の存在に対して浄化……要するに、昇天させる攻撃。僕が君との戦闘で使った『退魔の札』みたいな」

〈あああ、あれはもう嫌だよ! わかった……行かないよ。あたし、まだ死にたくなし。いや、もう死んでるけど……リゲルさんから離れるのは嫌だよ!〉

「判ってくれればいいけど」


 怯えているメアも可愛いが、それはさておき。

 ともあれ彼女一人で行くのは危険だろう、いくつか確認を述べた後、リゲルは地上へ戻ることにした。


 魔物は、《迷宮》の外には出られない特性を持つ。その理由は識者たちが議論を重ねているが、未だ結論は出ない。

 とりあえずはこの《砂楼閣》から脱出すれば、当面の危険性は薄まる。


「……おっと、忘れてた。一応、回収しないと」


 先程倒した《変幻》の魔物である。

 体は白い砂のようになってしまっているが、『核』である《魔石》は残っているはずだ。


「この魔物の魔石は餅買って分析する必要があるな。アーデルや襲撃の手がかりになるかもしれない――っ!? 何だ、これは?」


 しかし、砂の中をさぐっていたリゲルは、おぞましい物を見たかのように硬直した。


〈どうしたのリゲルさん〉


 怪訝な表情を浮かべるメア。

 それにも答えられず、手にした『ソレ』を凝視するリゲル。 


 当然だ。――魔石の色が、『青』だったのだ。

 通常、魔石はいかなる魔物のものでも『紅』と決まっている。

 例外はない。魔物には『通常種』、『階層主』、『特進種』、『希少種』と多用に分かれているが、その色は全て『紅色』だ。

 それが、これだけが違う。


〈……魔物の血で青くなった、とか?〉

「いいや、これは魔石自体が青いみたいだよ」


 不気味なものを見るかのように、手のひらのそれを見つめるリゲル。

 その『魔石(?)』はサファイアの如く美麗で、ともすれば宝石のよう。しかし内部には濁った光があり、不吉さを醸し出している。


「……仕方ない、戦闘で使っていなかった魔石で調べてみよう。――その性質を暴け、《ハイインプ》!」

 『鑑定』の能力を持った、魔石を使用し、詳細を把握してみるリゲル。

 しかし――。 


 鑑定結果

【《ロードオブミミック改》 『効果:模倣』 『ランク:マイナス八』】

 

「なん……だ、これは」

 心臓が、高く鳴った。

 名前、ランク、全てが異常。

 ランク、『マイナス八』。そんなもの、見たことも聞いたこともない。

 言い知れぬ悪寒が、畏怖と共にリゲルの中に湧き上がる。


「こんなランク、聞いたこともない。アーデルの研究にもなかった。それに名前も……『改』?」


 通常、『魔石』はランク一が最低であり、ランク十が最高だ。

 それ以外の魔石は存在しない。そのはずだ。

 そして魔物の名称に、『改』がつくなど聞いたこともない。


〈み、見間違いじゃないの? それとも、偽装か何か?〉

「違う。魔力の具合で分かる。これはこれで正体が判明している」


 つまりは。

 あり得ないはずの『ランクマイナス』という位階。

 そして『改』なる不可解な属性のついた異常なる魔石。

 

 メアが、背後に回り空間に表示された文字を凝視して、固まる。

 

〈……ギルドに報告すべきだね〉

「それがいいと思う。明らかにこれは、普通じゃない」


 メアが怖いものでも見るかのように自分の体を抱きすくめる。

 リゲルの手のひらの上で、淡く輝く『青き魔石』。

 その輝きが、新たな災いを呼ぶことを予期させ、リゲルは急ぎ、地上に戻ることにしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ