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第十六話  勝利、そして幽霊少女の笑顔

 《変幻》の魔物との激闘から十数分後。

 ふとリゲルが目を開けると、メアの可憐な笑顔が、視界に入った。

 あの戦闘の後、どうやらリゲルは眠っていたらしい。


〈あ、リゲルさん起きた! おはよう、朝ご飯にする? それともお風呂にする? それとも、あ、た――〉

「いや、いきなりジョークはやめにしよう」


 笑いながら起き上がろうとすると、無理に《浮遊術》で押さえつけられた。


「え、メア?」

〈まだリゲルさん、起きたら駄目だよ。さっきまでボロボロのくたくただったんだから。今動いても疲労で倒れちゃうよ。というより、疲労で倒れたんだんだから〉


 確かに、体の各所に痛みを感じる。

 これはどうやら戦闘の緊張や無理が残って、気絶へと導いたらしい。回復魔術でも、容易には治らないだろう。

 しかし考えてみれば屋敷の探索に、地下の探索に、《変幻》の魔物の襲撃だ。緊張の連続である。倒れない方がおかしい。


〈よほど疲れてたんだね。リゲルさん、あたしの膝枕でよく眠ってたよ〉


 それは心地よい感触だっただろうな……と思いかけて、はたとリゲルは気づく。


「は? いや待ってくれ。メアは『ゴースト』だから膝枕も何もないよね?」

〈そこはほら、宝剣を重ねて枕代わりに。気分だけでも〉

「なんか太ももにしては硬いと思ったら宝剣だったのか!」


 起き上がって見てみれば『九本の宝剣』が《浮遊術》で重ねられて枕代わりにされていた。

 本当に宝剣を枕に使うなよ、とかそもそも普通に寝かせてくれというまっとうな突っ込みは笑って流された。

 宝剣が鞘に収まっているのがせめてもの救いである。これが直だったら今頃リゲルは首無デュラハンである。


〈あとね、リゲルさんが寝ている間に、顔へ落書きしちゃったよ♪〉

「それが嘘でも本当に僕は許さないよ?」

〈しかも『メア大好き愛してる』って書いておいたよ〉

「おいちょっと待て。それだと外に出れないからね?」

 

 声音から互いに嘘だと判っていてのやり取りである。こうした余裕が出来るのも、激戦を経たからこそ。

 メアはあははと腹を抱えて笑った。


〈冗談だよ~。(頬にキスとかしようかと思ったけどゴーストじゃ意味ないしね)〉

「何か言った?」

〈なんでもないよ?〉


 妙に機嫌がいいメアに、釈然としない思いを抱きながらも、改めてリゲルは状況を確認する事とした。


「それで、メア。この九本の『宝剣』はいったい……?」

〈あ、それはね、お父様が研究の粋を集めて創ってくれたの。なんでも、最強の宝剣なんだって。詳細は判らないけど、隠し部屋に残されてた〉

「なるほど。……それにしても素晴らしい剣だ。あの《変幻》の魔物をいとも簡単に倒した。しかも、材質も創り方も解らない。非常に高度な技術なのは間違いない」

 

 《六皇聖剣》時代、アーデルの『発明品』も見てきたから、それがどのようなものなのかは大まかには分かる。

 また、『合成』スキルを手に入れ、物の『構造』が何となく判るようになったリゲルだが、それでもこの『九本の宝剣』の構造は判らない。

 地下の研究といい、一体何が目的でメアの父親は動いていたのか……非常に気になるが、今は別のことを語りたい。


「けれどメア。無茶をしすぎだよ。勝ったからいいものの、この宝剣、使いこなせなかったらどうする気だったんだ。あんな無茶はもう――」

〈そんなの関係ないよ! リゲルさんを助けるにはあれしかなかったもの。地上に行ったら間に合わなかったし、あたしはそんなの嫌だよ!〉

「メア……」


 少女の痛烈な叫びに、リゲルは目を閉じ、黙り込む。

 確かに、メアが宝剣で助けに来なければ、リゲルは重症を負っていたかもしれない。

 そこまでいかないにしても、片腕くらいは持っていかれただろう。

 それでも《再生》の効果の魔石なら何とかなるが――

 あの《変幻》の魔物はまさに化け物だった。メアの心配はもっともだと言える。

 

「……ごめん。そうだね、君に対しての配慮が足りてなかった。知人が死ぬのはもう嫌だよね」

〈知人なんて他人行儀な言い方は嫌だよ。あたしはリゲルさんを家族のように思ってるし、リゲルさんもそう思ってほしいな〉

「家族、か……」


 かつてリゲルは《六皇聖剣》がそれに該当する存在だった。

 数々の難事を解決して、手にれた『剣聖王』という立場。

 あれがすでに過去となってしまった今、『家族』と言えるものはいない。強いて言えば、ミュリーくらいなもの。


 だからリゲルは、胸の内が暖かくなった。少女の切実な気持ち、そのひたむきな言葉に嬉しくなる。


〈リゲルさんの窮地は、あたしが守るよ! これからずっと。それが、助けてくれた事への恩返しだから〉


 これまでずっと、リゲルは一人で迷宮を探索してきた。

 拠点ではミュリーと接してはいたが、臨時の集団パーティに入っても孤独かつ、心の中では壁を作って、一歩引いて接していた。

 それは、低級探索者ゆえの劣等感や、『合成』スキルの秘匿の意味もあったが、どこか排他的だったのも事実だ。

 面と向かって本音をぶつけられ、こうまで言ってくれるメアに、好意が湧いてくる。


「……ありがとう、メア。……でも、いいの? 僕はこれからも危険な目に遭うかもしれない。さっき伝えたミュリーの『願い』と僕自身の『事情』を叶えるために、迷宮の八十階層――いやそれ以上の魔境を目指すだろう。そこには、恐怖や後悔もするかもしれない」


 裏切りの《六皇聖剣》、《錬金王》たるアーデル。

 そして《精霊王》、ミュリーの主たるユルゼーラ。

 これらはリゲルが人生をかけて成すべき捜索や決戦の対象である。

 生半可な道のりではないだろう。

  

「挫折や苦悩を味わう危険性は無数に潜んでいる。……それでも、君は力を貸してくれる?」

〈愚問だよ! ここで臆する事なんて、それこそ《レストール》家の令嬢として恥だよ! 後々絶対に後悔する! あたしはもう、リゲルさんについて行くって決めた!〉


 九本の宝剣を宙に回し、メアは言う。


〈お父様にこの『宝剣』たちを託された時、心に刻んだの。仇であるアーデルを倒す戦いに必要な何か。もう家族も命もないあたしが出来ることは何か? それは、あなたを助けることだよ、リゲルさん。だからあたしは、最後の時まで、あなたのそばにいる!〉

「メア……ありがとう」

 

 思わず、感極まる。

 これほど強い言葉を向けられた事は、ミュリーを除きかつてない。リゲルはこの時、心に刻んだ。

 メアと共に戦い抜こう。数多ある、これからの戦いを。闘争を。彼女と共に切り抜ける。


「わかった、ありがとうメア。これからも、よろしく」

〈うん! こちらこそよろしく、リゲルさん!〉


 明るい花々のように、笑顔をほころばせるメア。

 思わずリゲルに抱きつこうとするが――しかし、もちろん実体がないのですり抜けてしまう。

 もどかしそうに眉根を寄せるメア。


〈むう。リゲルさんに触れられない。……やっぱり、一緒にゴーストになった方がいいのかな?〉

「おい。さっきの言葉はどこにいった」


 そんな彼女の言動が微笑ましくて、ついリゲルは笑ってしまう。

 これから先、似たようなやり取りも続くかもしれない。

 死闘も。激闘も。

 けれど彼女となら、全て切り抜けられるだろう――

 そう、確信を得て、リゲルは静かに笑うのだった。



【メア・レストール  幽霊ゴースト レストール家の令嬢  レベル18 

 クラス:幽霊ゴースト

 称号:『貴族の執念』(どんな時でも最善を探して行動する。状態異常攻撃がほぼ効かない)

 体力:0  魔力:239  頑強:0

 腕力:0  俊敏:268  知性:223

 特技:『貴族の嗜みLv6』

 スキル:『浮遊術Lv5』 『不認識術Lv4』

     『物理攻撃無効』

 魔術:『回復魔術Lv1』

 装備:『烈剣クロノス』

    『天剣ウラノス』

    『魔剣ネメシス』

    『酒剣バッカス』

    『盗剣ヘルメス』

    『愛剣ビーナス』

    『冥剣ハーデス』

    『災剣ケイオス』

    『界剣コスモス』 (全て父親の加護が付与されており、周囲の味方の体力を回復させる)】



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