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第百十一話  国家の存亡をかけて

「――軍の本隊を差し向けるしかない」


 凶報を受け取ったアレグラーム王国の国王――デルドス・イエルダム8世は玉座の間にて配下にそう告げた。


「楽園国家ヒルデリースは危険だ! 近づけば『緑魔石』によって正気を失う。即刻、討ち滅ぼすしかない」


 苛立ちが混じったその声に同意するのは、国務大臣のハーレスである。


「おっしゃる通りです陛下。――先日の作戦において、ヒルデリースには多くの脅威があることを確認致しました。『緑魔石』並びにそれを使う暴走者。そして、盗賊のダヤイ。前者は未知数、後者は裏の世界で名を馳せた賊です。早急に誅する必要があるかと」

 

 デルドス王は重々しく頷きを返した。


「『紅蓮大剣』エルバートと『疾霊弓』キードルですら仕留めきれなかった難敵だ。今、彼らはどうなっている?」

「左腕を壊死させられたエルバートですが、すでに王城の高位治療師が完治させました。問題ありません」


 高位の回復魔術なら四肢の欠損程度なら治すことは出来る。

 極論、命さえ無事ならば時間をかければ戦闘の継続は可能。


「『疾霊弓』キードルに関しても問題ありません。むしろ多大な情報をもたらしてくれました。『緑魔石』の出現の過程。その魔力。発動後の現象」


 ハーレスが手元の資料である羊皮紙を眺める。


「緑魔石は、衣食住――あるいは金。人が人として営むためになくてはならないもの。それらを生み出す魔術的な触媒です。あれ自体が強大な力を持つ魔術具といったところでしょう」

「つい先日、都市ギエルダをはじめとする数ヶ所で『青魔石』なるものが猛威を奮ったというが、緑魔石はその亜種――あるいは同系統の代物と言うべきか?」

「はっ、間違いないかと」


 未だ大陸の人々の記憶に新しい――青魔石。多くの都市や村に壊滅的な被害をもたらした悪名高き魔石。

 その亜種が存在することは、アレグラーム王城内で困惑を呼んだ。

 しかし、探索者ランク黄金ゴールドであるエルバートやキードルが必死に情報の共有を行い、過剰な恐怖心を抱かいよう奔走してくれていた。


 ゆえに、かろうじてではあるが、現時点で王城では大きな混乱は起きていない。

 しかし――。


「仮に『青魔石』と同等の脅威であるのなら、その対処も相応の難度になる」

「はい。ギエルダなどの都市で起こった例を考えますと、『青魔石』は統率者と石による暴走者と二つを生み出しました。――統率者は、迷宮の奥底に潜み統率を。暴走者は、街にて拡大と破壊を。――今回、ヒルデリースの場合、『王』を名乗るマーベンが暴走者ですな」

「統率者の方は?」

「そちらは不明。他にも盗賊のダヤイ、名前は不明ですが踊り子、商人など複数確認をしております。……現状では、まずマーベンの排除が第一目標となりましょう」


 デルドス王は沈痛な面持ちで唇を噛んだ。


「――おのれ、俗物が。私の王国で好き勝手を」

「心中、お察しします」

「すぐさま本隊の編成を完了させよ。強行でも良い。あれを――ヒルデリースを陥落させよ」

「しかし陛下、緑魔石使いのちからは強大、ランク黄金ゴールドですら確殺は難しいでしょう。何か対策を」

「褒美の量を倍増させろ! 近隣国から集兵もだ! ――ハーレス、南からの徴兵はどうなっている!」

「それが……」


 ハーレスが途端に憔悴した顔つきで魔術具を取り出す。

 それは遠隔地の様子を映し出す映像系の魔道具だ。


 彼はそれを起動させた。


『ああ……食べ物が欲しい……食べ物が欲しい……』

『ヒルデリースに行けば食べ物が得られる。得られるんだ……』

『父さん! 母さん! 僕は行く! ヒルデリースに! もう住む家に困ることもない!』


 眩く、白い光を放って辺りに鮮明な輝き。その後に映し出されれる。

 その内容は、街の映像だ。

 過去を写し取ったもの。《記録》の魔術による過ぎ去りし光景。

 ヒルデリースから南十五キロに位置するリーグスという街の様子である。


『もうもう何も怖くない』『永遠の楽園に向かえるんだ!』

『この世の楽園!』『ヒルデリース! ヒルデリース! ヒルデリース!』


 映像が途切れる。また別の映像が現れる。

 人々は狂ったように欲望を叫び、浮かれ、熱を帯びたかのようにヒルデリースを目指していく。

 全ての記録映像が終わり、寒々しい空気が残る。重々しい沈黙が二人の間に流れる


「――この映像、これが過去のものだとしたら、もはやこの街は廃墟同然か?」

「おどらくは。……概算で七割の人間がヒルデリースへと移住しました。残った者が説得や阻止に向かう――あるいは復興活動をしておりますが、朗報はありません」

「おのれ……どこまでも私の国を蝕むダニが……!」

「――この映像自体、放置されていた魔術具を、調査に向かった探索者が拾い上げたものです」

「それは……記録を残そうとした映像の主も、今では『緑魔石』に当てられて、ヒルデリースに向かってしまったと?」

「はっ。認めたくないですが、その通りかと」


 デルドス王は天を仰ぎ、祈るように目を瞑った。

 もはや一人の強者や一国では到底解決出来ぬ事態だ。早急に応援、並行して軍事力の招集を行う必要がある。


 デルドス王が目元を揉む。当初予期していたものより遥かに厳しい現実に苦々しい声が漏れる。


「……軍の編成には、近衛騎士団もつけさせよ」

「はっ。……いえしかし陛下? 、王族を守る騎士団を、ですか?」

「無駄な心遣いだ。――この映像や報告によれば、『緑魔石』はすでに相当な被害をもたらした。強い拡散性・魅了性を持っている緑魔石は、一刻も早く対処せねばならない危険物だ」


 近隣の街や村の人間がヒルデリースに取り込まれたとなれば、いまヒルデリースは元の何倍にも戦力を拡大しているだろう。

 通常兵力だけでそれを解決するのは不可能だ。

 それを言外から感じたのだろう、ハーレスは無言で頷き、


「……承知いたしました。近衛騎士たちに説明致しましょう。協力してくれる探索者たちにも奮戦を促します」

「この際だ、報酬は金でも銀でも授けてやれ。このままでは我がアレグラーム王国ごと取り込まれる。それだけは防がねばならん」

「承知。……では、私はこれより伝達や各所の指示に向かいます」


 深い礼をし、大臣ハーレスは玉座の間を後にした。

 残されたデルドス王は、顔を覆い、呻くような声を漏らした。


「王国が……王国が傾きかけている……なんと恐ろしい……『緑魔石』。これが青魔石の亜種の力なのか?」


 配下の前では決して見せることの出来ない、強い不安や焦燥が、そこからは感じられた。



†   †



「軍旗を掲げろ! 角笛を吹かせ! 我らはアレグラーム王国の剣にして盾である!」

「我が国を守るは我らの誉れ! 悪しき楽園を名乗るヒルデリースに鉄槌を! 我らに勝利を! 勝利を!」

『おおお、おおおおおおおっ!』


 二週間後。アレグラーム王国、王城の大広場にて。幾多の戦士たちが集っていた。

 王国の騎士団、近衛兵騎士団、傭兵、探索者、それに付近より集めた辺境の魔術師たち。

 いずれも腕に自身があり、王国戦力として要となる集団である。

 特に、騎士団は総数四万。装備も充実、この日のために鍛錬を行ってきた。


 さらには近衛騎士団も特殊な装備を新調し、準備は万全。

 大広場には収まりきれず、全体の半数以下ではあるが、今回の軍事に参加する者たちが整然と居並んでいる。

 その圧巻たるその光景を、見下ろすかのように、王城――バルコニーからデルドス王は声を張る。


「諸君! 楽園国家ヒルデリースなるかの国は我らの民を、人身を惑わした! 度重なる人材の漏出、破壊活動、洗脳じみた演説など愚行は多岐に渡る! だが我らは決して屈してはならない!」

『我ら、陛下の剣にして盾!』――アレグラームに栄光を!』『ヒルデリースに終焉を!』

『おおお!』『おお、おおおおっ!』


 怒号のような、喝采と蛮声が響き渡る。

 それは邪悪を滅する戦士の咆哮。平和を愛する正義の鬨の声。

 怖気づいてはならぬ、退いてはならぬ。我らは王国の剣と盾を司る者。ゆえに陛下の配下として栄光たれと。

 激しい蛮声を前に、デルドス王は叫びをさらに大きくする。


「諸君らの道行きに、栄誉の勝利があらんことを! ――出陣せよ!」

『出陣っ! おおおおおおおおおおおおおおおおっ!』


 甲冑を、あるいは武器を、魔術具を打ち鳴らし、討伐軍は動き出す。ヒルデリースへ。悪鬼へ。人心乱す、悪しき国家を誅罰するために。

 


†   †

 


「――これだけの兵、よく集まりましたな」

 

 従軍より数時間。

 部下の一言に団長である男が頷いた。

 王国近騎士団、団長――ガレス。壮麗な臙脂色の鎧に身を包み、国旗である鷲と剣をあしらった旗を持つ美丈夫である。

 彼は兜のひさしを開け、ガレスは部下の声に応じた。


「確かに。何しろあれだけの国家だからな。少数精鋭では勝てぬ。正面から力で粉砕すべきと陛下のご命令は正しい」


 今回、用意されたのは五万を超える。

 王国の騎士団、近衛騎士団を含めて四万余り。

 それに探索者や傭兵を集めれば総数は五万超。わずか二週間で集めた戦力としては異例の大軍だった。


 広大な平原を突き進みながらガレスは続ける。


「予備兵力として近隣国家の兵士三万人も伏せさせている。ヒルデリースに未来はない」


 此度の軍勢、控えめにいっても余裕。場合によっては過剰戦力にすらなるとガレスは踏んでいる。

 報告から、たしかにヒルデリースは支配性に秀でた脅威だ。

 だが青魔石と違い、直接的な破壊性は薄い。

 ヒルデリースのギルド騎士、ラーマスやレイザなど、優秀な者が出向いたにも関わらず制圧出来なかったのは、ひとえに戦力を小出しにしてしまったから。

 

 ゆえに、戦力を集中させれば負けない――そうガレスは分析していた。


「我らには切り札もある。敗北はあり得ぬよ」


 精強な騎士団を率いるガレスだが、もちろんそれだけでは不足の可能性もある。

 ガレスは自ら辺境に赴き、『隠者』としてこもっている強者たちを数名呼び込んだ。


 彼らはかつて国内が国外で高名であった実力者。元探索者や元ギルド騎士であり、様々な理由で引退した者たち。

 一線からは退いたが、今なお一流の戦力として健在な戦力を持つ。

 彼らを切り札の一つとすることで、不測の事態にも備える。


 そして、他国からの予備兵力。

 デルドス王はもしもの際の保険として、近隣の三ヶ国に応援を求めた。

 リーベルド王国、フラーレ王国、ブエド王国。いずれも軍事に秀でた国であり、アレグラーム王国と親交も深い国々。

 それぞれが一万、計三万の兵士を貸し出し、有事の際の切り札として伏せさせている。

 仮に王国軍が半壊したとしても、挽回できるほどの精強な兵士たち、精鋭の中の精鋭を選りすぐらせた万全の布陣と言えるだろう。


「(――勝てる)」


 団長ガレスは思った。この戦、必ずや我らの勝利となる。

 ヒルデリースは落ち、アレグラーム王国の栄光は諸国に轟くだろう。

 そう確信し――やがて討伐軍はヒルデリースへの領地へと近づいていく。


 それぞれが魔術で『加速』や『低浮遊』の力を得ている。

 そのため常人の何十倍もの速度での移動だ。出陣前、数々の加護を得た彼らは驚異的な速度でヒルデリースへの進行をしていた。


「――団長、間もなくヒルデリースの領地内に入ります」

「よし。全体、速度落とせ! 第一中隊、第二中隊は先行。その後、第三から第八中隊までを攻撃の要とする!」


 広域に声が響き渡るよう、『拡声』の魔術を用いての命令を行う。

 数十人の兵士たちが強化された脚力でヒルデリース領地に入る。

 それを後方でガレス以下、四万人が見守る。

 ヒルデリース側は迎撃か、静観か――いかなる事態にも対処出来るよう、ガレスたちが見つめていたとき――。

 

「――っ! 団長! 直上より高魔力反応! これは」

「っ! 全部隊、防衛の魔術を張り、攻撃に備えろ! 奇襲だ、直ちに――」


 刹那、ガレスの脳天に巨大な『光の槍』が突き刺さり、彼は全身ごと爆散させ絶命させられた。



†   †



「――軍人の欠点は、相手も同じ軍人だと錯覚することだ」


 ヒルデリースの王城、玉座の間。

 酒樽の中の高級酒をたっぷりと杯であおり、飲みながら、マーベンはせせら笑う。


「軍人は軍律を重んじる。軍事には軍事の慣例に基づいて戦を進めようとする。――それがそもそもの間違いだ。戦いにルールなど無い。勝手な美意識こそ貴様らの敗因よ」



†   †



「馬鹿な!? 団長のガレス殿が戦死した!? それは本当なのか!?」

「真偽不明! 確認中! ですが本隊は壊滅との情報も!」

「そんな……どうすればいい!? 指揮はいったい誰が執るのだ?」

  

 開始一秒で――総司令官である団長ガレスが戦死した。


 その事実の前に、討伐軍は狼狽え、混乱の極地にあった。

 それぞれが事実確認や敵兵の掌握を試みるが、どれもが失敗。

 勝利の美酒を確信していた軍は余りに脆い。統率者たるがガレス失った彼らは、まさに烏合の衆と成り果てた。



†   †



「軍人の短所は、優勢のときに指揮官を失うと大きく戦力が減じることだ」


 ヒルデリースの玉座にして、マーベンはせせら笑う。

 彼が行った行動は単純だ。

 緑魔石の力により大金を召喚――『狙撃用の超遠距離魔術具』を買い付け、ガレスへと狙撃を行った。

 

 その名を――『魔槍ゲレグエーザ』。魔力を収束させ、黒光の槍として射出する古代の魔槍。

 ガレス団長の失態――それは相手が軍人でもギルドでもなく、元悪徳領主マーベンが、結果のためならば手段を選ばない外道と失念していたことだろう。


†   †


「ええいいったいどうすればいい!? ガレス団長は!? 本当に戦死したのか!?」

「そのようです! 今はモークバ副団長が指揮を……!」

「しかし、全体の指揮をするには軍が広がりすぎています!」

「ええい敵の狙撃手はどこだ!? 反撃を……!」

「無理です、指揮系統が乱れています! これでは軍の統制が……っ」


 その直後。さらなる悲劇が彼らに降りかかる。

 『尖塔』が。 

 突如として、先行していた中隊が『地面より生えた尖塔』に阻まれたのだ。陽光を遮らんばかりの威容。人造物としてもあり得ぬほどの白く、白く、白亜の巨大物。

 本能的に人の恐怖を呼び起こす様に兵士たちは動揺を隠しきれない。


「なんだあれは!?」「いきなり塔が!?」

「な、何事だ!? 防御隊形を――!」


 空へと屹立する鋭利な尖塔。圧巻であり、何者をも拒絶する白く潔癖な色彩の塔の林立。本能から怯えさせる禍々しいう魔力。

 先行中隊が思わず立ち往生する。


「報告にあった、『住居を生み出す』タイプの緑魔石の被造物……! 総員、訓練通り迂回しろ! 所有者を無力化すれば突破も――」


 だが、そう叫んでいた中隊長が、足元から尖塔を出現させられ吹き飛んだ。後方の騎士たちも巻き添えを食らって弾かれる。

 爆裂音と衝撃音。魔力の莫大な流入。討伐軍のの混迷はなおも広がる。広がり続ける。



†   †



「ハハハハハハハハハハ!」


 マーベンは笑う。愚かしき軍人どものを。常識に縛られた哀れな兵士たちを。


「指揮官を失った大軍は弱い、弱すぎる」


 記録用の映像魔術具で戦場を眺め、マーベンはせせら笑う。


 彼はあらかじめ遠距離、防衛、撹乱に長けた緑魔石の所有者をヒルデリース領地外縁に配置、先制攻撃の要とした。

 その上で軍律や慣例を無視した奇襲を敢行。

 人間同士の『真っ当な』戦闘に慣れていた騎士たちを半壊させていった。

 残った近衛騎士も同様。


 例外なのは探索者や隠者と呼ばれている者たちだ。

 だがもとの数が違う。注意すべき敵ははざっと見積もっても数千人。

 対して、マーベンは九万の《エルダーシュバルツゴーレム》、緑魔石の使い手を有する。


 マーベン自身、『金を無限に生み出す』力で貧者を味方に付けている。話術で有能な妨害・奇襲能力を持つ者たち。

 その数、じつに四万人に及んでいる。

 総数はアレグラーム王国の討伐軍を軽く上回る。

 探索者や隠者たちだけでは到底太刀打ち出来るわけがない。


 先手でガレス団長を失ったことを含め、もはや討伐軍は状況打破するのは不可能といえるだろう。



†   †



「――壊滅、しただと……? 討伐軍が……こんな早期に……?」


 デルドス王は伝令が伝えてきた報告に、驚愕の顔を浮かべながら叫びを発していた。


「はっ。複数の兵士から報告を受信。団長ガレス殿をはじめ、主力部隊が大打撃を受けたとのこと」

「そんな……馬鹿な。信じられん……」

「一部の探索者や隠者たちが応戦しているようですが、敗戦は濃厚かと。……陛下、進軍は、失敗です」

「こんな……!? 馬鹿な、たった数時間で、敗退だと……?」


 デルドス王は戦慄き、震えた。

 アレグラーム王国は決して戦争が得意な国ではない。とはいえ過去に戦争がなかったわけではない。

 軍略や各種知識は蓄えられ、現在まで受け継がれてきた。

 団長のガレスに関しても、戦争が多い国から引き抜いた、叩き上げの軍人だ。


 その彼が――指揮する軍が壊滅。これほどあっさりと? デルドス王は困惑で平常を保てず、玉座の上で震える。


「か、確認を。今すぐ確認をしろ! 国庫の半分を費やして派遣した軍隊だぞ!? 装備も存分持たせた精鋭が、敗北など!」

「しかし陛下、現に報告では――」


 デルドス王が恐慌に陥るその瞬間。


 

 ――狼狽する彼らの目の前に、突如『緑魔石』が出現した。


 

「――っ、これは……っ」


 神々しく、宝石よりも美しい――怪しく光輝くソレ。人間の『美しい』と感じる感性を――極限まで刺激させ、虜にする悪辣なる物質。

 悪魔の如き輝きと魅惑的な光沢。

 『緑魔石』。

 デルドス王は――震えた。本能がこれを欲していると叫んでいる。心の奥底から、コレが自分に必要なものだと訴えかけてくる。



「あ……あ……あ……」


 そのときの感情を、デルドス王は言語化出来ない。

 人知を超えたその輝き。それを前に喘ぐのみ。

 配下のハーレスや、伝令の兵士たちも震え、その光景に硬直する。


「緑……魔石!? 馬鹿な、こんなところに出現するなど――!?」


 次の瞬間、濁流の如く呪いの思念が溢れてきた。

 

 ――金を欲セヨ金を欲セヨ!

 ――失った金の代わりに金銀ヲ! 宝石ヲ! 

 ――諸君らの国庫ヲ! 賄う財産ヲ! 金ヲ金ヲ金ヲ!金ヲ!

 ――諸君らが奮戦するための金を金を金を金を金を金金金金金金ヲ――――!


 デルドス王の思考を、緑魔石の呪いが支配していく。常人たる理性は駆逐され、冷静な判断や戦略的な思考が不可能となる。

 大臣ハーレスのもとや、伝令の兵士の前にも『緑魔石』が出現する。思考が薄まる。消える。あらゆる常識や理念が押し流されていく。


 ――金を金を金を金を金を金を!

 ――金ヲ金ヲ金ヲ金ヲ金ヲ金ヲ!

 ――金ヲ金ヲ金ヲ金ヲ金ヲ金ヲ!

 ――金ヲ金ヲ金ヲ金ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ――――ッ!

 

「はは、ハハハハ! 私は……ッ!」


 デルドス王が狂気の笑を浮かべ、ハーレスや伝令の兵士も涙を浮かべ、歓喜する。


「私は! 私はなんと愚かなことをしていたのだろう! 愚鈍にもヒルデリースを潰すなど! それは世界に仇を成す愚かな行為である!」

「おっしゃる通りです! 陛下、私たちはとんでもない勘違いをしておりました!」

「ヒルデリースこそが世界の正義! 彼らのために、我らは生きねばならない!」

「――伝令を! 我らは過ちを犯していた! ヒルデリースに! 同盟の打診を!」

「そうだ、ハーレス! 急げ、急げ、急げゲゲゲゲゲ!」


 王城の中に、いくつもの『緑魔石』が出現する。

 住居が欲しい、金が欲しい、衣装がほしい、美食なる食べ物が欲しい――それら、人が安寧に暮らすための欲求が、極限まで増幅された彼らは、理性なき人間と化し、統率的な行動が不可能となっていった。



†   †

 


 ――翌日。

 アレグラーム王国は、ヒルデリースを味方と称し、『同盟国』として約定を交わした。


 これには、多くの周辺諸国が驚愕に陥った。

 大国であるアレグラーム王国がまさかの愚行。そして脅威の増大。

 のみながらず、その二日後には『合併』を発表。アレグラーム王国は国政を放棄する。

 そうしてヒルデリースは、新たに『楽園国家アレグラーム・ヒルデリース王国』として改名し、国力を倍加させる。


 それは、かの国が戦力、人口共に倍加したことに他ならない。

 ゆえに周辺諸国は震え上がり、対策のための緊急対策会議を行うことになる。

 


お読みいただき、ありがとうございます。

次回の更新は6月18日、20時の予定になります。

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