表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/167

第九十二話  ギルド騎士の驚愕

「……これは……」


 その日。都市ヒルデリースのギルド中央支部、ギルドマスター・ブロスは、一つの異変に気づいた。


「何だこれは。いくつかの区画で金の変動が起こっている? ……それに、人の移動も。少し尋常ではないな」


 ギルドマスターである彼は、日頃から都市ヒルデリースの異変や異常を察知している。

 その職務上、部下のギルド騎士や職員から上がってくる情報は膨大でもある。


 一筋縄ではいかないが、彼は持ち前の処置能力の高さでこなしていた。

 だがその日、ブロスは都市の各施設の資産を調べていたところ、明らかな異常を発見していた。


「騎士ラーマス! ラーマスよ!」


 いくつかの羊皮紙を置き、ブロスはすぐに腹心の部下を呼んだ。


「……はっ! お呼びでしょうかブロス様」


 急いで息せき切って走ってきたのは、精悍な容姿の若者だ。

 白銀の鎧に土や泥などがついているところを見ると、任務から帰った直後らしい。


「任務直後ですまんな、緊急の要件を頼む、ラーマス」


 ラーマスは折り目正しい礼を行う。


「はい。何なりと。我々はギルドマスターの手足です。用向きがあれば何でも……して? 今日はどう言った案件ですか?」


 ブロスは一拍間を開けて答える。


「じつはな、都市各地の資産について調査書を見ていたところ、以前より遥かに金の動きが盛んでな」

「盛ん……と言いますと?」

「必要以上に動きが大きすぎる。――いや、これまでも内争や『特進種』騒ぎの時もあったが、それよりも急過ぎる」


 この世界は、『十一の地下迷宮』とその奥地の宝を求める『探索者』で成り立っている。

 内輪もめや希少な魔物を巡る争いは当然ある。

 だがブロスは経験からこれまでの件とは違うと疑っていた。


「中流層の第四区画を中心に、大きな金の流れがある。それと第十二区域にも大規模な資産の運用だ。それぞれ金貨数百枚……何か不自然さを感じる」


 ラーマスは眉をひそめる。


「中流層の第四と言えば、新参の『探索者』で賑わった区域ですよね。そして十二区域は……踊り子の『天上の舞姫』が活躍している区域だったかと思いますが……」

「ああ、確か『ダールドス』と『マリナ』だ。その『探索者』と『踊り子』が賑わせている界隈。そこがどうも……きな臭い」

「……きな臭いと言うと……具体的には?」


 ラーマスの不安そうな顔を見て、ブロスは羊皮紙の報告書を何度か読み直す。


「第四区画は、十日連続でギルドに金貨七百八十枚相当が動いている。『素材』や『魔石』だな。――第十二区画では富裕層からの移動で金貨九百五十枚が各地に出回った。―― 一探索者や一つの踊り子一座が活躍したには、妙だ」


 ラーマスは頷いた。

 通常、そこまで少数の人間で数百単位の金貨が動くことなどない。

 高位探索者なら取り引きであり得るが、普通の民衆でそのやり取りはあり得ない。


「しかし……探索者は時に思わぬ収穫をもたらすものです。踊り子に関しても、噂を聞きつけた富裕層が踊り子を間近で見ようと移住しただけでは?」

「私も当初はそう思った。だが二つとも『予兆』がまるでなくてな。そのことが気に掛かっている」


 ラーマスは口を閉ざした。

 有望な探索者が他所からやってきた場合、あるいは有名な踊り子一座が活躍し、客や仲間が金を動かし市場が動くときはある。

 だがそれには予兆がつきもの。


 金を使うのは人である以上、前触れはある。

 だがそれが今回は無い。


「第四区画は、これまでさほど目立った動きはなかった区画だ。言ってしまえば『二流』だな。探索者はそれほどではない」


 ギルドマスター・ブロスは続ける。


「そこに、わざわざ凄腕の『探索者』が現れて活動などするか? それに、第十二区画についてもそうだ。『天上の舞姫』がいる踊り子一座は、私も知っているが……あそこは準一級の踊り子はいるが、富裕層が夢中になる程ではない」

「……『突然』、両方とも活動が活発化したと?」

「そうだ、そうとしか思えん」

「それは……」


 ラーマスは息を呑む。

 凄腕の探索者が高額の素材や魔石。


 それを《迷宮》から持ち帰ればそれだけで武具屋や宿屋が潤うだろう。

 店が潤えば他の『探索者』も分きし、『俺も続け!』と活発化する。

 踊り子一座にしても同様だ。

 人気の踊り子が名を馳せればそれは『スター』の誕生で、富裕層や資金に余裕のある探索者や商人が金を落とし、その踊り子はその金で贅沢な食事や高級な衣装を買う。市場が動く。


 それが通常の金の動き方だ。

 だが今回は全くぞの事例と当てはまらない。


「まるで、凄腕の『探索者』や超人気の『踊り子』や『急に』現れ、金が動き出したかのようだ……」


 ラーマスは寒気がした。

 ブロスは警戒心をあらわにした声音で語る。


「通常、『探索者』は強者がいる区画で活動するもの。彼らとて人間、《迷宮》に挑むのだから有望な探索者と切磋琢磨しながら戦う。――踊り子にしてもそうだ。高名な一座で有望な踊り子が踊るからこそ人々は感動し、金を流す」

「それが……今回はどちらも不自然に突発し過ぎだと?」

「その通りだ」

 

 これまで、こうした事例がなかったわけではない。

 たまたま凄腕の探索者や踊り子が現れただけの可能性もある。


 だが『臭う』のだ。齢五十歳となり、数々の難件をこなしてきたギルドマスター・ブロスは、この二つの区画から『異常性』を嗅ぎ取っていた。


「……わかりました。そうであれば私が調査致しましょう」


 ラーマスが頷く。


「なに、どちらも数度行ったことのある界隈です。土地勘は十分かと」

「人員は大丈夫か? 必要なら補佐の騎士を何人か寄越すが」


 ラーマスは小さく笑う。


「ブロス様。私はあなたの腹心です。これまで単独でいくつも難事件を解決してきた事をお忘れですか。それに、私一人で難しければ応援を頼みます」

「……そうか。頼りにしている。では《二級》騎士ラーマス。今より貴君に第四区画、及び第十二区画を調査せよ! 速やかに原因を特定し、報告を!」

「了解! 今度もブロス様のため、全力で励んでみせましょう!」


 

†   †



 ――二時間後。騎士ラーマスは第四区画の裏路地にいた。


「ひとまず人々の様子に特別な異常は感じられない、平和な光景だ」


 ラーマスはそれとなくいくつかの通りを横断した。


 だが浮ついた雰囲気やおかしな様子が感じられない。

 中級程度の『探索者』や、中堅の行商人や行き交い賑やかなもの。


 無害な市民が何人も行き来し、それぞれの人税を楽しく謳歌する――そんな風にしか見えない。

 とても大きな金が流れたとは思えない。


「原因はやはり、『金貨七百八十枚分』――それらの素材や魔石を調達した『探索者』か。名前は、『ダールドス』か。よし、まずはこの男から洗ってみよう」


 みすぼらしい新米探索者の風貌に変装しているラーマス。

 彼は、汚れた剣や盾を持ちながらこの区画のギルド支部へと足を運ぶ。


 中堅ランクの装備や、ローブをまとった剣士や魔道士、それらの仲間と思われる者たちと愉しそうに歓談している。

 あるいはクエストの依頼掲示板を覗いている者も。

 どれも日常のギルドの光景。


「平和そのものだな。……ん、あれは」


 しばらくギルド内の端で様子を伺っていると、新たな探索者が顔を見せた。


 瞬間、周りの雰囲気が一変した。

 傍目には、さほどの変化はない。しかし全ての探索者たちから『羨望』や『嫉妬』の視線が見え隠れする。

 現れた探索者を見た瞬間、彼らは否応なく意識させられていた。


「(……あれが、ダールドスか?)」


 ラーマスは即座に彼を凝視する。

 見た目は精悍な偉丈夫だ。

 鍛え上げられた肉体、手入れの行き届いた髪。背中には大きな剣を背負っており、左腕には豪奢な盾。見ただけで『やり手』の探索者と判る、明らかな強者だった。


「(――な、なんだと!? なんて強さだ)」


 ラーマスは驚愕した。ダールドスが、予想より遥かに強かったからだ。

 ギルドに所属する人間は大半が『鑑定眼』と呼ばれる魔術を保有している。事件が起きたとき、いち早く状況を把握するための魔術。

 しかし今、ラーマスの視界の中で、信じがたい光景が映し出されていた。

 


【ダールドス(本名不明) 四十七歳  探索者 レベル57

 探索者ランク:『黒銀ブラックシルバー』 

 クラス:バスタードウォーリア

 体力:576  魔力:356  頑強:592

 腕力:587  俊敏:328  知性:487

 特技:『大剣技Lv11』 『格闘技Lv10』 

 魔術:『火炎魔術Lv8』 『氷魔術Lv8』 『雷魔術Lv8』

『補助魔術Lv8』 『鑑定眼Lv8』 『感知魔術Lv8』 『回復魔術Lv9』

 装備:『霊剣エグドバシル』『ヒヒイロカネシリーズ一式』『■■■(判別不能)』

 スキル:『剛剣Lv8』(打ち合った相手の武器や部位を破壊することが出来る。確率はレベルの高さによる。現在は六割の確率)】

 


「(……強い!)」


 ラーマスは即座にそう断言した。

 並みの探索者やギルド騎士よろ遥かに強い能力値、強力な装備。


 特に防具、『ヒヒイロカネ』と言えば特殊な加工でなければ作れない、高ランクの装備品だ。

 それを一式揃えるなど高位探索者でも難しい。

 今は『ランク黒銀ブラックシルバー』となっているが、その上、『ランク黄金ゴールド』でも持っている者は少ない希少武装だ。


 さらにはスキル『剛剣』で相手の武器や部位を破壊も出来る。何度も試せばほとんどの相手を無力化することすら出来るだろう。

 それだけでラーマスは驚愕に達していた。


「おう受付のお姉さん。また魔物を狩ってきたから鑑定頼むわ」


 ダールドスは、背負っていた荷物袋を下ろし、カウンターの上にばら撒いた。


 それは貴重な素材の数々だった。

 ミノタウロスの角、ゴーレムの腕、グリフォンの羽からオーガの鉄球。

 どれも手に入れるのが難しい素材だ。それもほとんど傷を付けず、完全な形で提供している。


 これだけあれば、金貨百枚は固くない。数年は余裕で過ごせる価値だろう。

 加えて、魔物の核である『魔石』もランク四や五が混じっている。それらだけでも相当な価値だ。


「あ、は、はい。……いつもながらダールドス様は、素晴らしい成果でございますね」

「くく、まあな。奮起したからな。どうだ? この俺の活躍は」

「はっ! 探索者広しと言えど、ダールドス様ほどの方はそうはいません」


 ダールドスは笑みを浮かべた。


「ふん、世辞もいいな。――どうだ? 今晩、一緒に食事でも?」

「……申し訳ありません。お仕事が残っていますので、残念ですが」

「そうか。振られちまったな。仕方ない、換金だけして帰るとしよう」

「はい、承りました」


 そんな一連の会話を、ラーマスは茫然とした様子で見ていた。


 ふと我に返ると、周りの探索者も似たような有様で眺めている完全にダールドスの成果や風貌に圧巻されていた。

 ダールドスは外見だけではなく成果まで一流。間違いなく有能な探索者だ。


 だが、直後に疑問が残る。


 なぜ彼は、こんな二流の区画で活動しているのだろう?

 普通ならもっと上質な装備に身を固め、高ランク探索者と肩を並べるはずだ。


 高レベルの魔物は高レベルの探索者でなければ倒せない。それが当たり前。

 だがダールドスはそれを避け、口ぶりからすると『ソロ』で《迷宮》へ潜ったらしい。

 それは少し不自然だ。あの、悪鬼羅刹はびこる、《迷宮》にたった一人で。

 それだけでダールドスの異常さが判る。


「(……それに)」


 ラーマスは内心で警戒する。

 彼の名前に、『ダールドス(本名不明)』とあった。


 これは、本来の名前ではない証であり、偽名で活動をしていることを意味する。

 偽名事態は、元貴族の御曹司や、亡国の王子などが資金を稼ぐため使われる場合がある。

 だがダールドスの仕草からはそれらは感じられない。

 まるで――どこかもっと『下級』の界隈で育ったような。


「(言動からすると、『下級層』……? から出てきたような雰囲気……いや、まさかな)」


 ラーマスは頭を振る。

 ここ都市ヒルデリースは、完全な階級制度だ。


 生まれつき貧乏な者は『下級層』に、そうでないものは『中級層』に配置される。

 そして目覚ましい成果を上げた者は『上流層』と呼ばれる特権区域に案内され、快適な人生を過ごす。


 その三段階に分けられて生活している。


 これは、『下の人間がいると分かれば自然と人間は奮起する』と言った、都市創設者の意向だ。

 一定の成果も出している。


 『罪を犯せば下級層に落とす』――という法律もあるため、『中級』以上の者は自然と奮起していく。

 このギルド支部のある区画も『中級層』だ。それなりの教養はあるはず。


 だが、ダールドスからはまともな教育を受けていない――言うならば『孤児』のようなガサツさを感じた。

 それは、些細なレベルとは言えるが。


 豪快な探索者ならこういう者もいるだろう――その程度の。

 それでもラーマスは、ごくわずかな『違和感』を覚えずにはいられなかった。


「……試してみるか」


 ラーマスは意を決して、ダールドスのところへ向かっていった。


「あの、すみません」

「あ? なんだ、小僧」


 ダールドスは換金を終え、どこへ行こうか思案している作業をやめて振り返った。


「あなたのことは噂に聞いています、ダールドスさん。私はラルマス。新米の探索者です。あなたの事はうかがっておりました。ぜひあなたのようなような強者と、《迷宮》でパーティを組んで頂きたい」


 予め取得しておいた、偽名と探査者身分を持ち出して交渉する。

 もちろん、このギルド支部にも手は回しており、受付嬢たちには『ギルド騎士ラーマスがラルマス』という偽名で調査していると、ギルドマスター・ブロスから伝えられている。


 ギルドマスターの経由のため、情報秘匿は絶対。魔術によってラーマスの正体も話せない制約を課している。

 ラーマスが調査員と判る人間は他にいないはず。


 だが、ダールドスは、突然の申し出に対して。


「……んー」

 一瞬だけあごに手を当て、

 

「――あんた、ギルドの調査員だろう?」

 

 驚愕で、ラーマスは心臓が凍りつくかと思った。

 馬鹿な、そんな……と冷や汗が一瞬で吹き出し、軽兜から汗が一筋流れ出る。


「いえ、私は……っ」

「いや、そろそろ来ると思っていたんだよなぁ。――金は得た。地位も。装備も。だが突然の有望探索者の出現に、ギルドが怪しんでもおかしくない。予想通りだったな」


 ラーマスは青ざめていた、一瞬、自分の首が彼の大剣で吹き飛ばされる幻影を見てしまう。

 それほど、ダールドスは不穏な声音を吐き、またそれも辞さないだろう威圧感も備えていた。


「それは……その」

「まあ、ギルドの人間が目をつけたと判った。俺としては十分だ。――ラルマスと言ったか? 俺も『鑑定眼』を嗜んでいるから言うぞ? 『鑑定眼』を使うときはもう少し注意して使いな。――他の奴より明らかに凝視して使ったんじゃ、『私はあなたを疑ってます』と言っているようなもんだぜ?」

「それは……」


 ラーマスは歯噛みする。完全な失態だ。

 どうやらダールドスの方が一枚上手だった。


「……そ、それはその……忠告、感謝します……」

「はは、まあ真面目な小僧みたいだし、これから頑張れや」


 ダールドスは、さほど機嫌を損ねた様子もなく笑った。

 そして換金した金貨百数枚を携えると、ギルド支部を出ていってしまう。

 ラーマスは、己の未熟さに拳を握り、歯噛みした。


「(……油断した。これまで失敗らしい失敗をしてこなかったとはいえ、私はブロス様の腹心だ。ダールドスを欺けなかったとは……)」


 ギルドマスター腹心としてのプライドが軋みを上げる。

 ラーマスは、次の調査では不覚を取らないよう、留意すべきと自分に言い聞かせた。



 

 ―― 一方、ギルド支部から離れた大通り。その路地裏では。

「……ちっ、ギルドが嗅ぎつけやがったか。思ったよりは早いな」


 ダールドスが悪態をつきながら壁前で思案していた。


「ギルドの調査員が来たということは、俺の金巡りが良いことを嗅ぎつけたか? さすがだな。こうも短期間で荒稼ぎしてりゃ、気づく奴もいるわな」


 彼――ダールドスは元は偽りの戸籍を買って探索者となった男だ。

 本名は『ダード』――かつて『下級層』で『緑魔石』を得た人間である。


 忘れもしないあの日――借金取りに追われた後、『いくらでも金が出現する』緑魔石を得て、彼は探索者として荒稼ぎをした。

 結果、彼は大金持ちとなった。武力も備え、強盗などに襲われても対処可能。


 『緑魔石』の力は絶大だ。もはやレベル、装備、それらで敵う者などほとんどいない。

 しかしその金の扱いを察知し、不審を抱いたギルドの人間がいたらしい。


「ち、ギルドもアホってわけじゃなさそうだ。もう少し次は上手くやらねえとな」


 ギルドは隙があるとは言えこの街の統制も兼ねている。目をつけては危険。

 ダードは苦笑すると腰袋に入れていた金貨を叩いた。そして一考すると、裏通りへと向かう。


 訪れた先は、『整髪屋』と書かれた大きな店だ。

 ただしこれは見せかけだけで、『鑑定眼』を使えば『整形屋』と書かれているのが判るだろう。


「――いらっしゃいませ、お客様。当店にはどのようなご用で来店でしょうか」


 綺麗な礼を見せる整形師にダードは笑いながら言う。


「――『裏稼業』の方を頼む。今とは全く違う外見に変えてくれ」


 その瞬間、整髪屋の顔が一瞬で『整形師』――裏稼業独特の人間の顔つきに変貌した。


「……ふむ。ではどのような『整形』をお望みで?」

「そうだな……全く今とは違う風に。――骨をいじって『体格』を変えても構わない。『変化の魔術』で自由に出来るんだろう? 金はこいつで足りるか?」


 大量の金貨をカウンターへ置かれ、整形師は驚いていた。


「なんと金貨二百三十枚!? ! これは……ええ、お安い御用ですとも! 何か、失敗でもなされれて整形の希望を?」

「荒稼ぎしすぎてな。判るだろ? 急に稼ぐと騒ぎ出す連中がいるからいけない」

「なるほど。当店の情報もあらかじめて知った上で入店ですか。……口止め料を頂いても?」


 ダードは装備していた『ヒヒイロカネシリーズ』を脱ぎ、カウンターに置いた。


「これで足りるか?」


 整形師は驚愕の表情を浮かべた。


「な……これを、全部?」

「そうだ。俺がこの店で整形したことは誰には話すな。話せば殺す。俺には『感知の魔術』がある。誰かが俺の意志に反したら即座に判る魔術がな。――その首を取られたくなければ、今日整形した後のことは忘れろ」

「……は、はい。承りました。――それではお客様、どうぞこちらに」


 一瞬こわばった顔つきの整形師だが、そこは裏稼業の人間、即座に顔色を平常に戻した。

 ダードは笑った。おそらく、この偉丈夫の姿では最後であろう笑みを浮かべる。


「ああ、いい。金がある事は。色々なことが出来るからな。いつかもっと大それた事をしてみたいものだ。――さて、じゃあ早速『整形』してくれ。探索者ダールドスとはお別れだ。今とは似ても似つかぬ、全く違う別人にしてくれ」

「はい、全て承りました。お客様のご命令の通りに」


 ダードは心の中でほくそ笑んでいた。


「(金の動きを悟られても、すぐに整形して姿を変えられる。まったく、『金』というものは素晴らしいな)」


 懐にある、『緑』に輝く魔石を軽くなでながら、ダードは上機嫌に笑った。

 『緑魔石』はダードの願いを叶えてくれる。

 例え、金貨百以上を失おうとも、無限に金を生み、ダードのものとなる。


 そうして得た金を使い、豪遊生活をし、さらに人生を謳歌するのだ。

 まさに理想の魔石。


「(だが探索者では少し目立ちすぎるな。次はもっと違う『職』をやってみよう。なに、『金』ならいくらでも出る。――『酒場の主人』にでもなって、適当な女でも引っ掛けるか)」


 『金』があればいかなる立場に就くことも容易い。

 ダードは笑う。

 ラーマスの予想を遥かに超え、人智の及ばぬ強大な力で次の『誰か』に成り代わる。


 ――災いの種は、育ちつつあった。

 

 

お読み頂き、ありがとうございました。

次回の更新は5月29日、午後8時の予定になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ