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第九十一話  衣装のない少女

「はあ……綺麗な衣装が欲しいなぁ」


 とある中級都市にて。踊り子のマリナは、悩ましげに溜息をついていた。


 旅の一座に入ってから二年、前座の踊り以外の仕事をしたことがない。

 故郷では超一流ともてはやされ、村始まって以来の天才と言われたが、今は成果がない。


 今の座長に勧誘されて一座に入ってから、どの踊り子も煌びやかで自分より遥かに上だった。


 理由は明白だ。『衣装が地味』なのだ。

 故郷の村一番の仕立屋で作ったそれは、それなりに映えるデザインをしている。

 けれど一座のトップ踊り子のような煌びやかな衣装と比べると明らかに見劣りする。


 事実、客の声を聞いただけでも、「あの前座の娘、踊りは良かった」「でも衣装がなぁ」「なんか、地味だよね」と散々だった。

 座長にも言われたことがある。

『お前の演技は認める。だが上手い――それだけだ』、と。

 一座のトップにも引けを取らない、魅惑の踊り子。けれど衣装が地味――それがマリナへの評価だ。

 

 皮肉なことに、マリナの踊り子としての技量が上がれば上がるほど、衣装との差は広がった。

 いつまでも前座の踊り役から脱却できない。

 平時はトップ踊り子たちの雑用や予定管理、ほとんど小間使いだ。

 衣装を変えればどうかと思っても、座長の方針で『衣装は自前で用意すること』で叶わない。


 座長のガルナン曰く、『一流の衣装を用意出来てこそ一流。それが出来ないものは大成すべきではない』という持論がある。

 ガルナン座長にとって、衣装とは踊り子の手肌や髪の手入れと同じなのだ。

 『自分で整えてこそ』価値がある。

 普通の踊り子一座では、衣装は座長の管理するものだが、ガルナン座長はそれを譲らない。


 踊り子たちは、今日も自前で華やかな衣装を用意し、その舞いで客を魅了する。


「ああ……わたし他の一座に移れたらなぁ……」


 そう思っても後の祭りだ。

 今の一座に入座する際にマリナは『座長とその方針に従い、許可なく他の一座に移らない』という契約を交わした。


 それがある限り、マリナは他の踊り子一座に移ることは出来ない。

 仮にやろうとしても用心棒役の男たちに連れ戻されて終わりだろう。


 屈強な用心棒からは逃げ切ることなど出来ない。

 過去にはルールを犯し、他の一座に行こうとした踊り子がいたらしいが、半殺しに遭って連れ戻されたと聞く。


「ほら、マリナ、何を呆けている! 練習する気があるのか!」

「は、はい! すみません!」


 街から街への移動の最中、広い馬車の中での練習中に、座長の罵声が飛ぶ。

 馬車の休憩中に当てられた踊り子たちの練習時間だが、今日もガルナン座長の指導は厳しい。


 一流の踊り子を育て上げるため、指南に余念がなかった。

 そんな不遇がマリナの日常だった。


 

「――あんた、まだ下っ端やってるの?」


 それから数分後。休憩の間際に『トップ』の踊り子の一人、アネーシャの嘲るような声が向けられた。


「え? は、はい」

「あたしより半年先に入ったのに、未だに下っ端やってる~。あは! ウケるんだけどぉ」


 その笑いは蔑みであり、嘲笑だった。自らより下のマリナを見下す口調だ。


「そ……そう、ですね。アネーシャさんのように上手くなれば、いいのですけど」

「ぎゃはは! 無理、無理! だってあんたの衣装、ダセーもん。そんな服じゃ、ジジイだって落とせないって! いつまでも下っ端!」

「……」


 アネーシャの取り巻きである別の踊り子三人が笑った。

 アネーシャは元々、後輩としてマリナより後に来た踊り子だった。

 だがガルナン座長にいち早く気に入られ、一座の中のトップ層へと躍り出たのだ。


 以来、後輩としてより『一流踊り子』としての視点で嘲ってくる。


「顔と踊りしか能がないマリナ! チンケな衣装のマリナ! いっそ座長と『寝て』しまえば、あたしらの仲間入できるかもよ?」

「あは、アネーシャさん、それは無理ですってー。うちの座長、男にしては妙に潔癖だから、枕営業は通じないですからぁ」

「そうだね、それはそうだ!」


 取り巻きの踊り子が甘ったれた声で笑う。


「うちの座長は真面目で堅物だしね! ま、だからこそ腕や衣装を純粋に評価してくれるけど」


 アネーシャが笑うと、激情がマリナの中を這い回りかけた。


「……っ!」


 人の努力を、こけにして。私がどんな思いで……っ!


 しかし、我慢する。

 世間一般的にはアネーシャらの衣装が『一流』であり、辺境の村の職人のマリナの衣装より、そちらの方が上なのだ。

 残酷だがマリナには言い返す気力も立場もなかった。


「あんたはずっと前座と下っ端やってりゃいいんだよ」

「そうそうそれが身の丈に合ってるって!」

「……そう、ですね。地道に踊りを磨いて、服代を稼ぎます」

「きゃは! それが世の中渡る秘訣だって!」


 アネーシャが小馬鹿にした笑みで笑う。

 取り巻きが追従する。

 マリナは拳を握り、震えた。



「ああ、悔しい悔しい悔しい!」


 どうして自分は評価されないの!?

 こんなにも努力しているのに!


 マリナは自分の部屋に戻るなり吠えた。

  

 判っている。衣装のせいだ。地味で、華の足りない衣服のせい。

 でもこれ以上どうにも出来ない。

 故郷には帰れず、一座を抜け出す事も叶わない。

 

 ――いっそ、金持ちの客と寝てしまうか? 

 ――駄目だ、そんな不潔な事。

 ――でも、一流の踊り子になりたくないのか? そのために一座に入ったのに?

 

 マリナの中で、自暴自棄になりかけた自分と、理性的な自分が行動をささやいてくる。

 それが苦痛だった。いつまでもそれは悪夢のように回っていた。

 やがてマリナは疲れた様子で、寝床に入った。



 そして数日後。


「さあさあ今宵も待ちに待った踊り子の舞い! 麗しき美女たちの踊り、どうぞ堪能してくださいませ!」


 中級都市ヒルデリースにて。ガルナン一座の舞いが披露されていた。

 それなりの規模の都市での舞いだ。講演客は凄まじい量。数千人は訪れている。地方ではこれだけの人数を集められる一座はなかなか無いだろう。


「まずは前座の舞い! 我が一座の誇る華麗な乙女たちの演舞です!」


 マリナたちの出番だ。

 全部で八名、可憐な少女や美女たちの踊りが披露される。


 壇上、マリナたちの踊りは華やかなで、客の反応も上々だ。

 中には『あの栗色髪の娘、上手いな!』とマリナを褒める声もあった。


 その事に気を良くする。地道に躍り続ければいつか一流へのし上がれる――そんな、小さな希望が大きな高揚感と共に舞い上がってくる。

 昂ぶる気分。『やれる、私はやれる!』


 けれど、それは数分のことだ。

 前座のマリナたちの踊りが終わり、『本命』が壇上に現れた時。

 客の目が見るからに変わる。


 華麗にして妖艶な衣装。煌びやかさと淑やかさ。

 美しさと艶やかさを巧みに混合させた衣装――仕草も。歩法も。笑顔も。それらが観客を一瞬で取り込み、魅了し、虜にしてしまう。


 高揚したマリナの心が、一瞬で凍りつく。

 自信のあった自分の演技が児戯のように思えてくる。


 それほどまでに違う。圧倒的だった。

 『衣装』――たったそれだけの違いで、これほどまで客の反応は違ってしまう。


 喝采を浴びせる客も応援を寄越す客も、いなくなった。

 絶句しているのだ。本当に凄まじい踊り子の前では、人は言葉すら上げる事も忘れてしまう。


 時間は一瞬で過ぎていく。

 観客はそのことすら全く気づかず、踊り子の一挙一動に注目し、溜息を漏らして息を呑むしかない。


 ――正確に言えば、『本命』の彼女らと『前座』のマリナたちと、演技にそう大差はないだろう。

 むしろマリナに限って言えば本命の誰より優れていた。

 純粋な技量で言えば、マリナが一流。本来ならトップに躍り出ても不思議ではない。


 けれど『衣装』はそれら全てを覆す。

 一流は準一流に。二流は準二流に、落としてしまう。


 そして逆もまた然りだ。

 アネーシャらの踊りは準一流ではあったが、衣装で一流に、あるいは超一流に昇華されてしまう。


 それこそ『衣装』の力。

 決して技量では埋められない絶対的な差。


 マリナは、体が震えるほど衝撃を受けていた。

 知っていたはずなのに、見てきたはずなのに。見るたびに思う――次元が異なり過ぎる。


 同性ですら心が魅了されてしまうその踊り。悔しくて、悔しくて、拳を握りしめる事も忘れた。

 これが一流――変えることの出来ない、確固たる『一流』の壁。

 先日の会話もあったせいだろう、マリナはいつも以上に動揺させられた。

 


「今日の踊りはなかなか良かったねー」


 一時間後。本命の踊り子たちが楽屋裏で華やかに談笑している。


「そうそう、お客さんもかなり喜んでくれたし」

「最初はえっちな目で見てくる客もいるけど、演技の後だけは紳士よね」

「お腹空いちゃったー、何か飲む?」


 演舞が終わった直後なのでまだ踊り衣装のままだ。


 砕けた調子なのに、衣装のせいで貴族の婦人すら凌駕する魅力を醸し出している。

 空間の支配者は誰か、と問えば間違いなく彼女らを挙げるだろう。踊っていない時ですら、彼女たちは輝いていた。


「みな、ご苦労」


 ガルナン座長が奥から歩いてきた。


「今日の講演もなかなかの評価だった。『報酬』もかなり頂けた。お前たちの活躍で俺の一座は支えられていると言っていい」


 アネーシャら本命の踊り子たちが華やいだ。


「きゃー、座長が素直に褒めた!」

「珍しいわね。いつもはもう『少し上手に』とか言うのに!」

「ねえ座長、この後飲みに行きましょうよ、何なら宿屋も一緒で!」

「……それは遠慮しておこう。頑張った者らには賞賛を送るのは当たり前だ。今日はゆっくり安め」

「「はぁーい!」」


 黄色い声を漏らして、本命の踊り子たちが着替えの部屋へと歩いていく。


 数秒後、ガルナン座長の視線が『前座』の踊り子たちへと移った。

 その途端、彼の口調の温度が下がる。


「……マリナ、貴様らの演技にはがっかりだ。衣装が完全に負けている。いくら俺が指導しようと、それでは観客の心は掴めない。まさしく『前座』以外には使えないな。……まあ、『引き立て役』としては上々だがな」


 言外に、お前たちにはこれ以上は期待しないと言葉を込めていた。

 ガルナン座長は溜息をつく。


「特にマリナ。お前は相変わらずだ。お前が一番ちぐはぐだった。衣装と踊りのレベルがまるで釣り合っていない。半端すぎる、これ以上無様を晒すなら、解雇もあり得るぞ?」

「そ、そんな!」


 解雇されれば無能の烙印を押され、他の一座では雇ってももらえない。

 踊り子界隈では顔の効くガルナンに見放されれば、場末の娼婦めいた踊り子一座だけが選択肢に残ってしまう。


 ガルナン座長は無情な言葉を吐いた後、鼻で息をし、その場を後にした。

 前座の踊り子の一人が憤った。


「気にしないでマリナ、いつもの座長だから」

「そうそう。彼はああやって鬱憤を晴らすのが趣味なのよ」


 口々に前座の踊り子たちが慰める。

 思わずマリナは情けなくなった。


「どうしてあたし達はああも言われるの!? 同じなのに、同じ踊りなのに! 衣装が、衣装が違うだけで!」

「それは……そうだけど」


 それは魂からの叫ぶだった。

 技量なら負けてない。それなのに負け組とされる不遇な環境。


「お金が欲しい! お金が欲しい! そうすればあたしだって! ううう……っ」


 思わずマリナは口を開いた。


「……でも、アネーシャたちは貴族の出身だから……」

「お金があるし、差が出るのは仕方ないわ」

「そんなの言い訳よ! 諦めだわ!」


 マリナの言葉に、別の踊り子が食って掛かった。


「じゃあ何!? わたし達はどうしろと!? ずっと、こうして、下っ端でいて何が悪いの!?」

「それじゃ駄目なのよ! 私は上に行きたい! お金の差で! 衣装の差で! そんなのずるいわ! 間違ってる!」


 マリナは涙を目に浮かべた。


「なんで衣装だけでここまで差別されなきゃいけないの!? いやよ、そんなのいや!」

「それは……」


 皆は口ごもった。

 どうにもならない事実だった。

 貴族の家には、方針として踊り子として修行を積ませる制度がある。


 地方によりまちまちだが一座では貴族の金持ちの娘が『本命』に居座り、一流の座をほしいままにしている。

 マリナたちの一座がそうだ。


 努力の量と美貌の差が同じなら、最後に両者を隔てるのは『衣装』だ。

 上質な服を用意出来る資金力が、彼女らとアネーシャらを隔てる壁となっている。


「悔しいわ……あたしは悔しい。いっそ、他の一座に行けたら良かったのに」


 だがそれは出来ない。

 最初に叫んだ踊り子が泣き崩れる。

 他の踊り子も拳を握り締め、あるいは唇を噛み締め、泣くか耐えている。


「……私、部屋に戻るわ」


 マリナはこれ以上この空気に耐えられず、踵を返した。





 ――部屋に戻ったマリナは枕を床に叩きつけた。


「なんで……お金がないのよ……」


 力のない勢いで床を叩きつける。


 もし、自分に大きな資金があったなら。

 辺境の村娘でない、立派な地位があったなら。

 こんな惨めな思いで、前座を続ける事もなかったのに。


 呪いのように呻く。

 がくんと、体が横に崩れた。力なく横たわる。冷たい床。震える心。ああ、なぜ私はこんなところにいるの?

 感情が擦り切れ、怒りさえも萎んでしまった――その後だった。


 

 ――唐突に、目の前に『緑色の石』が現れたのは。


 

「……なに、これ?」


 マリナは、不思議そうな顔をしてそれを手に取った。

 綺麗な石だった。まるでエメラルドみたいに美麗で、けれど宝石のような綺麗さだけではない。もっと魔力的なものを含んでいる。


「どこから出てきたのかしら? 棚から?」


 マリナは、震動で落ちたのだろうかと辺りを見渡した。


 けれど開いた棚などはどこにもない。

 あるのは踊り子用の衣装入れや旅の荷物だけだ。

 六人部屋の中には、マリナしか動く者はいない。


「――これ、一体何なのかしら?」


 それを手に取ったまま、何気なく呟いたマリナ。

 その瞬間、目の前に『華麗な衣装』が現れた。


「え、うそ……?」


 レースやシースルーがふんだんに使われた衣装。

 揺れる長い布はまるで羽衣のようで、それがあちこちについている。

 白を基調としたそれは、まるで婚姻を結んだ花嫁衣装のようにも見えて――思わず清楚なヴェールに目を引かれる。


「え、何が、どうなって……?」


 マリナは。驚愕を殺しきれない。

 その衣装の、あまりの完成度の高さに。理想に限りなく近い、華やかさ。

 『もし自分がまとうなら、これだ』という理想そのもののデザイン。


「そんな……なんで……これって……?」


 忘我のまま、マリナはその白衣装を手に取った。

 羽毛のように柔らかく、それでいて繊細な手触りの衣装。サイズもマリナにぴったり完璧に合うようになっている。


「あ、はは……っ」


 歓喜がマリナの中を走り回った。

 凄い! 凄い! かみさまは素敵なものをくれた! これは人生を変える衣装!

 マリナは笑う。それは嬉しさからだった。


 これまでの自分と脱却出来る確信。そしてアネーシャよりも誰よりも上に到れるという、未来を予知した高揚だった。


「私はこれで咲き誇る! あは、やっと、一流へと到れるわ!」


 マリナは、迷うことなくその衣装をまとった。そして――。



†   †


 

「さあ今宵も余興の時間です! 我が一座の最高の演舞をお目に頂きましょう! ――栄えある、我が一座の『序列一位』マリナの登場です!」


 翌日。華やかな壇上で煌びやかな衣装が躍る。


 華麗なステップで技を披露するのは――『マリナ』だ。


 観客が絶句している。同僚の踊り子も絶句していた。今、マリナのそばには他の踊り子はいない。

 はっきり言って『邪魔』だからだ。

 白く可憐な衣装を身にまとうマリナは、まさに神の踊り子で、余人の介入を許さない。

 そばに誰かがいるだけで『余分』であり、踊りは完璧さを無くし、魅力を半減させてしまうだろう。


 客の視線も、踊り子の羨望も、座長の賞賛も全て独り占めだった。

 マリナは一回転しつつの腕の上げ下ろし、優雅なステップを踏む。

 ポールに登り艶やかな舞い。

 しなやかな仕草で華麗な跳躍。回転し、回転し、また回転してはゆっくりと、時には早く、華麗に。正確に踊っていく。


 そこに、言葉を挟む者はいなかった。ここはマリナのための時間だった。

 全ての視線は彼女のもの。誰も彼女を凝視させずにはいられない。


 

 ――『緑の石』を得た後、マリナは座長の部屋へと入った。

 そしてまとった白衣装で舞い、その腕前を披露した。

 

 座長は驚愕した。あのマリナがここまで変わるなんて、と。


 マリナにとって、座長が絶句した固まった光景は初めてだった。


 彼は言った。『次の講演はお前一人のパートを設ける』と。

 それに異論はなかった。後にアネーシャたちに知らせると彼女たちは猛反対したが、マリナが軽く舞いを披露すると、取り巻き含め沈黙した。


 実感したのだ。今のマリナに並び立てるものなどいない。

 彼女の隣で舞うと、彼女の魅力を損ねてしまう。

 だから誰も隣に立ってはいけないと。自分たちは彼女の引き立て役以下だと――。


 そして今。


 前座も本命も終えて、『大本命』としてマリナは躍る。

 客の目が、釘付けというものを初めて彼女は見た。

 人は絶句状態が続くと、前のめりになる。もっと近くに行こうとする。

 座っていた席から何人も無言で立ち上がり、マリナに向かって夢遊病者のように引き寄せられていく。


 警護役の男たちが必死に「席に座って!」と言うが聴こえない。彼らでさえ視界の端にマリナを見ると魅了されてしまう。

 時間にしてほんの数分の演舞。

 けれど彼らは天国でも垣間見たような高揚を覚える。


 弛緩した客達の顔ででマリナには判った。

 一流を超えたその先。超一流に至った自分に魅了出来ない者はいない。



†   †



 ――翌日以降、評判によって前の倍の観客が足を運んだ。

 わずか数日でマリナは、都市で知らない踊り子となった。


 希代の踊り子。あるいは、『天上の舞姫』。

 伝承にある踊りの神をなぞらえた異名も作られた。他の一座から勧誘がいくつもあった。

 けれどマリナは全て笑って応じた。


「私はこの一座で躍りたいんです。私を取り合うことで喧嘩はしないでください。それより、ほら、私の踊りを見てくださいな」


 そう言い、踊ってしまえば喧嘩も文句も消え去っていく。

 マリナが講演する講演のチケットは飛ぶように売れた。


 マリナのチケットを巡り、客同士で買い漁りや恫喝も起こり、衛兵が出動することも。

 

 それを聞きつけたマリナが路上でタダで舞いを見せると、路上の人々は魅了される。


 最高の踊り子。神がもたらした奇跡の乙女。

 『天上の舞姫』――マリナ。


 もし、『鑑定眼』という対象の性質を知る魔術を使えば判っただろう。

 彼女の異常さに。その手の中、緑色に輝く石が、どれほどの魔力を持つのかを。 

 それは、人を魅惑する魔性の力。一流を超一流へと変える、最高の衣装の創造石だった。



【名称:『緑魔石』(タイプ・クローズ) 由来:衣装を生み出す超高位魔物の因子から作られた。

 効力①:無限に最高級の衣装を生み出せる 効力②:■■■■】



金の次は『衣装』です。衣装もある意味で一番強い力。時には一目見るだけで魅了出来る、最高の武器です。

マリナが手にした力をそう使っていくのか? それも含めて楽しんで頂ければ幸いです。


お読み頂き、ありがとうございました。

次回の更新は5月15日、午後8時の予定になります。

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