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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
三章∶異世界商売録-元ヤクザだけどプリン屋始めました-
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恋敵

 翌日はミーナも加えた五人で店先へと立って客の入りをまっていた。

テーブルの上には昨日用意した倍の数のプリンが桶の中で冷やされている。

昨日そうしたようにリリアはテーブルや桶の中に研磨した貝殻を飾ると小さなプリン屋が開店した。


 まだ早い時間ではあったが、昨日きた客の中には早くに来ると告げたものもいる。

せっかく来てくれた客に対してプリンを振る舞えなかったオオシマは明日は早くに来ると言っていた客に今日こそは提供できるようにと早くからプリンの用意をしていた。


「鬼姫さん、おはよう」


 今日の一番客は昨日残った全てを買い取ってくれたメイドである。

まだ若い彼女はセミロングの巻かれた茶髪を揺らしながら笑顔でオオシマに声をかけた。


「おう、オメェか。昨日はありがとな」


「いえいえ、こちらこそ。昨日買ってから仕事場の皆に提供したんだけど凄く好評でしたよ」


「そいつはありがてぇ話だ」


「あの後もお客さん来たでしょう?」


 知ったようにメイドは微笑む。大きな茶色い瞳はオオシマを映すと楽しそうに微笑んでいる。


「あぁ、何人か来てたな。だから今日は倍仕込んだぜ」


「ウフフ♪ 鬼姫さん頑張りますね。でも、本当鬼姫とは呼ばれているけど、そうは思えない可愛らしさと美しさですね」


 口元に手をあててほほ笑むメイドはオオシマを見ると目を細めている。

プリンだけでなく自身までも褒められたオオシマは照れ臭そうに頭を掻くと視線をプリンに落として目を合わせられなかった。

どういうわけか見つめられると照れてしまう。ミーナや娘たちに褒められたことはあれど、ほぼ初対面の相手にこのように言われることなどあることではない。

ましてや慣れない『可愛らしい』という言葉にどう反応していいのだから分からない。


「照れる鬼姫さんも可愛いです。鬼姫なんて言われてるけど、乙女なんですね」


「よせよ。そんな柄じゃねぇ」


 恥ずかしさから突っぱねるような口調になるが、メイドはそれでも頬を赤くしたオオシマを見ると余計に可愛らしく見えて仕方ない。


「言葉遣いは男の人みたいだけど、それがまたいいです。男らしい性格と美しい見た目だなんて。きっと女性のファンも多いでしょ?」


「あんまり褒めるなよ。何て言ったらいいかわからなくなる」


 頬を赤らめながらも苦い顔になってしまう。

メイドはいちいち照れて表情を変えるオオシマが楽しくてもっと褒めてやろうと口にした。


「えー。可愛いですよ。それにバハムートが町にきたときも鬼姫さんが全て一掃したと聞きました。可愛くて強いとか最高じゃないですか。憧れちゃいます」


 二人のイチャイチャするような会話にミーナがこれでもかと目に力を込めて睨みつけていた。

オオシマに恋心を抱くミーナはいきなり現れたメイドが自分の片思いの相手にちょっかいを出すものだから、内心苛ついてしかたなかった。


――クソガキが私のオオシマさんに色目使ってんじゃねぇよボケエエエエエエエ!!


 言いはしないが視線から言葉が漏れている。

しかし、メイドはその視線に気が付いても逆にミーナをたしなめるように口で笑うとオオシマに向き直った。

両手を後ろに組んであざとく少しばかり首をかしげると上目遣いにオオシマを見つめる。


「私鬼姫さんに一目ぼれしちゃったかも」


「はぁ? 一目惚れ?」


 思わぬ一言にオオシマは真顔になる。

ミーナは前世が男だと分かっているから、そういう想いを寄せるのも分からなくはない。

だが、目の前のメイドはオオシマのそんな過去を知りはしない。

女のオオシマに一目惚れをしたなどと言われて、オオシマはどう解釈していいのだか反応に困った。


「怖い人だと思ってたけど、優しくて可愛くて美しくて強い。こんな御方中々いませんよ。なんだろうな……魅力的というか。謎めいた魅惑があるというか」


「俺女だぞ」


「見ればわかりますよ」


 ひょっとしたら恋愛感情ではなく、尊敬の眼差しのようなものなのかもしれない。

そう思うとオオシマはまさか恋愛感情なんか湧くわけもないよなと、乾いた笑いを発した。


「ったく朝から可笑しなことを聞いちまったもんだ。俺に恋心抱いてるのかと勘違いしちまったぜ」


「え? 恋してますよ」


 そういう意味ですよ、と教えるようにメイドは首をかしげた。


「女同士だぞ?」


「何か問題あります?」


 互いの疑問がぶつかると二人は視線を合わせたまま言葉が出なかった。

戸惑うオオシマ、好きという気持ちをありのままにぶつけるメイド。

そしてその様子に歯を食いしばって血涙を流すミーナ。


「メイドさん! さっさとプリン買って仕事に行ってはいかがですか!」


 もう我慢ならないとミーナは血涙を流しながら睨みつけて催促した。

メイドはそれで察しがついたのか、ミーナに対して見下したように鼻で笑う。


「あら、売り子さんいたんですね。鬼姫さんが魅力的すぎて他が目に入りませんでした」


「ほら、もうお仕事の時間じゃないですか!? プリン買ったらさっさと消えてください!」


「おいおい、せっかく来てくれた客になんてこと言いやがる」


 恨めしそうにキレるミーナにオオシマはそんな言い方はないだろうと窘めるが、それでもミーナはメイドを睨み続けたまま態度を改めようとはしない。


「鬼姫さん、こちらの売り子さんは誰なんですか?」


「こいつは……あー、家族だ」


「家族というと妹さん?」


「んー、妹というよりは娘かな」


「じゃぁ、奥さんってわけではないんですね」


「当たり前だろ」


 ミーナの立ち位置を確かめてメイドはまた上目遣いでオオシマを見つめる。


「じゃぁ、まだ私にもチャンスはありますね」


「どういう意味だよ」


「恋人候補になれるかなって意味ですよ。さて、そろそろ本当に仕事行かなきゃだし、プリン買ってこうかな」


 恋人候補というメイドにオオシマの心はまた少しばかり困惑したが、メイドがポケットから財布を出すのを見て今は仕事だからと戸惑う心を隅へと追いやった。


「今日は10個くださいな」


「あいよ。昨日に引き続きありがとうな」


「私これから毎日来ますよ。プリンも美味しいし、それに……鬼姫さんのことも見たいし」


「オオシマだ」


「……?」


「名前だよ。鬼姫ってのは通り名だろ。俺の名前はオオシマってんだよ」


 せっかく常連になってくれるというメイドにオオシマは自分の名を名乗った。

あだ名などならまだ親密感もあるが、鬼姫とは通り名である。それも暴力的な側面を持った名を言われ続けるのはあまり好印象ではない。

オオシマは自ら名乗ることで、せっかくできた常連とより親密になろうと考えた。

客との信頼や親密さが商いの成功への道になる。そう思えば通り名よりは自らの名を名乗ったほうがいいと思えた。


「オオシマ……さん。覚えました。私はカレン・レインポーターです。カレンでいいですよ」


「カレン。俺も覚えたぜ」


 10個のプリンが入った紙袋をカレンに手渡すとカレンはオオシマの手に自分の手を重ねて紙袋を受け取った。


「オオシマさん。また明日も来ますね」


「おう、待ってるぜ」


 微笑みあう二人にミーナが憎らしそうに憎悪の表情で睨みつけていた。


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