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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
三章∶異世界商売録-元ヤクザだけどプリン屋始めました-
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初めてのお客さん

 朝が過ぎた頃、オオシマは頭に三角巾を被った姿でレストランの前に設けられたテーブルの前に立っていた。

テーブルの上には氷水の入った桶が載せられ、中には冷やされたプリンが誰かに買われていくのを待っている。


 初日はどれほどの売り上げになるだろう。

昨日レストランで提供しウケは良かったものの、宣伝などは一切していないしくまのレストラン自体町の中央から離れた場所に位置している。

だいたい10個も売れれば御の字だろうと考えながらオオシマは腕組みをして立つと鋭い目つきで客が来ないかと仁王立ちしている。

 接客業にはあるまじき態度になっているのに気付くことはない。

睨みつけるような眼光で腕組みをする金髪の美少女。これから物を売ると言うよりは喧嘩でも起こしそうな雰囲気である。

 

「ママ、おかおこわい」


「え、あぁ、気張っちまったか」


 同じく三角巾をつけたプーフが隣でオオシマの顔を見上げていた。

気張りすぎた顔に気づいたプーフはスカートを引っ張ると口を開いて笑ってみせる。

初日だからとつい気が張ってしまっていたことに気づくとオオシマも顔にいれた力を抜いて、そのことに気づかせてくれたプーフの頭を撫でた。


 質素なテーブルの上にはリリアが自ら研磨した貝殻をいくつも並べている。

麻袋の中から貝殻を取り出すと桶の中に入れ、テーブルに散りばめる。


「可愛いでしょ。こうしたほうがプリンも可愛く見えるでしょ?」


 女の子らしい発想にオオシマは間延びした声をあげた。

確かに木造りのシンプルなテーブルを出しただけでは目立ちようがない。

わずかにでも可愛らしさを演出しようとするリリアに感心してしまう。


 店に並んだ四人は客の来ないままにしばらくの時間を過ごした。

プーフやリリアは大人しく突っ立っているわけもなく、誰も来ない店に飽きると三角巾姿のままに地面に棒で絵を描いて遊んでいる。

 すると描いた絵に影が重なった。

その場にしゃがんでいたプーフとリリアが顔をあげるとベストを羽織った二匹の熊が立っている。


「よぉ、お嬢ちゃんたち。プリンは売ってるかい?」


 一匹の熊が販売はもうしているかと尋ねるとプーフはオオシマのほうへ振り返って声をあげた。


「ママー! おきゃくさん!」


 声をかけられたオオシマはやっと客がきたのかとプーフたちの方へ眼をやれば、昨日レストランにきていた熊が手を振っている。


「もう売りに出しているんだね。さっそく買いにきたよ」


「おう、オメェらか。ありがとよ」


「うちの子たちにも食べさせてあげたくてね。嫁さんに話したら嫁さんも食べてみたいっていうからさ」


「ありがてぇこった」


「僕も食べてみたいから4つほど頂けるかい?」


「こっちには5つくれ」


 隣にいた熊もプリンを購入しようと懐から皮でできたがま口の財布を取り出すと銀色したコインをテーブルの上に置いた。


「あいよ。そっちが4つで、オメェは5つだな」


 いきなり複数の注文が入ってオオシマは喜んでプリンを桶から取り上げるとタオルで水を拭いて用意していた紙袋へと詰めた。


「まだ僕らが最初の客かい?」


「そうだな。オメェらが最初の客だ。初日は入りがあんまり無さそうだと思っていたからオメェらが来てくれて嬉しいぜ」


「そうだったんだ。僕らはてっきり売り切れているかと思ったよ」


「……? どうしてだよ」


「ほら昨日ハーピィたちが飲みにきてただろ。あの後ハーピィたちはプリンのことを偉く褒めて喋りまくってたんだよ」


「ハーピィ?」


「ほら、あの女の魔族だよ。鬼姫試食させてただろ?」


 あぁ、そんな奴らもいたなと昨夜のことを思い出した。

試食させろと言ってきた魔族の女連中がいたことを頭の中に描く。角の生えた女の魔族は熊たちが試食するのを見ると自分たちも食べてみたいと声をあげていた。


「そういやいたな」


「あの人らはお喋りだからね。きっと今日もプリンのことを言いふらしまくっていると思うよ」


「マジか。でも、それはありがてぇけどな」


 宣伝など一切していないし、この世界では宣伝に使うものは限られている。

前世のようなテレビコマーシャルや新聞に折り込みチラシを挟めるわけでもない。

そこで頼れるのは噂話だとか看板だとかに限られる。

昨日の今日でプリンの話が人々に知れ渡るのならば、宣伝になるし興味を持った人々が買いにきてくれるかもしれない。

そう考えればオオシマにとってはありがたい話である。


「ハーピィたちはお喋りだし、噂話が好きだからね。もしかしたら大変なことになるかもしれないよ」


 紙袋を受け取りながら熊が言う。

その大変という意味がオオシマには分からなくて疑問符が浮かんだが、とりあえずプリンが売れたことに喜んで笑顔を向けた。


「じゃ、また明日も買いにくるよ。また同じ数買うから僕らのは取っておいてね」


「そんなすぐに売れねぇよ。ありがとな」


 そんなにすぐに売れるはずもないと分かっているオオシマであったが、熊たちは念を押すように自分たちの分を取っておけという。

まだ桶の中には10個以上のプリンがあるし、明日も売れるとは限らない。

なのに何故念を押すのだろうかと思いながら、オオシマは初めての客たちに頭を下げた。

母の仕草に倣うように三姉妹も頭を下げると去り行く熊たちに手を振った。


「そんなすぐ売れてくれりゃいいんだけどな……はぁ。そんなうまくいくわけもねぇか」


 はじめたばかりの商いである。

商売に勢いが出るにはまだしばらくはかかるだろうなと予想していたオオシマはまた腕組みをしてしまう。


「さて、次は誰か客くるかな……」

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