ジェニーの評価
手を繋いだリリアとシロの背中姿がくまのレストランへと消えていく。
中に入ると普段はカウンターにいるはずの熊のジェニーがカウンター席に腰かけ、隣の席の上にはプーフが立っている。
カウンター席の二人が興味深そうに見ているのはプリン作りをするオオシマの姿だ。
母が何を作っているのだろうとリリアとシロもプーフの隣へと腰かけるとカウンターの中を覗き込んだ。
「ママ何作ってるの?」
リリアが見てみればすでにコップに注がれたプリン液が鍋の中で温められて表面を膨張させている。
「プリンの試作だ」
「プリン!」
「オメェらのぶんも作ってるからちょっと待ってろ」
プリン液の中に箸を突っ込んで中が固まっているのを確認すると鍋からコップを取り出して冷えた水の入った桶の中へと入れる。
熱くないのか素手のままに温められたコップ全てを桶の中に入れると4つのプリンが冷やされている。
「何だか不思議な見た目だね。焼かないで作るお菓子なんて見たことないよ」
ジェニーの大きな顔が鍋を覗き込むと濡れた鼻先をヒクヒクさせて匂いを嗅いでいる。
果糖の甘い匂いと卵の香りを鼻いっぱい吸い込むとジェニーは長い舌を出して鼻先を舐めている。
ジェニーの反応からやはりこの世界にはプリンに似たお菓子はないのだろうなと確信が持てた。
あとはくまのレストランでいくつか試作品を客へと提供し、ウケれば店頭販売に移ろうと考えていた。
ただそのための材料はまだ手元にはない。
今回はあくまで試験的な販売で、本格的に始めるのは家の改装が終わってからにしようとオオシマは考えていた。
そのためにオオシマは他にもプリン作りのための材料調達の部分も考えていた。
『ボニーたちに任せたい仕事がある』
オオシマがトーマスに話したのは漁ができなくなったせいで金銭的に困窮した熊たちへの仕事の斡旋である。
考えていたのは農場のようなものだ。
鳥を数羽購入し卵を入手できるようにし、羊などのミルクが取れる家畜も増やして独自の生産ラインを確保しようとしていた。
農場を家の近くに作り、熊たちにそれらを任せる。
そうすることでオオシマはプリン作りのための材料を確保し、くまたちも仕事と賃金を得ることができる。
まだ思案段階ではあるが、オオシマの頭にはすでに実行に向けての算段が考えられていた。
「あんたそれいつまで水につけているんだい?」
考えていたオオシマの頭にジェニーの声がかかる。
桶に入れられたプリンを指さすとジェニーは鼻をヒクヒクさせて、早く食べてみたいと言わんばかりに口周りを舐めている。
「あぁ、もうちょい冷えたら食えるぜ」
「冷やせばいいのかい? じゃぁあたし冷やそうか?」
「氷でもあんのか?」
「無いよ。でもあたしゃ氷結魔法使えるからね」
「え、マジか」
ジェニーは指先に冷気を纏うと桶に向かって冷気を飛ばした。
桶の中の水は瞬時に冷やされると薄い氷を張っている。オオシマがコップを触って確かめてみればすでにキンキンに冷え切っている。
「ジェニー、オメェすげぇな」
「うちは魚を扱うしね。氷結魔法は必要不可欠なんだよ」
この世界にはこういった魔法が使えるものがいるから冷蔵庫などの家電はいらないのだなとオオシマは感心した。
そういえばリリアも火を吹けるし、この世界の基礎的な部分は魔法で作られているのだなと考えるとオオシマは機械などの文明が発展しないのにも納得がいった。
前世は機械頼りの生活であったが、この世界では機械の代わりに魔法が活きている。
「そんな便利なものが使えるなら俺も覚えてぇもんだ」
「あんた魔法使えないのかい?」
「そんなもん物語の中でしか見たことねぇよ」
「あんた今までどうやって生きてきたんだい?」
「さぁな」
くすりと笑いながら魔法で冷やされたプリンを鍋から取り上げると目の前の4人の前に並べていく。
冷やされたプリンは表面がぷるんと弾けて輝いている。
「さ、食ってみな」
「遠慮せず頂いてみようかね」
小さいスプーンでプリンを一口掬って大きな口へと運ぶ。
噛む必要のない滑らかな触感にジェニーは口の中で舌を動かしてもごもごさせている。
もう一口、さらにもう一口運びコップ全てを空にするとコップに付着したプリンまで舐めとっている。
「うん、美味しいじゃないか! こんな柔らかいお菓子は初めて食べたよ」
「悪くない評価だな。どうだ、ウケそうか?」
「これなら子供だけじゃなくて固いものが食べられない年寄り連中にもウケそうだ。うん、悪くないよ。この口当たりは絶対にウケるよ」
「ありがとよ。じゃ、さっそく今夜から店で出してもらえるか?」
「あぁ、そうしよう。いやぁ美味しかった」
口惜しそうにジェニーは口周りを何度も舐めるとコップの中の匂いを嗅いだ。
まだ甘い香りが残っている。ジェニーは初めて口にしたプリンに舌鼓を打つとこれは町に出回ったら流行ると確信していた。
オオシマもジェニーに良い評価をもらえたことでいよいよ商いがスタートできる気がしていた。
先ずはくまのレストランで提供し、明日にでも店頭販売を始めよう。
そこでいくらかの金を確保して考えていた農場などの費用に充てる。
想像ばかりが膨らんでいく。オオシマは前世では考えられない商いの始まりに上手くいく予感がして心が躍る気分だった。
プーフたち三姉妹もさっさと食べ終えるとコップの中に残ったプリンを指先で掬って口に運んでいる。
――これならイケそうだな。
腕組みをしてニヤリと笑う。
使った器具を洗うとオオシマは再び材料を用意して今夜のくまのレストランで提供してもらう分を作りはじめた。




