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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
三章∶異世界商売録-元ヤクザだけどプリン屋始めました-
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繋いだ手

 オオシマたちと離れ町へと駆けだしたリリアとシロは、手を繋いで町の雑貨屋を見て回った。

白い少女と黒い少女の二人は仲睦まじそうに手を離さずにウィンドウショッピングを楽しんでいる。

雑貨屋で貝に合いそうな紐を見定めてはあれでもない、これでもないとリリアは真剣でいてまた楽しんでいる目つきで必要な材料を見ている。

 一軒のアクセサリーショップを見つけると、リリアとシロは手を繋いで店の中へと入っていく。

扉が開かれるとカランコロンと乾いた高い鐘の音が鳴って来客を告げる。

6畳ほどの小さな店内にはアクセサリー作成に必要な銀や黄銅の細かな鎖や獣の皮を(なめ)して編まれた細長い紐、そして小さな丸く磨かれた鉱石などがガラスの皿の上に山になって乗せられている。


 さっそく使えそうな紐を物色するリリア。

頭の中で拾った貝殻と店に並べられた紐を想像の中で重ね合わせる。


「貝殻の色が目立つように薄い茶色い紐のほうがいいかな?」


 薄茶の紐と濃い茶の細い紐二本を手にしてシロに尋ねる。


「薄いほうが貝殻が目立っていいかも」


「やっぱりそうだよね。すみませーん、この紐ください」


 奥に居た女店主に声をかけると数本の紐を購入した。

紙袋に紐を入れながら店主は紐だけ買う小さな客を不思議に思い声をかけた。


「紐だけ買うなんて珍しいね。何か作るの?」


「今日ね海にいって貝殻を拾ってきたの。それに穴を開けてブレスレットを作りたいんだ」


「あら、自分で作るの? 凄いじゃない」


 口を開けて驚いて見せる女店主にリリアは口を開いて笑ってみせる。

 花冠など何か物を作ることはリリアにとっての趣味になっていた。そういったものを作れば誰かが喜んでくれる、褒めてくれる。

最初プーフに花冠を作った時、プーフは喜んで花を編みそしてリリアの手先が器用だと褒めていた。

そこからはシロと花冠を作ったこともある。

いつしかリリアの中で創作は自分自身も他人も喜ばせることのできる素晴らしいものとなっていた。

だからきっと貝殻のブレスレットも喜んでもらえる。

オオシマに作ってプレゼントしよう、そしてプーフとシロのぶんも作ってやろうと考えている。

皆の喜ぶ顔を想像するとリリアは早くブレスレットを作りたいと気持ちが弾んでいた。


「そうだ、貝殻をブレスレットにするなら穴を開ける道具や研磨の道具はある?」


「んー、持ってない。だから他のお店で探そうと思ってた」


「ならいいのがあるよ。私が使ってたお古だけど良かったらあげるよ」


「いいの!?」


 女店主の提案にリリアは腰から生えた細長い尾を左右に機嫌良さそうに揺らして喜んだ。

店主がカウンターの下から取り出したのは使い込まれて油の染みたキリと同じく使い古された研磨用の布である。


「私が使ってたから見た目は悪いけどまだ使える。良かったら貴女の創作に役立てて」


 笑いながら女店主は紐と一緒にそれらを紙袋に包んでリリアに渡した。

受け取ったリリアは紙袋の中を覗き込むと、中にあるものを確認してまた尾を機嫌良く揺らしている。


「お姉さんありがとう!」


「どういたしまして。また必要なものがあったらいらっしゃい」


「わかった! ありがとうお姉さん! またくる!」


「えぇ、またきてね」


 手を振る女店主に手を振り返しながらリリアとシロは店を後にした。

思いがけず道具まで手に入れてしまったリリアはこれでブレスレットが作れると自然と速足になって宿屋に戻ろうとした。

あまりに速いものでシロが引っ張られる形になるとシロは置いていかれないようにリリアの手を握りながら速足でついていく。


「帰ったら皆にブレスレット作らなきゃ。ママは何色がいいかな? プーは青が似合いそうだなぁ、シロは何色がいいかなぁ」


「リリアちょっと待って」


 シロの声掛けにもリリアはブレスレットを頭の中で作ることに夢中になっていた。

脳内ではオオシマ、プーフ、シロのイメージからを連想させるとどんな貝殻の組み合わせにするか試行錯誤する。

夢中になっているせいでシロの小さな歩幅など気にせずに歩いていく。


「きゃっ」


 速足になってしまったせいでシロは道端の出っ張りに足をつまずかせると前のめりになって転んだ。

急に転んでしまいリリアの手からシロの手が離れるのを感じると、振り返って転ばせてしまったシロに慌てて手を差し伸べた。


「ごめん、歩くの速かったね。大丈夫、シロ?」


「うん……大丈夫。ごめんね、私歩くの遅いから」


 リリアを責めることなくシロはむしろ自分が歩くのが悪いと謝ると、立ち上がってスカートについた土をはたいた。

リリアもシロの服についた汚れをはたいて落とすと、また手を繋いで今度はゆっくりと歩き出した。


「ごめんね。今度はゆっくり歩くね」


「大丈夫だよ。私も置いていかれないようにするね」


 小さな手を恋人繋ぎすると二人はのんびりと宿への道を歩く。

 自分より背丈の小さいシロを見るとリリアは本当の妹のように感じた。

血の繋がりはない家族。だが、今ではすっかりそんなものは関係なくなっている。

オオシマはリリアにとって母であるし、プーフもシロも妹そのものに感じる。


「シロは私の妹……だよね?」


 問いかけてみるとシロは首をかしげて茶色い大きな瞳をリリアに向けた。


「うーん、私のほうが多分皆よりは長く存在していると思うけど……でも、リリアは私にとってお姉ちゃんだよ」


 背丈や見た目はシロのほうがリリアよりも年下に見える。

しかし、シロは数百年という時間を意識だけで過ごしていた。そのことを考えればむしろシロはオオシマよりも遥かに年上ということになる。

だが、長い年月はシロの中の記憶を消し去り、姿も振る舞いも子供のときのままである。

それにシロ自身その見た目や周りの状況から自然とリリアを姉としてみていた。

背丈は大きいしプーフや自分のことを構って世話を焼いてくれる。そんなリリアはシロにとっては優しい姉に違いなかった。


 シロがリリアのことを姉と思っていてくれていると知ってリリアは微笑んだ。

確認などするまでもなかったと思いはしたが、それでも本人からそう言ってもらえると嬉しいし、そのままでいようと思える。


「シロもプーフも私の大切な妹だね。シロはどんなブレスレットを作ってほしい?」


「んー、そうだなぁ。白いのがいいな」


「シロは本当に白いのが好きだね」


「ママにもそれ言われた。でも好き。どうしてか知ってる?」


 問いかけに答えを出そうと考えてみるがそれらしいものは浮かんでこない。

顎に指を当てて視線を泳がせて考えるが、シロの答えにはたどり着けそうにはなかった。


「リリアと最初会った時、花冠作ってくれたでしょ? あの時の白い花がキッカケかな。あの白い花冠が凄く綺麗で美しくて、本当にお姫様になれた気がしたの。それからだよ、白が好きになったのは」


 白を好きになったのはリリアが花冠を作ってくれたから。

白い花で作った花冠にそこまで思い入れをしているとはリリアはまるで考えが及ぶはずもなかった。

シロは答えをリリアに教えると目を細めて笑っている。

まさか答えが自分のせいだとは思わず、リリアは恥ずかしそうに顔を赤らめながらもシロに笑顔を向けた。


「そんな理由があったんだ…なんだか照れるな」


「えへへ。リリアが白い花冠を作ってくれてから私は白が好きなんだよ。だから、また花冠作ってねお姉ちゃん」

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