プリンの試作
そろそろ西日が差し込みそうな頃にオオシマたちは再び町へと戻った。
「ママ、ブレスレット作るのに紐買ってきてもいい?」
舟から降りるなりリリアは振り返ってオオシマに尋ねた。
ブレスレットを作ると言っていたリリアは、帰宅する舟の中で材料が宿には無いことを思うと町についたら必要な材料を調達しようと考えた。
必要なのは紐と穴を開けるキリのようなもの。あとは貝を研磨する道具があれば良いブレスレットが作れる。
オオシマにもらっていた小遣いはまだ使わないままに残っている。それで買えるだけのものを買おうと思うとリリアは町に買い出しに行きたいと願い出た。
「構わねぇよ。でもあんまり遅くまで買い物するなよ。夜になる前には宿に戻れよ」
「はーい」
許可を得るとリリアはすぐにでも買いに行こうと速足になる。
だが、オオシマはふとバハムートに襲撃を受けたことを思い出す。
あの時もリリアを一人にしてしまい、すんでのところで救出していた。もうバハムートが襲ってこないとも限らない。クラーケンの襲撃にも遭っている。
ここ最近のトラブルを考えればオオシマもついていたほうがいいと思える。
「ママ、私がリリアと一緒に行く」
申し出たのはシロだった。
舟から降りると早く町に行きたいリリアを呼び止めて肩を並べている。
「もしリリアに何かあったら私が助ける」
「でも、大丈夫か?」
「大丈夫。少し思い出したの……何かあっても私一人で倒せるよ」
光るシロの目にオオシマは闘志のようなものを感じた。
『倒せる』というのは恐らくは相手を殺せるという意味なのだろう。
相手を死なせる能力は無力化されたが、それでもシロにはまだオオシマ同様アノマリーとしての力が宿っている。
ミーナが言っていたこともあり、シロ自身の中に宿るものを視線から感じたオオシマは腕組みをすると鼻息を鳴らした。
「いいぜ。行ってこい。無茶すんなよ」
「うん……分かってる」
「よし! じゃーシロ行こう!」
「あ、待ってリリア」
待ちきれなくなったリリアが駆けだすと、シロがその背中を追いかけて走る。
シロの目に宿っていたのは確かなものだと、オオシマには確信が持てた。
ヤクザとして生きていたとき幹部や組長、敵対する実力派の組員など力を持ったものは皆言わずとも目や纏う空気が他と異なっていた。
修羅場を潜り抜けたものだけが持つオーラのようなものをシロの中にも感じる。
もし何かあってもシロならば本当にクラーケンやバハムートくらい倒せるだろうと思えるほどに。
「いいんですか? 二人だけで行かせちゃって」
「大丈夫だ。シロもついてる。オメェも言ってただろ、シロはアノマリーだって」
「そうですけど……まだ小さい子供ですよ?」
「世の中には大人より強いガキなんていくらでもいる」
「うーん。オオシマさんがそう言うなら」
遠くなっていく二つの背中を見てミーナは眉を潜めながら心配な気持ちを向ける。
確かにアノマリーとしての能力はまだあるだろうが、それでもシロは幼い。
オオシマが言うのならばその通りにするが、ミーナにはまだ心配が残っていた。
「たまにはいいじゃねぇか。いつも親がくっついていたらできないこともあるだろうしよ」
「エッチな本買うとかですか?」
「それはオメェだけだ」
「えーオオシマさんだってちっちゃい時買ったりしませんでした?」
「いちいち詰めるなよ。俺はそういうことが言いたいんじゃねぇ」
「分かってますよ。ちょっと聞いてみただけです」
舌を出して笑ってみせるミーナ。
舟に残った荷物をレジーと共に降ろすとオオシマは残ったプーフたちと一度くまのレストランへと向かった。
*
ジェニーに話し合いをある程度まとめて後はトーマスに引き継いだと話すと、ジェニーは胸を撫でおろしていつものようにカウンター席に腰を降ろした三人に茶を提供していた。
「ところでジェニー、頼みたいことがあるんだ」
「なんだい?」
「この前言ったプリンを作って試しにここで提供してもらいたいんだ。街の住民たちにどれくらいウケるか見てみたくてよ」
「あぁ、あんたが商売したいって言ってたアレかい? いいとも。なんならうちで提供するのもいいけど、うちの前で店頭販売しても構わないよ」
「そいつはありがてぇ。じゃぁとりあえず今日の夜から提供して反応をみたい。それ次第で明日は店頭販売もしてみる」
「あたしもプリン?ってのかい。食べてみたいよ」
「おう、オメェには世話になったしな。キッチンさえ貸してくれりゃぁ今からでも作るぜ」
「じゃぁやってもらおうかね。材料は適当に使っていいからさ」
「悪いな」
ジェニーがカウンターから出ると入れ替わってオオシマがカウンターの内側へと入った。
キッチンの下には野菜や干物になった魚、そしてプリンに使う卵も置いてある。
ジェニーに果糖と牛乳の場所も聞きだすと、オオシマはさっそくその場でプリン作りを始めた。
慣れた手つきで卵を割り乳化させるためにかき混ぜる。
その様子に今から何ができるのかとジェニーは大きな体を前のめりにして材料を見ている。
隣に腰かけていたプーフもこれからプリンが食べれるのかと思うと椅子の上に立ってオオシマのプリン作りを飛び跳ねながら見つめている。
「ママのプリンおいしいの。 きいろくて甘くてぷるぷるしてるの」
「へぇ。ここまでの工程だとスクランブルエッグでも作るように思えるけど、どうやったらぷるぷるになるんだい?」
「まぁ見てろって」
乳化させた卵に果糖を加えながらオオシマはしたり顔でジェニーに声をかける。
ジェニーの発言からしてこの世界では材料を焼くことはよくあればど、あまり蒸す文化はないのだろうと思える。
果糖を加えた卵を更にかき回しある程度混ざると今度はミルクを鍋に入れて温める。
「卵にミルクに果糖。材料はクッキーにも似てるけど粉はいれないんだね。それだけじゃ焼き上がらないんじゃないかい?」
普段から料理作りをするジェニーは材料からどんなものが出来上がるのか想像するが、やはり頭の中にはクッキーなどの焼き菓子が固定されていて、そこからどうしてプルプルになるのか見当がつかなかった。
「ジェニー、オメェはいちいち良い反応をしてくれやがるな。オメェの発言を聞いてると希望が持てるぜ」




