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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
三章∶異世界商売録-元ヤクザだけどプリン屋始めました-
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貝殻のブレスレット

「ねぇねぇ、みてみて。この貝きれいでしょ」


 波に揺れる海面から掬い上げた巻貝をプーフはじゃれていたシロとリリアに見せた。

プーフが両手で持っても大きな巻貝はトゲトゲしいが全身がパールのように白色に輝いている。


「わぁ、綺麗だね」


「素敵な貝殻。もっと落ちてないかな?」


 二人が反応するとプーフは貝殻を顔に寄せて口を吊りあげて笑っている。

リリアとシロは輝く巻貝を見るとまだ同じようなものが落ちてないかと足元を見回した。

裸足の足元に広がる砂に目をこらすと小さい貝殻が所々に落ちている。

リリアは足元に巻貝ほどの大きさではないが白い二枚貝の貝殻を見つけると海面に手を突っ込んで二枚貝を拾いあげた。


「こんなのもあったよ。これ表は黒いけど、裏はピカピカしてる」


 拾い上げた二枚貝は外側は黒く岩肌のようにゴツゴツとしているが、ひっくり返してみるとプーフの巻貝と同じように輝いている。


「わ、私も何か無いかな……」


 二人が貝殻を見つめているのにシロも焦って指を咥えながら海面に目を泳がす。

すると砂の中に貝殻ではないが光る大きな鱗のようなものが埋まっている。

砂の中に手を突っ込んで拾い上げると、シロの手のひらほどの大きな半透明の鱗が虹色に光り輝いている。


「貝殻じゃないけどあった! 大きな鱗だ……なんの鱗だろう?」


「なんだろう? おさかなかな?」


「お魚にしては大きすぎない?」


「でも、ワプルのレストランのおさかなもおっきかったの」


 シロの手に載せられた鱗を見てくまのレストランで出された魚料理を思い出す。

しかし、その魚についていた鱗よりも今手にしているものは大きい。鱗の大きさから考えられる魚はそれは大きなものだ。


「もっと貝がらとかうろこないかな?」


「探せばもっとありそうだね」


「後でママに見せてあげよう」


 三人は貝殻や鱗を手にしたまま海面に目を凝らす。

小さな欠片となった貝殻はいくつもあるが、ちゃんとした形で残っているものは少ない。

 リリアはやっと手のひらに収まるほどの貝殻を見つけると顔を綻ばせながら手を伸ばした。

手にした巻貝を見てみると巻貝の穴に小さなハサミが見えた。

じっと見ていると中にはヤドカリ入っており、逃げ出そうと顔を出して必死にハサミを振り回している。


「みてー! 貝の中カニがはいってるの!」


「かに! みせてみせて!」


「貝の中にカニがいるの?」


 リリアの手にしたヤドカリを二人して覗き込むとヤドカリは振り回していたハサミを蓋にして顔を貝の中へと引っ込めた。


「ほんとだ! かにいるの!」


「貝の中にカニがいるなんて不思議だね」


「不思議だよね! あとでママにも見せてあげよ」


 三人は一度海からあがると浜辺に腰かけていたミーナのもとに貝殻と鱗を置いてまた海へと探索に出る。

ミーナは愛でるような表情で三人を見ながら貝殻を膝の上に置いている。

視線の先には波打ち際で裸足の少女三人がスカートを濡らすのも厭わず貝殻探しに夢中になっている。


「うふふ……なんて可愛いのかしら。裸足で貝殻探しなんて」


 ミーナの目に映る三人は無邪気で儚くて尊くて、それらを見ていればオオシマが母になる気持ちも分かる気がした。

幼い少女たちが笑いながら遊んでいる。ただそれだけなのに、そこには大人になっては感じることのない無邪気さや素直さ、純粋さがある。

 後ろの小屋からは怒鳴り声が響いたり壁が吹っ飛んだりしているが、そんなことを気にすることもない。

すでにプーフもリリアもシロもオオシマがぶち切れる様は何度も見ている。

もう慣れてしまった事柄にいちいち驚いたり目を向けたりはしなかった。またママが怒っている程度に一瞬だけ考えてあとは目の前の貝殻探しに夢中になっている。


「後ろでママはぎゃぁぎゃぁ騒いでるのに娘ちゃんたちは無邪気に貝殻探し。オオシマさんの娘ちゃんたちは逞しいなぁ」


 目を細めたまま少女たちを見る。相変わらず後ろからはオオシマの怒鳴り声が響いているが誰もその声に関心を示さない。

またいくつかの貝殻を拾うと走ってミーナのもとまで近づいてくる。


「おねーちゃんみてみて。まるいきらきらみつけたの!」


 プーフが持っているのは真珠のような玉だった。

研磨されていないため完全な球体ではないがそれでも輝きは真珠そのものだ。

笑顔で真珠を見せて膝の上に載せるとプーフはまた海へと駆けだす。


「リリアも見つけたよ! ほら今度は赤いの!」


 リリアが持ってきたのは赤いサンゴの欠片だった。

指先ほどの長さのサンゴは光沢があって日の光を浴びて輝いている。

きっとこの貝殻やサンゴたちは娘たちにとって宝物なんだろうなとミーナは思う。

綺麗に輝くものは人の心を奪う。娘たちにとって貝殻は宝石と同等のものなのだろう。だから見つければ嬉しくなって自慢したくなる。自慢したいからミーナに見せてくる。

オオシマが戻ったらオオシマにも見つけた貝殻たちを披露するのだろうなぁと考える。


「良い子たちねぇ。オオシマさんはこんな景色を毎日見てたのかぁ。そりゃママにもなるわ」


 いつしかミーナの上には大量の貝殻が積み上げられると、三姉妹はやっと満足したように海から足をあげた。

積みあがった貝殻を砂の上に一枚一枚並べると三人はその場にしゃがみこんでどれが一番綺麗なのかと話し合っている。


「さいしょにみつけた貝がいちばんきれいなの」


「私はこの鱗かな。透明で綺麗」


「リリアはこの丸いのがいいな。プーが見つけた丸いの。これで飾り物作れそうじゃない?」


 親指と人差し指で真珠を掴んで太陽に翳す。


「リリーは花冠つくれるしなんでもつくれるの」


「へへー私の特技だからね。紐さえあれば首飾りとかブレスレット作れそう」


「いいなぁ。私の鱗も何か作ってほしいな」


「じゃぁおうち戻ったら皆で作ろうよ。これだけあればたくさん作れるよ」


「プーね、この貝がらでブレスレットつくりたいの」


 プーフが手にしているのは最初に拾った大きな巻貝である。

さすがに大きさがある故にブレスレットにするには相当の加工が必要ではあるが、プーフは今からブレスレットにしようと想像を膨らませて自分の手首に当てている。


「さすがにそれをブレスレットにするのは難しいよ」


「んー、じゃぁこれはママにあげるの。こっちのちいさいのならできる?」


 巻貝を傍らに置いて並べられていた小さな二枚貝をリリアに見せる。


「それくらいならできるよ。穴開けて紐通せばすぐだよ」


「じゃぁこれでつくるの」


「一枚だけじゃなくて何枚も重ねれば綺麗なのができそうだね」


 シロは小さな貝殻を数枚掴むと砂の上に貝殻を輪になるように並べた。

色とりどりの小さな貝がブレスレットを形取っている。


「あ、それいいね。小さいの重ねれば綺麗なのできそう」


「えへへ。作ったらママにプレゼントしてあげたいな」


「じゃぁプーたちでママにプレゼントつくってあげるの」

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