姉妹喧嘩
ストローに口づけてふぅと息を送り込む。
小さなシャボン玉が浮かび上がると光を浴びて輝く透明色なシャボン玉がふわりゆらりと町に流れる。
三人してシャボン玉を作るものだからプーフたちが歩いた後にはいくつものシャボン玉が漂って足跡を残すようだ。
「きれいね」
「私たちまでもらっちゃって。優しいカエルさんだったね」
思いがけずシャボン玉を手に入れたシロもストローを吹くと小さなシャボン玉が漂う。
「いいカエルだったな。プーのおかげでオマケまでもらっちまって」
言いながらオオシマはプーフの頭を撫でる。
撫でられたプーフも満足そうに笑うとまたシャボン玉を吹いた。
そんなやりとりを見てリリアは口を尖らせた。
自分のほうがお姉さんなのにプーフばかり褒められている。年下のプーフの“おかげ”でシャボン玉が手に入ったと思うと何だか気にくわない気分がした。
いつもオオシマはプーフばかり世話を焼いて褒める。いつも自分はプーフたちの面倒を見てオオシマを手助けしているつもりなのに。
胸の内に小悪魔が現れるとリリアはシャボン玉を吹く気が失せた。
「リリア、シャボン玉しないの?」
「うん。今したくない」
ストローを瓶に収めて機嫌悪そうな顔をするリリアにシロがどうしたのかと顔を覗く。
シロの顔が自分に向けられるとリリアは顔を背けて意地悪そうに黙り込んだ。
シロも良い子だとは分かっているが、一番後から入ってきたのに一番オオシマに甘えている。
オオシマの膝の上は自分の特等席だと言わんばかりに、いつも真っ先にオオシマの膝に腰かけたり事あるごとに甘えて引っ付いていた。
リリアは自分は年上だからと我慢しているのに、シロは容赦なく引っ付き思うままに甘えている。
考えれば考えるほど自分が損しているような気がしてならなかった。
プーフが語っていた過去もそうだ。
二人は運命的な出会いをしているように思えた。なのに自分はただ奴隷屋にカチコミしたオオシマに無理やり連れ出されただけ。
オオシマ自身そのときは怒りの感情任せで正確にどう出会ったかは思えていない。
ぽっとでの自分は二人に比べて印象が薄いように思えてしまう。
歩いていると香ばしい匂いが漂ってきた。
いつの間にかいつものクッキー店の前に来ていた。相変わらず女店主が元気そうにバスケットにつまったクッキーを運んで店頭に並べている。
「おばさん、こんにちは!」
「あらお嬢ちゃん、また来たのかい」
「クッキーかいにきたの」
「あら、そうかい。贔屓にしてくれてありがとうねぇ」
屈託のない笑顔に女店主は笑いながらしゃがんでバスケットの中身を見せた。
以前見たものとは違う色合いのクッキーだ。ピンク色したクッキーが中に詰まっており、いつもとは違う甘さだけでなく酸味の感じられる匂いが鼻に届いている。
「今日は新しいクッキーを作ってみたんだ。ベリーをすり潰して生地に混ぜたフルーツクッキーさ。一個食べてみるかい?」
「たべる!」
女店主は気前よく一枚丸ごと三姉妹に渡して試食させた。
ピンク色のクッキーには中にベリーの実が入っており口にすると甘さとほのかな酸っぱさが口に広がる。
普段食べなれていない味にプーフもシロも喜んでクッキーを平らげた。
しかし、リリアはクッキーを受け取っても口をつけられないでいた。
――またプーフの“おかげ”でお菓子をもらっちゃった。
プーフばっかり。
そう思うと手にしたクッキーをとても口にできなかった。お零れをもらったような気がして自分が卑しく思える。
「おや、あんたは食べないのかい? ベリー嫌いかい?」
「……今食べたくない」
「リリーたべないの。たべないならプーたべちゃうよ」
口にしないリリアをすでに食べ終わったプーフが口と手にクッキーの破片を散らしながらリリアに詰め寄る。
「いいよ」
もらったクッキーを手渡すとプーフは喜んで二枚目をかじり出す。
笑った顔を憎らしく思ってしまう。何でプーフばっかり。本当は食べたいのに。
「プーなんて食べすぎてデブになっちゃえばいい」
「……リリー?」
いつになく突き放すように言う言葉にプーフも心に釘を刺されるようだった。
いつものリリアなら共に笑って楽しんでお菓子を食べているはずなのに。今のリリアは刺々しくてプーフの手のひらで触れば傷を残してしまいそうに思える。
「プー、デブになんないよ?」
「そうやって食べてればデブになるんだよ。ママだって言ってたでしょ」
「ならないの……」
「だって、プー昔よりもお肉ついてるじゃん。お腹だってぷにぷにしてるじゃん。お風呂でいつも見てるからリリア知ってるんだから」
「……おにくついてないもん!」
「ついてますー。プーはもうデブになってますー」
「なってないもん!」
「エビフライだってプーだけ尻尾食べてたよね? リリアたちは残してたのに。プーばっかり皆より食べてるんだからデブにもなるよ」
「……プー、デブじゃないもん……」
普段責められることなどなかったプーフは次第に顔色を暗くさせるとスカートをぎゅっと握り視線が徐々に下へと落ちていった。
リリアは責めてしまったのを悪く思った反面、また泣き出すのかと思った。
泣き出してまたママに慰めてもらって。胸の小悪魔はどうしてもプーフを責めたくてしかたなかった。
「また泣くの? そうやって泣いてばっかりでいつもママ困らせて。少しは泣かないようになりなよ」
「泣いて……ないもん……プー……泣かないもん」
二人のやりとりを見てシロはどうしていいか分からずに交互に二人の顔を見ながら言葉を無くしていた。
どちらかに加勢すればどちらかを傷つけてしまう。下手に口を挟めばきっとリリアはシロも責めるだろう。
シロはどうしていいか分からなくてただ手を口に当てて二人を見るしかなかった。
「おいおい喧嘩すんじゃねーよ。どうしたってんだ」
「別に。思ったこと言ったらプーが泣いただけだよ」
「プー泣いてないもん!」
叫び声をあげながらあげた顔は涙を流していた。
スカートをぎゅっと握って口を震わせて頬に涙が伝っている。
プーフはどうしてリリアがここまで責めるのか分からなくて、ただ言われる言葉を否定し続けるしかない。
「ほら泣いてるじゃん。泣き虫プー」
「泣き虫じゃない!」
「じゃぁ何でほっぺた濡れてるの、目から零れるのは涙じゃないの?」
「ちがうもん! プー泣いてない!」
「マジでオメェら止めろや。くだらねぇことしてんじゃねぇぞ」
オオシマが止めに入るとリリアはいよいよ嫌気がさした。
プーフに加勢したわけではないが、自分が怒られているように感じてしまう。傍から見れば妹をイジメる卑屈な姉に見えるだろうとリリアは考えてしまう。
そう思えば自分の卑しさが嫌になる。そして涙を流すプーフを余計に嫌になる。
涙を流せばオオシマが慰めてくれる。構ってくれる。
「リリーのいじわる! プー泣いてないの!」
怒鳴り声をあげるプーフ。ぼろぼろ涙を決壊させる姿はとても可哀そうに見える。
じゃぁ、私はどうだろうと思う。
「泣いてるじゃん! 泣き虫でデブなプー! ずっと泣いてればいい!」




