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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
三章∶異世界商売録-元ヤクザだけどプリン屋始めました-
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しゃぼん玉

 下流の町ベローナの宿屋に到着すると、荷車を宿に預け5人は部屋に案内された。

広々とした空間は木造りになっているが、床には暖色の絨毯が敷いてあり暖かさを感じる。

キングサイズを超える大きさのベッドに石造りのキッチン、ベランダには外を眺められるように椅子まで並べられている。


「随分上等な部屋だな。ジェニーにあとで礼を言わねぇとな」


 いくつかの日用品の入った大きな麻袋をベッドの上に投げると同じように身体をベッドに投げ出した。

大の字になって広すぎるベッドに体を埋めると、娘たちはニヤリと笑ってオオシマに向かって駆けると勢いよく飛びついた。

小さな体が3つオオシマの上に重なる。


「ママ今日はどこか行くの?」


 横になったシロはベッドに伸びたオオシマの長い金髪を三つ編みしながら問いかけた。


「後でジェニーんとこには顔を出すつもりだが、あとは決まってねぇな」


「お魚捕れるようになったかな?」


「もうリバイアちゃんは海を荒らさねぇだろうし大丈夫だろ」


「おおきなさかなみてみたいの!」


 プーフは以前ワプルが『海で捕れる魚は川で捕れるものよりも大きい』という話を思い出した。

出会った時にワプルが描いた海の魚は種類こそわからないが、プーフが描いた魚よりもずいぶん大きかった。

もう漁が再開されているならばトーマスは大きな魚を手にしているに違いないと思うと、プーフは鼻息を荒くしてどんな魚がいるのだろうと期待が膨らんだ。


「せっかく町に来たし、リリアまたクッキー食べたいな」


「あーそうだな」


「買ってくれるの?」


 オオシマはふと考えた。

このまま欲しいものを欲しいときに買い与え続けてはそれは甘やかすことになる。

それこそ今はクッキーで済んでいるが後々はもっと色んなものを欲しくなり、その都度甘えてくるのではないか。

ならば数日に一回の小遣い制にして自分たちで考えながら買い物などをさせたほうがよほど良い。

そう思いつくとオオシマは娘たちを横一列に並ばせて麻袋からさらに小さな金の入った麻袋を取り出すと、娘たちに札を一枚だけ渡した。


「いいかオメェら。これからはニ週間に一回の小遣い制にする。だからこれからはその小遣いでやりくりしてほしいもん買え」


「にしゅうかん?」


 プーフたちには二週間というのがどれくらいか分からなかった。

この世界にはカレンダーなどはなかったことを思い出すとオオシマは『そりゃわからねぇか』とぼやいて説明しだした。


「いいか、14日経つごとに一回小遣いをやる。渡すのは今のと同じ額だ」


「じゃぁ待ってればお小遣いもらえるの!?」


「まぁそういうことだ」


 リリアは目を輝かせるともらった紙幣を掲げて嬉しそうに見つめた。

今迄はたまの外出のときに買ってもらったり小遣いをもらいをしたが、定期的なものはなかった。

それがこれからは定期的にもらえるとなるとリリアはこれからは何でも好きなものを買えると思い胸が弾んだ。


 改装費用が思ったよりも大幅に低く済んだため娘たちに小遣いをやれることにはなったが、オオシマは一瞬このままで大丈夫だろうかとも考えた。

今手元にはまだいくらかの金があるが、それでもまだ定期的な収入はない。

一月は町にいなければならないため、その分の宿泊費もかかる。それらを差し引けばオオシマはまた無一文のような状態になりかねない。

 ならば早急にプリンを作って実際にウケるかどうか試してみたくなった。


「よし、じゃー今日は買い物して回ったらジェニーんとこ行くぞ」


「わーい!」


「リリアはお洋服みたいな。シロがこの前お洋服買ったお店行こ!」


「私は別に欲しいものはないケド…ママと一緒にお買い物したいな」


 娘たちは小さな麻袋の中に紙幣をしまうと早く町に出ようとオオシマの手を引いた。



 町に出ると小さなシャボン玉の泡がいくつも浮かんでいた。

どこからか流れてきたシャボン玉を見つけたプーフは、右から左へと町を流れていくシャボン玉を目で追うと泡は途中で弾けて消える。


「いまのなに!?」


「シャボン玉だな」


「しゃぼんだま! プーあれほしい!」


「どっから流れてきたんだろうな。探してみるか」


 シャボン玉が流れてきた方へと足を進めると、人の行き交う流れの中に小さなシャボン玉がいくつも浮かんでいる。

シャボン玉に誘われるように道を進むとそこには一軒の小さな店がある。店の前には立て看板が設置されており、シャボン玉があることを示すように『泡屋』と書かれている。

扉の開かれた店内に入るとそこには赤や青のグラスがいくつも飾られ、中に液体が入っている。


「いらっしゃい」


 店の奥にいたのはプーフたちより一回りは小さい青いカエルだった。

だが他の獣人と同じように二足歩行できるようで、木箱の上に腰を降ろすと水かきのついた手で体と同じように青いガラス瓶を持っている。

ガラス瓶に差し込まれたストローを口にすると、優しく息を吐き出してシャボン玉をつくりあげた。


「しゃぼんだま!」


 浮かび上がったシャボン玉をプーフは飛び上がって手で触ると音もたてずに割れて無くなる。

まだ浮かんでいるものも飛び跳ねて消すと、プーフは口を開けて笑いながらカエルに目をやった。


「しゃぼんだまください!」


「はいよ。2ゼリーだ」


 プーフが麻袋から札を渡すとカエルは銀色のコインを8枚渡した。

カエルは木箱から腰をあげて後ろで腕を組みながら店内のガラスたちへと目をやる。

色とりどりのガラスたちはどれも煌びやかで色は違えど子供心をそそる色合いをしている。


「お嬢ちゃんどれがいいの?」


「んー、どれにしよう」


 一つ一つ見て回り手に取って吟味するプーフ。

シロとリリアも一緒になってガラスたちを確かめるとプーフはカエルと同じ青いガラス瓶に決めた。


「これください!」


「おっほっほ。俺と同じ色を選んでくれたか」


「カエルさんのいろきれいだから、しゃぼんだまもおなじいろにするの」


「嬉しいこといってくれるねぇ。かわいいお嬢ちゃんだ」


 カエルはプーフの純粋な言葉に心を温かくするとガラスたちが並んだ中から特に小さな瓶を二つ持ち出し、シロとリリアに持たせた。


「こいつはオマケだよ。どうせなら三人でやったほうが楽しいだろう」


「いいのか?」


 一つの代金しか払っていないにもかかわらず、二つもガラス瓶をオマケするカエルにオオシマは腕組しながら驚いたように顔を向けた。


「いいのいいの。小さいのは元々あまり利益ないし。それに三人が楽しそうに遊んでくれればそれが広告となるだろ。だから俺にもありがたいんだ。気にせず受け取りな」


「気前のいいカエルだな」


「グワッグワッグワッ。いいってことよ。代わりに街中でシャボン玉吹いてくれよな」


 自分にも利があるからとカエルは鳴嚢(めいのう)を膨らませてカエルらしい鳴き声をあげながら笑った。白い皮膚がシャボン玉と同じように膨らんでは萎むのを繰り返している。


「だとよオメェら」


 シャボン玉液の入った瓶を手にした三人は笑顔でさっそくストローに口をつけて息を吹いた。

小さな泡が浮かび上がると店いっぱいに広がっていく。


「カエルさんありがと!」


「あいよ。またおいで鬼姫のお嬢ちゃんたち」


 去ろうとしていたオオシマはカエルの言葉に一瞬むっとした表情を向けたが、カエルには悪気がないように笑顔で娘たちに手を振っている。

そこに悪意はないのだろう。恐れられる名ではあるがカエルはそれを知りながら臆することも悪態をつくこともなかった。

悪名として轟いていると思えたが、カエルの様子を見ればそれだけではなさそうだと思えてオオシマは少しだけ心が軽くなる気持ちがしていた。

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