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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
一章∶仁義なき異世界スローライフ編
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エルフの幼女と魚取り

 川に入るとタモ網を川底に突っ込み、上流から足を突っ込んで石や岩を退かし網を掬いあげる。

中には先ほどと同じ種類の小魚が二匹ほど網に入って水を飛ばしながら跳ねている。


 オオシマについて裸足のまま川へと入っていた少女は魚が捕れたことに眼を輝かせながら網の中身を見つめている。


「いいか。網は川底に押し付けるように突っ込め。底と網の間に隙間があるとそこから逃げ出すからな。石を退かすときはなるべく網の近くでやるんだ。あんまり遠いと魚は横に散って逃げちまう」


 少女は手にした小さなタモ網を聞いた通りに川底に突っ込むと小さな手で石を退かして網を掬い上げる。

網の中には魚は入っていないが代わりに少女の手のひらの大きさほどの赤いカニが入っている。

 少女はまたまた目を輝かしながら網の中身を見てほしそうにオオシマへと網を突き出す。


「サワガニみてぇだな。こいつもドロ抜きすりゃ食える」


 食えると聞いた少女ははしゃぐようにしてカニを掴もうとするが、威嚇態勢に入ったカニは小さなハサミを振り上げて少女の手を防いでいる。


「後ろから背中を押さえるようにつまみ上げな」


 言われた通りに後ろから手を回すとカニはハサミを振り上げるが背には届かずに、そのまま少女に掴み上げられた。

 それを見てまた少女は笑ってカニを見せつける。


「できたじゃねぇか。バケツん中入れとけ」


 持ってきていたバケツに水を汲んでカニを入れた。

カニはバケツの中で落ち着かないように走り回っているが、逃げ場がないと分かると静かになり、口から泡を吹いている。


 一匹捕れたことで少女は自信がつき、魚を捕る楽しみを味わった少女は再びタモ網を突っ込んでは石を退かす。

 今度も小魚が網にかかると嬉しそうに笑いながらオオシマに網の中身を見せつけてくる。

その反応にオオシマも笑ってみせると少女は喜んで魚をバケツに放り込み、何度も網で魚やカニを掬った。


 やがてバケツの中には溢れんばかりの小魚やエビ、カニが所狭しと動いている。


「随分捕れたな。エビとカニはドロ抜きするから魚だけ食おう。刺す枝が足りねぇからそこらの棒を拾ってきてくれ」


「はい!」


 言われて少女は嬉しそうに駆け出し河原にしゃがみ込むと小さな木の枝を拾い出した。

裸足のまま手に枝を何本も掴む少女。しゃがみこんでボロ布のスカートの中身が見えるのもお構いなしにいくつも枝を拾い上げている。


 それを横目に見ながらオオシマもナイフで小魚を捌いた。

小魚の中でも大ぶりのものは腹を割いて内臓を取り出し、こぶりなものはエラだけ処理して〆る。


 少女が両手いっぱいに木の枝を持ってくると魚の排泄口から枝を突き刺し、身体をまげながら差し込んで口まで枝を通す。

オオシマがやっているのを見様見真似で少女も枝を突き刺すが枝はうまく刺さらずに小魚はぐちゃぐちゃになってしまっている。


 一生懸命にやっているのは分かるが少女ながらの不器用さにオオシマは軽く吹き出すように笑った。

 笑われて少女は頬を膨らませながら怒ると手にしていた魚を放り出して次の魚へと枝を通すが、やはり上手くはいかない。


「そのうち慣れる」


 ニヤつきながら慣れた手で魚を串刺しにするオオシマに少女は頬を膨らませながらも、オオシマの手付きを学ぼうとじっと刺し方を見つめている。


「おねーちゃん、じょうずだね」


 おねーちゃんと言われてオオシマは否定しそうになったが、今は金髪美少女なのだと思い出すと気まずそうに口を閉じた。

そうか、このガキにはおねーちゃんに見えているんだな、と思うと心の中がモヤモヤする。


 心はまだ男のままだ。しかし傍から見れば女。整理がつくにはまだ時間を要するが、オオシマはとりあえず招いていない客人と過ごすことに意識を向けた。

そうすれば現状から目を逸らせるし、下手に考え込まずにすむ。


 それに客人の耳の尖った少女はワケありのようだ。

オオシマ自身がワケありな人物であった。それ故に同じような境遇の仲間や目を伏せたくなるような現実の中で生きてきた人たちを見ている。

少女に対しそれに通じるものを感じた。

 それに何より見知らぬ地で話し相手ができたというのはオオシマにとって大きな収穫である。


「おねーちゃんきいてるの?」


「わりぃ、考え事してた」


 沈黙するオオシマの顔を覗き込む少女。

目の上の痣が痛々しくてオオシマの心には再び針が刺すような痛みがした。


「なにかんがえてたの?」


「なんでもねぇよ」


 一通り枝を指し終えてそれらの魚の束を持って家へと戻る。

少女もこれからまた魚が食えると期待して尻尾を振る犬のようにオオシマの後ろをおいかけている。


 家に入ると暖炉の灰の上に魚を突き刺した。

火は着いていないが、熱があり赤外線の効果で放置しておけばいくらかは火が通る。

魚はしばらくはその場に放置することにし、オオシマは次の手にかかろうとした。

 見た目からして少女は何日も風呂に入ってはいない。それでは体臭もきつくなるし感染症にもかかりやすくなる。

先ずは少女の清潔保持をしなければならないと考えていた。


 すぐにでも食事に取り掛かるものだと考えていた少女は不思議そうにオオシマを見つめた。


「飯の前に風呂だ。服も汚れちまったし汗かいたしな。オメェ先はいんな」


 風呂に入れというオオシマに少女は眉をハの字にして嫌な顔をした。

無言でオオシマを見つめると口を突き出して嫌アピールをしている。


「なんだ、風呂も一人ではいれねーのか?」


「おねーちゃんといっしょならいいよ」


「はぁ? 風呂くらい一人で入れ」


「や! おねーちゃんと!」


「二人入れるようなデカイ風呂じゃねーんだ。さっさと入って体洗ってこい」


「やー!」


 少女はその場に倒れ込むと手足をバタつかせて大袈裟に嫌がってみせた。

癇癪を起こす少女にオオシマは頭を掻いてどうするか考えた。

元々ヤクザなオオシマは子供をあやしたことなど無い。昔のようにガタイのいい強面ならば睨みを利かせ黙らせることもできたが、今は金髪の美少女ときている。

睨みを利かせたところで通じることはないだろう。


「わーったよ! 入ってやるからさっさと服脱げ!」


「はい!」


 オオシマが諦めて入るとなると少女は打って変わって、さっとたちあがるとボロ布を一気に脱いで投げ捨てた。

辟易としながらオオシマも白いワンピースを脱いだ。

傍から見たら母親と子供だろうかと考えながら、オオシマは少女を連れて浴室へと向かった。

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