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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
二章:異世界任侠伝ー川の底に咲く花ー
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はじめての海

 この世界で初めての友人を得たオオシマは久しぶりの酒を堪能しながら、友人との話を止められなかった。

前世のことについては触れないが、同じと親として話は絶えずに気づけば夜遅くを回っていた。

すでにプーフたちはワプルと共に眠りこけていたし、ジェニーの提案でオオシマたちはくまのレストランに一泊していた。


 翌日になり、とりあえずは海でリバイアちゃんと会ってみようという話になり、トーマスの所有する舟に乗り込むとオオシマたち一行とワプル、トーマスは海を目指した。


 舟に乗るのが初めてであるプーフたちは舟のヘリから川の中を覗きながらはしゃいでいる。

日の光を反射する川の中には、多くの魚たちが群れとなっておよいでいる。

水面に映った子供たちの顔はどれも笑顔で初めての川下りを存分に楽しんでいた。


「みてみて。おさかないっぱい! あぶらはやかな? うみのおさかなはもっとおっきい?」


「もっともっと大きいよ。これくらいの魚なら一口で食べちゃうくらいに大きいんだよ」


 ワプルの話に想像が膨らむ。

目の前で群れをなす魚を一口に食べるなど、相当な大きさであることは間違いないだろう。

海にいけばそんな魚が見れるのかと思えば、三姉妹は勝手に期待ばかりが膨らんでいく。


「私、海って初めて行く。どんな場所なの?」


 問いかけながら、シロは甘えてオオシマの胸に背を預けた。

大股を開いて腰かけていたオオシマの足の間にすっぽりと収まると、シロはオオシマの顔を見上げている。


「海ってのは川とは比べ物にならないほどデカい水の集まる場所だ。あと、川とは違って海の水はしょっぱいんだ」


「え、どうして?」


「どうしてだろうな。昆布からダシでも出てるんじゃねぇか?」


 冗談交じりに笑うオオシマだが、シロは昆布の存在も知らない。

どうしてしょっぱいのかという答えが導きだせず、シロはオオシマの手を握ると指先をいじって遊んでいる。


「ママは行ったことあるの?」


「あるぞ。随分前だけど舟に乗って海釣りにいったんだ。台風の後だったから海はオオシケで皆吐きまくってたな」


「たいふう? おおしけ?」


「台風ってのは巨大な空気の渦のことだな。オオシケってのはそういった天気の影響で海が荒れることを言うんだ」


「そうなんだ……早く見てみたいなぁ」


 シロの頭に顎を乗せると、小さな体を抱きしめながら川の先を見やった。

まだしばらく川は続いているが今日は天候にも恵まれ、いい日差しが差し込んでいる。

過ごしやすい気温に、川は穏やか。吹き抜ける風は心地がよく、何だか幸先がいいように感じられる。

目的はリバイアちゃんとの話し合いだが、プーフやリリア、シロに海を見せてやれると思えば、いい経験になるだろう。

川や野原ばかりで行動範囲は随分狭かったし、どうせならば三人に色々経験させてやりたいと思っていた。



 辿り着いた光景にプーフたちは顔を眩しくさせていた。

目の前に広がる白い砂浜。吹き付ける潮風。海は水平線の彼方まで続くと日の光を浴びて煌めいている。

白い砂浜に打ち寄せる波はゆるやかで、心地よい波の音を立たせている。


「うみだー!」


 舟から降りるとプーフが波の寄せる白浜を駆けた。

リリアもシロも続いて波打ち際まで駆けると、足元に届く波に靴が濡れないように波から逃げている。


「かわよりおっきー!」


「こんなに広いなんて知らなかった! どこまで続いてるんだろー」


「本当にしょっぱい」


 波打ち際にしゃがみこんだシロは指先を波に濡らして一口舐めていた。

口に広がるしょっぱさに舌を出すと苦い顔をしながら手で舌を拭う。


「僕は舟を片すから、みんなは漁師宿に行っててくれ。砂浜の先に小さな小屋が見えるだろう」


 トーマスが指を差す先には小さな木造りの小屋が見える。

漁師が使っていたとわかる小屋の前には、漁で使うための投げ網やタモ網が天日干しされている。

また、小屋の前には漁でとったと思われる貝殻が籠の中に入って積み重なっていた。


「今じゃあの小屋を使うのも僕くらいさ。悲しいもんだよ」


 昔は漁師仲間で憩いの場として使われていたであろう小屋に人の気配はない。

オオシマは改めて海の現状を思い返すと遊びにきたわけではないと目を覚ます思いだった。

子供たちは大いに遊んでいるが、自分はあくまでリバイアちゃんとの話し合いのために出向いている。

少しばかり浮かれてしまっていた気持ちに蓋をすると、はしゃぐ子供たちをよそにオオシマは小屋へと向かった。


 人気(ひとけ)はないが小屋の中は綺麗に片付いており、中にはオオシマたちの住む家と変わらない姿をしていた。

キッチンもあるし、テーブルも椅子もある。寝泊りが出来るように部屋の隅には布団も数枚折り畳まれて積み重なっている。


「さて、じゃぁ一休みしたらリバイアちゃんのところに行こうか」


 舟を仕舞ったトーマスが後ろから声をかけると、さっそく本題へと切り込んだ。


「そのリバイアちゃんってのはどこにいるんだ?」


 テーブル椅子にどかりと腰をかけるトーマス。

対面に腰を降ろしながらオオシマが問いかけるとトーマスは鼻を舐めながら口を開いた。


「どこにいるかは分からない。でも、舟に乗って沖へ出れば姿を現すよ」


「じゃぁ、一休みしたら沖に出よう」


「あぁ。話し合いで何とかなればいいんだけど」


「そうだな」


 大人たちの事情など露知らず、波打ち際では裸足になった四人が走り回っている。

溜息一つつくとオオシマは空へと視線を向けた。澄み切った空には入道雲のような大きな塊の雲が流れて日の光を遮っていた。



「じゃぁ、ちょっくら出てくるからお前らは大人しくしてろよ」


 早めの昼食を片付けるとオオシマはまだ食事をしている三人娘に口を開いた。


「どこまでいくの?」


 出された干物の開きを咀嚼しながらプーフが尋ねた。


「ちょっくらトーマスと沖まで出てくる。もしかしたら長くなるかもしれねぇ。お前らはくれぐれも海に入るなよ」


「えー、プーあそびたーい」


「私も」


「私はママがいうならちゃんと言いつけ守るよ」


 プーフもリリアも口を尖らせていたが、シロはオオシマの話を承諾した。

水辺の怖さは誰よりも心得ている。シロは川の底で荒れる様子を何度も見ていた。水の流れはときとして簡単に人の命を奪う。

それが海ともなればその威力は計り知れない。

シロも遊びたい気持ちは勿論ある。しかし、水の怖さも知っているしオオシマに言われたことならば守らなければならないと固く胸に刻んでいた。


「むー。シロはママのみかたなの」


「ママだって私たちのことを考えていってるんだよ。ママが戻ったら遊ぼう」


「むー」


 シロに諭されるとプーフもいじけたようではあるが、オオシマの話を受け入れた。


「じゃぁ、オメェらは小屋で大人しくしてろよ」


「はーい」


 三人の返事を聞くとオオシマはトーマスと共に外へと出た。

砂浜に用意していた舟を二人で押し出して海へと運ぶ。着水した舟に乗り込むとトーマスは備え付けてあるオールを漕いで舟を沖へと進めた。

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