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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
二章:異世界任侠伝ー川の底に咲く花ー
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頭蓋骨探し

 眠れないままに夜明けを迎えると、オオシマは一人川へと足を踏み入れた。

まだ日がわずかに顔を出したばかりの朝の川は冷たくて足の熱を奪う。

 少しの感覚でもいいから掴もうと思い、オオシマは裸足だった。

長靴を履いていては足裏の感覚がわからない。骨ならば他の石よりも軽くてざらつく質感なはずだ。


 垂れさがる長い髪の毛が視界の邪魔をしないように後ろに束ねられている。

 川辺で拾った棒を頼りに川の中を探り、冷たい水の中に手を突っ込む。

小さな欠片が付近に流れ着いているのならば、頭蓋骨はまだ上流のほうにあるはず。

オオシマは家の前を出発点に上流へと向かいながら砂利の中に棒を突っ込み、石を退けながらシロがいっていた頭蓋骨を探す。


 こんな冷たい中で長い間過ごしていたのだろうか。

心が痛む。

どこにいるかも分からない砂利をかき分けると、泥が舞い上がって水を濁らせて流れていった。



 目が覚めたプーフは家の中にオオシマがいないのに気付くと外へと出た。

霧のかかった野原と川には水の流れる音が響いている。その中に水の中を歩くような音が聞こえると、プーフはオオシマが川の中にいると確信して川へと走り出した。


 長い金髪を束ねたオオシマが棒を川底に突き刺しながら何かを探しているのを見つけると、プーフはきっとシロを探しているのだと気づいた。


「ママ!」


「おう、プー」


「なにしてるの?」


「シロ探してんだよ」


「シロちゃんを?」


「言ってただろ。あいつは川の底にいる。それも頭蓋骨の状態でな」


 言いながら川の底へ棒を突き刺す。

違和感を感じて拾い上げてみるが、ただの流木。後ろに流木を投げ捨てると再び棒を突き刺して砂利の中を探る。


「プーもさがす!」


「オメェらは朝飯食ってからにしろ。それまで俺探しとくからよ」


 いても立ってもいられなくなったプーフは家の方へと走っていく。

オオシマが朝早くからシロを探しているのを見ると、自分も探さずにはいられなかった。

プーフはオオシマの言いつけを守りつつ、リリアを起こして三人で探そうと思い家の中へと消えていく。


 プーフは程なくしてリリアを連れて再び川へ姿を現した。

まだ眠い時間であろうに、二人の顔は覚醒している。冷たい川に足を入れると身震いをしたがオオシマと同じように棒を持つと砂利の中を探った。


「頭蓋骨ってのは頭の骨だ。それっぽいものがあったら拾え」


「わかった」


「頭の骨……見つけたら言うね」


 本当ならばまたシロが現れたときに頭蓋骨がある場所を聞き出せばいいのかもしれなかったが、夏祭り以降シロは姿を見せることがなかった。

夏祭りで見たのを最後にシロは本当に消えてしまったように誰の前にも姿を現さなかった。

来る日も来る日も川へと足を踏み入れても、頭蓋骨が見つかることもなければ、シロが現れることもない。


 それでもプーフたちは冷たい川底にいるシロを考えると、動かずにはいられなかった。



 眠るように意識が途切れていた。

数えきれないほど見た景色が目の前に広がる。シロは何も考えることができなかった。

目の前には登りかけた日が少しばかり雲に隠れている。やがて雲は流れると水底を明るく照らす。


 夏祭りから数日が立っていた。

あの日を最後にシロは姿を現せずにいた。

楽しい日々、願うことすら叶わなかった日々を噛みしめると幸せだったと思う。

しかし、同時にそんな日々もいつかは終わる。


 シロは既に死んでいる。それも何百年も前に。

幽霊となっても骨に縛られて延々と意識だけがある。

その現状を考えると、いつかはプーフたちは年老いて死んでゆくのではないかと思えた。

皆が死んだらまた独りぼっち。

限りある幸せを噛みしめるならば、このまま幸せな記憶を増やさないほうがいいのではないか。


 幸せの先に別れがあるのならば。

それに過ごす中で、もし触れてしまえば命を奪ってしまう。

 多すぎる縛りを背負って共に過ごすならば、このまま孤独に水底にいたほうがいい。

幸せな記憶が増えて悲しくなるなら、もう悲しい思いはしたくない。


 叶えられない夢に終わりがあるのなら。

あの素晴らしく幸せだった日々を最後にしたい。


――神さま、どうして私をこんなに嫌うの。


 やり場のない気持ちを空に昇る日に語り掛けた。


――どうしてこんな能力を授けたの。どうして死なせてくれないの。


 揺れる水面を一凛の花が流れていった。

白い花。見覚えのある花だった。

オレンジ色に染まる野原でプーフとリリアが花冠を作ってくれた。

出来上がった花冠を頭に被せると、リリアは『お姫様』と言ってくれた。

花を見ただけで思い出される記憶に涙が出るような感覚がした。


――プーフ……リリア……花冠、わたしも作りたかったよ。二人に花冠作ってあげたかったんだよ。




 上流から流れてきた花をプーフの小さな手が拾い上げた。


「リリーおはな」


 花を見せつけるとリリアは砂利に棒を突き刺して手を止めると花を見つめた。


「花冠に使うお花だね。それがどうしたの?」


「シロちゃんにまた花冠つくってあげたいな」


 花冠を作ったリリアはシロの頭に載せたときのことを思い出した。

白く長い髪に咲いた花は本当にお姫様のようだった。

だが、その花冠は枯れ朽ちるとシロは涙を流して悲痛な叫び声をあげていた。


『私は………誰からも愛されない』


 泣きじゃくる顔から漏れる絶望の言葉。

きっとシロはプーフやリリアよりも悲惨な過去を送っていたんだろうと思う。

 突き刺した棒を引き抜くとリリアは再び砂利の中を探り出した。


「また花冠つくってあげよう。会ったら“シロを愛してる”って言ってあげよう」


「うん。プーもシロちゃんのことあいしてる」


 日の光が徐々に弱まっているのを感じると辺りは暗い雲に包まれていった。

探索を阻むように空から一滴の雨が降り正すと水面には小さな円がいくつもできている。

降り出した雨は小粒だが、空の暗さを見ればこれから大雨が降るのではないかと予想できる。


「プー、リリー、これから大雨が降るかもしれねぇ。お前たちは家に帰れ」


「ママは?」


「俺はいいから二人は家に戻れ」


「や!」


「やだ」


 大雨を心配するオオシマに対し二人はオオシマを睨んで拒否している。

それがシロのためだとは分かるが、オオシマは二人の身も心配だった。

もし大雨が降って水量が増せば二人は流されるかもしれない。万が一鉄砲水でもきたものならば二人の小さな体はすぐに流されるだろう。

 シロを探したい気持ちは分かる。だからその気持ちは一人で引き継ぎ二人を保護したい。

でも、オオシマの気持ちを二人は受け入れようとしない。

どうしたらいいものかと考えている間にも二人は頭蓋骨を見つけようと棒を突き刺している。


「大降りになったらさっさと帰れ」


「ママは?」


「俺のことはいいんだよ」


「そういってママはひとりでさがすんでしょ! プーたちもさがすの!」


 言っても無駄だなと胸のうちにぼやく。

雨は徐々に勢いを増すと三人の体を濡らしていった。

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