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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
一章∶仁義なき異世界スローライフ編
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オオシマの生活

 濡れた体をそのままにしたせいでオオシマは身震いをした。

心の中は虚無感でいっぱいだったが、身体は何か着るものを求めている。

 狭い部屋に散らかったタンスの中身。そこには白いワンピースがぐしゃぐしゃになって床に落ちている。

他にも服らしいものはあるが、ピンク色だったり鮮やかな黄色だったりと、とてもオオシマの好みではない。

 生前着ていたお気に入りの黒いスーツもないかと探してはみるも、そんなものはどこにもない。

仕方なく白いワンピースに袖を通す。

スカートなど生きてきた中で一度も履いたことがないオオシマは股間あたりに感じる解放感と風通りのよさにぎこちなさを感じた。

ズボンのように包まれている感じがしない。まるで生足を晒しものにしているような違和感に自然と顔が赤くなる。


「畜生、なんだって俺がこんな格好を……」


 鏡で再び姿を見れば白いワンピースを着た美少女が映っている。

まさかこんな姿になるとは。溜息を吐くほかなかった。


 部屋いっぱいに散らかったタンスの中身やひっくり返したベッドを元に戻した。

何か使えるものがないかと周囲を探し、白いレースの下着を見つけるとモヤモヤした気持ちをしながらもとりあえず装着した。

ノーパンでいるよりはマシだ。そうでも言い聞かせないと頭がおかしくなりそうだった。


 一通り部屋を片付けると先ほどは動揺して目には入らなかったものを見つけられた。

女神の計らいなのだろうか、部屋の壁には魚取り用のタモ網の大小が2つ、サデ網の大小が2つ。木で作られたバケツに銛まである。

それらは生前のオオシマの趣味だったものである。魚取りなどのフィールドワークを趣味にしていたオオシマにとってはそれらは何にも代えがたい宝物であり、人生を充実させるものだった。

それさえあれば魚を取ることができる。つまりはこの世界で食料を得ることができる。

 玄関に目をやればサイズがぴったりの膝まで包む長靴まで用意されている。

これらがあれば魚取りができる。

せめてもの救いを見つけるとオオシマはこれなら生きていけるとほんのわずかに安堵した。


 さらにありがたいことに石造りのキッチンの下から酒を見つけることができた。

残念ながら好みの日本酒ではないが、恐らくはブドウか何かで作られた果実酒だ。

古い瓶の中にはたっぷりと入っている。栓を引き抜いて一気に酒を呷るとアルコールと果実の甘い香りが口いっぱいに広がる。

できればツマミかタバコがあれば最高だと思ったが、それらは残念ながら見つけることができなかった。


 酒を三分の一ほど飲むと、酔いがわずかに回った。

飲まないとやってられないが、飲みすぎては今後の楽しみがなくなる。

栓をしてキッチンの下に戻すと、ほろ酔いのままにタモ網とバケツを手にし、長靴を履くと外へと出た。


 女神の言う異世界に来たのだ。ここがどこかも分からない以上、ある程度の土地鑑はつけなければならない。

それに住まいからしてもそこまで文明が発達しているようには思えない。

オオシマはまだどこかで夢ではないかと願いながら、外の景色を見た。


 先ず目についたのは小川だった。

幅は2メートルほどだろうか。速くもなく遅くもない流れの清流が日の光を反射しながら穏やかに流れている。

川にはおおぶりの岩やアシのような植物も茂っている。

そこに網を突っ込めば何かしらの魚が取れるなと考えながら周囲を見回す。


 一言でいうならば森だ。オオシマの背丈よりも大きな木々が川に沿うように生えている。木の種類はわからないが、獣でも出てきそうな雰囲気である。

だが、それを恐ろしいとは思わない。もし獣がいたならば捌いて食ってやろう程度に思いながら、今出た家を振り返る。

木でできた小さな家だ。煙突が黒く染まったログハウス。

1人住むには十分であろう家だ。古びてはいるが傷んだりはしていない。経年劣化による色の変わりはあるが補修したりする必要はなさそうだ。


 家の周りには木で囲いが作られている。

メェーという羊のような声がする。その声の主を探して家の裏側に回ってみれば茶色く染まった羊が一匹呑気に草を食んでいる。

なるほど、羊を逃がさないための囲いなのかと納得すると羊に近づいた。

 羊はオオシマが近づいても警戒する様子もなく草を食み続けている。そっと頭を撫でてみてもその様子は変わらなかった。

腹が大きく膨れているのを見て、恐らくはメスなんだろうなと思う。

ためしに乳を搾ってみると水鉄砲のように盛大にミルクを噴き出している。

牛ならぬ羊乳かと思いながらオオシマは羊を撫でて再び川へと向かった。


 とりあえず生きていくために必要な家、食事などは確保できそうだ。

以前のような便利さはないが、道具さえそろっているのならばオオシマにとってそこは楽園である。

趣味の魚取りのおかげで魚を取る術には長けているし、その延長線上で魚を捌くことも火をつける技術もある。


「よし、しょうがねぇ。とりあえずは食料だ」


 ほろ酔い気分でスカートを短く縛るとオオシマは川の中へと入っていった。

バケツに少量の水を入れで川辺に置き、アシの中へとタモ網を突っ込みガサガサさせる。

掬い上げてみると赤いハサミが特徴のテナガエビのようなエビが網の中に入っている。生前もよく見た姿であるが、それとは少し形が違う。

ザリガニとテナガエビを足して割ったような姿であるが、食料という視点で見れば差異はない。

ハサミに挟まれないように胴体を摘まみ上げてバケツに放りこむ。


 何度かアシの中に網を突っ込んでいるとバケツいっぱいになるほどにエビが取れた。

しばらくバケツの中に入れて泥抜きをしておけば食える程度にはなる。

バケツいっぱいに入ったエビを清流で洗い流し泥を落としきると、再び水を入れ替えてバケツを手にした。


 川からあがり家に戻ると、とキッチンのシンクに栓をしてバケツに入ったエビを入れる。

キッチン横に水瓶を見つけると、その中にたまっていた水をさらに追加した。

これでしばらく置けば泥臭さが抜けて調理しやすくなる。


 食料を調達したことでオオシマは安心したのか、ベッドに倒れこむと眠気が襲ってきた。

酒を飲んだせいもある、精神的に混乱しまだ整理がつかないせいもある。

襲ってくる眠気に抗おうともせずにオオシマは目を閉じた。


 ぼんやりとした意識を違和感が呼び覚ました。

玄関の扉が音をたてぬようにキィと開かれたのだ。オオシマは直感で誰かがいると感じると、寝たふりを続けて音に意識を集中した。

音を立てないようにして扉をあけたときの独特の音感。気配を殺すようにして忍び寄る気配を感じる。

薄っすらと目を開けて玄関をほうを見れば開いた扉から背丈の小さな金髪の少女が中を覗き込んでいる。

顔と背丈からまだ10代かそれ以下。

オオシマは寝たふりを続けながら、その少女が何をするのかと様子を窺った。

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