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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
一章∶仁義なき異世界スローライフ編
13/153

飴玉とお洋服

 やっとの思いで家につくと荷車に積まれた大量の荷物を降ろした。

木箱や樽はオオシマが家の中へと運び、プーフとリリアは持ち運べそうな笊やシャベルなどを家の中へと運び込んだ。

ただでさえ一人用の広さの家はリリアが増えて荷物も増えると随分窮屈なものへと感じる。


 運ばれた中でも小さな木箱を手に取ると暖炉の前に運び、隙間にナイフを差し込んで木の蓋を無理やりにはがし出すオオシマにプーフとリリアが興味津々といった様子で木箱が開かれるのを待った。


「なに! なにはいってるの!」


「とりあえず土産の一つだ」


 木箱の蓋が開かれると中には麻袋が入っており、縄で口を頑丈に縛られている。

何か面白いものが入っているかと期待するプーフとリリアは麻袋が早く開かれないかと目を輝かせていた。

 ナイフで縄を切断して麻袋の口を開くと、中には鶉卵ほどの大きさの茶色い玉が大量に入っている。


「なに! これなに!」


「飴玉だ」


「あめだま?」


「食ってみろ」


 プーフに口を開かせると茶色い飴玉を放り込んだ。

食べ物と聞いてプーフはかみ砕こうとしたが飴玉は頑丈でプーフの歯では噛み砕くことができない。

飴玉を左右の頬で転がしながら齧るとプーフの口の中には甘さがいっぱいに広がっていく。


「かたい! あまい!」


「ど、どんな味?」


 リリアも口欲しそうにプーフの口を見つめると、プーフは口を開いて舌の上に飴玉を乗せてリリアに見せた。

するとリリアはプーフの唇に唇を重ねて飴玉を奪い取った。

口の中から飴玉を取られたプーフは口を開けながら怒った表情を作ってみせるが、リリアは構わずに口の中で甘さを噛みしめた。


「それプーの! プーのあめ!」


「あまい……美味しいねこれ」


「かえして! それプーの!」


 盗られた飴玉を取り返そうとリリアの唇に自分の唇を押し付けた。

リリアの口の中に舌をねじこんで飴玉を取り返そうとするが、リリアも口を塞いで飴玉を取られないように抵抗する。

口を閉じられたプーフは必死にリリアの唇を舐めて甘さを感じようとしている。


「おめぇらよぉ、こんなにたくさんあんだろ。新しいの食えばいいだろ」


「ママがくれた飴なのにぃぃぃう゛わ゛あああああああ、リリーがプーのあめとったああああ」


 まだ飴はたくさんあるというのにプーフはオオシマにもらった最初の一個に固執し、取り返せなくなると涙を流しながらえんえんと泣き出した。


「泣くほどのことじゃねぇだろうが」


「ママにもらったあめリリーがとったあああ」


 泣き止まないプーフにさすがにリリアも困った顔をすると、泣き顔に口づけて飴玉をプーフの口に戻した。

口の中に飴玉が戻るとプーフは涙を流しながらも口の中で飴玉を転がして徐々に涙を零さなくなった。


「ほれ、いちいち奪いあうんじゃねぇよ」


 もう一つ飴玉を取り出すとリリアの口に放り込む。

少女二人は口の中で飴玉を転がしながら、はじめて食べる飴玉の甘さを噛みしめていた。


「あんまり食いすぎるとデブになるからな。一日2個までな」


「えー、たくさんあるじゃない」


 初めてリリアがオオシマに抵抗した口調を見せると、オオシマは目を丸くしたが少しは距離が詰まってきたのかと感じた。

だが、甘やかすのも禁物だ。

そこまで金があるわけでもない。舌を肥やすことでより良いものを求めるようになったら生活は行き詰るのは目に見えている。


 甘えるように上目遣いするリリアはすでに女としての色気を纏っているように見えた。

こりゃ将来いい女になるだろうなとオオシマは思う。

正確な年齢は分からないが、何年かすれば身体もふくよかになって乳房も出るだろう。

その頃になれば女としての魅力を存分に発揮できる。キャバクラでもやらせれば太客がつくのは間違いないだろう。


 そこまで考えてオオシマは自分の思考にキレそうになった。

うちの子をそんなゲスな店で働かせてたまるものか。男に嫌らしい視線で見られ、媚びるリリアなんて見たくもない。

もし、やらしい目で見るような輩がいたらボコボコにして出禁にしてやる。

そこまで考えたところで、この世界にそんなものは無いと気づくとオオシマは抜けきれない前世に乾いた笑いが出た。


「何一人で笑ってるの?」


「なんでもねぇよ」


 麻袋の口を結わうと二人に背を向けてキッチンの上にそれを閉まった。

二人の背丈ならばここには届かないだろうと、なるべく上の方に仕舞う。

二人の少女は飴を取り上げられてムスッとしていたが、オオシマはこれも教育だと二人の視線を跳ねのけた。


 次に持ってきたのは飴玉が入っていたものよりも大きな木箱だった。

ナイフでさっさと蓋を開けると、中には民族衣装のようなワンピースやスカートなどが寿司詰め状態で折り畳まれている。

 プーフはお古だし、リリアは奴隷屋で着ていたボロ布のままだった。

さすがにこのまま生活させるのは忍びない。男の子だったらまだそういったところは気遣いも無用かもしれないが、オオシマが抱える二人は10代前後の少女だ。

そのままの姿でいさせるのはとてもではないが、オオシマの思いに反する。


「サイズ合いそうなのをてきとーに買ってきた。着てみろ」


 二人は木箱に手を伸ばすと乱暴に服を掻き出して一枚一枚柄を確かめている。

プーフが希望した白いワンピースはないが、それでもプーフはオオシマと同じようなものが着たいのかワンピースばかり見ている。


 ボロ布を脱いで放りなげたリリアが先ず服に袖を通した。

少女らしい花柄があしらわれた膝丈のスカートと上には桜色のシャツを羽織る。


「オオシマ、これ背中破いてほしい。羽が窮屈」


 そう言ってリリアは自分の背中をオオシマに向けた。

確かにリリアの背に生えた羽がシャツの中で膨らみをつくって窮屈そうにしている。


「あーお前羽生えてるもんな。裁縫道具も買ってきたから夜中に穴開けといてやる」


「プーも! プーもみて!」


 いつのまにか茶色地に魚の刺繍のあしらわれたワンピースを纏ったプーフが誇らしそうに両手に腰を当てて立っている。

オオシマの好みで買った魚柄をプーフは満足そうな笑顔で着飾っている。

しかし、プーフの背丈には大きかったのかスカート部分が床についてしまっている。


「おめぇにはデカいな。これも裾あげしなきゃだな」


「みてみて。おさなかいるの。いち、にぃ、さん……」


 スカートを捲り上げて刺繍された魚をリリアに見せつける。

下着が丸出しになるのも構わずにスカートを引っ張りあげると、魚を数えながら指さしている。


「プーもお魚好きなんだね」


「好き!」


「どうしてお魚好きなの?」


「ママとあそべるから」


 魚が好きというのだから、オオシマは子供独特の生き物好きが発揮されたのだろうと思ったが、プーフの口から出たのはまるで予想外のことだった。

魚が好きなのは捕る楽しさがあるからではなく、オオシマと遊べるから好き。

魚を通じることで一緒に遊ぶことができるとプーフは認識していたのだ。

見当違いな言葉にオオシマは胸が熱くなった。

幼い言葉は大人の目頭を熱くさせ、オオシマは目頭を押さえられずにいられなかった。

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