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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
四章:龍哭の鬼姫
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催し物の広告

 昼休憩を終えるとオオシマは数名のメイドに声をかけて今後のプリン製造についての会議を行った。

現在作成しているプリンだけではなく、今後はゴマプリンなどレパートリーを増やしていくこと。

それだけでなく他にも作れそうなものがあれば積極的に取り入れていきたいと話した。

オオシマのみでは思案にも行き詰るだろうし、何よりゴマプリンのアイディアはメイドの持ってきたゴマを参考に思い当たったものだ。

なので従業員もあれがしたい、これがしたいなどあれば耳を傾け前向きに検討すると話した。

 すぐその場でもオオシマに対して、こんなものを作ってみてはどうか、既存のものをどのように改良してはどうかなどの意見が飛び交う。

しばしの間メイドたちの話に耳を傾け、メモを取る作業が時間を浪費していた。



 一時間ほどの会議を終えると、オオシマはさっそくゴマを卸したい旨を書にしたため町の郵便屋へと足を運んだ。

以前ならばオオシマが町を歩くと奇異の目で見るものや逃げ出すものもいた。

しかし、今はどうだろう。

オオシマ――金髪美少女が鬼姫だと分かると行き交う魔族や人間は軽く会釈したり、笑顔で声をかけるものさえいる。

暴力的な噂が広まり恐れられていた存在。それが今となっては裏返りプリン屋としての顔のほうが多く知られている。

すれ違い様に『また買いにいくね』『美味しかったよ』なんて言われる程度にはプリン屋としての顔が立っていた。

その変わり様にオオシマ自身、不思議な感覚を覚える。

ヤクザとして恐れられていたこともあったため、人々が自身を避けていくのは経験があった。

しかし、今では顔を見れば皆笑顔で接するし、恐ろしさなど何処か遠くへ消えてしまっている。


 美しい容姿、広がる菓子屋の噂。

前世とはずいぶんと変わってしまったとまた考える。だが、それはオオシマ自身望んだものかもしれない。

平穏で幸せな生活。前世では願っても手に入れられなかった太陽の下を胸を張って歩ける人生。

想いも寄らぬ異世界での商い、急な出会いではあったができた家族。

プリン屋と三人の娘、そして寄り添うミーナ。

 異世界に馴染もうと考えて数か月。今ではここでの生活もいくらか土台が出来上がっている。

いつからか考えすぎる性格になっていたオオシマは改めて自分の変わりようを鼻で笑う。


 鳥型の魔族が運営する郵便屋にたどり着くと、オオシマはしたためた文を頼んだ。

郵便屋には文の配送だけでなく、大きな掲示板が掲げられそこには町での催し物などの宣伝も行われている。

文を出したらさっさと戻るつもりではあったが、オオシマの視線はなんとなしに掲示板へと刺さった。


「町内レース?」


 掲示板に貼られた大きな広告。

そこには近々町内で大規模なレースが催される旨が書かれている。

オオシマの目に留まったのはそこだけではない。

レースにはいくつかの種目があり、大抵は脚力や体力自慢によるレースであったが、その中のひとつにちびっこレースなるものが書いてあった。

子供たちによるリレー形式のマラソンである。

3人一組で町内を一周し、競争しあうものであるが優勝者や2,3位のものには順位に応じた景品も用意されている。

さっさと戻ろうとしていた足は掲示板の前に止まり、まじまじと広告の文を目でなぞる。


3位お菓子の詰め合わせ


2位お菓子詰め合わせ+しゃぼん玉セット


優勝お菓子詰め合わせ+しゃぼん玉+町内にある店舗全てで使える無料引き換えチケット人数分


 中々悪くないように思う。

子供向けとは思う景品だが、それでも娘たちはお菓子を目の前にすれば目を輝かせているのをよく見ていたし、それに優勝ともなれば無料引き換えチケットなるものもある。

3人一組という点も丁度三姉妹に合っている。

いつ開催されるのかと見てみれば、期日はもう目の前に迫っている。


――プーたちに教えてやるか。


 後ろに手を組みながら前のめりになって広告を目にする。

広告下には参加用紙が数枚残っている。1枚を手に取りオオシマは郵便屋をあとにした。



「かけっこ!」


 仕事を終えたオオシマは娘たちを迎えにジェニーの店を訪れていた。

テーブル席に揃ったオオシマファミリーはついでに済ませようとテーブルに並べられた魚料理を口にしながら、今日見つけたレースについて話している。

景品が出ると話すと娘たちは一気に目を輝かせて食いつく。

プーフなど目に星を飛ばしながら椅子の上に立ち上がっているし、リリアも座ってはいるが短い尾が左右に揺れて上機嫌になっている。シロは興味なさそうに振る舞ってはいるが内心騒ぐものがありそうだ。


「リリー! シロ! かけっこしよ! プーそれやりたい!」


 口に料理を入れたまま喋るものだから、プーフの口からは残渣が飛び散る。

手にしたハンカチでプーフの口を拭きながらオオシマは次女に落ち着くように促す。


「じゃぁこれ出るか? どうゆう結果になるかはわからねぇが、リリーは足が速いしもしかしたらいい結果残せるかもしれねぇ」


「任せて! 私かけっこならだれにも負ける気がしないから! リリア様の自慢の足で優勝頂いちゃうよ!」


 腰に手を当てて鼻高々とするリリア。実際リリアはオオシマも目を見張るくらいに足が速い。

見比べたことなどは無いが同世代の子供がいたとしてリリアには敵うとも思えないほどには。


「でも私はちょっと不安だな……私とろいから皆の足引っ張っちゃうかも」


 リリアは足が速いし、プーフは森などをよく駆けまわっていたためいくらかは体力も運動もできる。

しかし、シロにはそれらが無い。

運動など得手ではないし、二人に比べると随分と足は遅かった。

故に参加しても自分が足を引っ張ってしまうのではないかと不安がよぎる。


「大丈夫だよ! シロがゆっくりでも私がカバーするからさ!」


「うーん、お姉ちゃんがそう言うなら……」


「ね! 参加しよ! ママ私たち出るから!」


「よし、じゃぁ決まりだな。もしオメェらが順位下だったとしてもそん時は俺が何かご褒美をくれてやる。オメェら存分に楽しんでくりゃいい」


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