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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
四章:龍哭の鬼姫
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頂きの亡霊

 シロの長い髪が風も無いのに逆立った。

落ちていきそうなプーフを見つめる目に力が籠ると、淡い光がプーフにも纏われる。


「あ、あれ?」


 落ちていきそうだったプーフの体がふわり羽のように宙に漂った。

落ちていくことはなく、その場で静止してふわりと浮かんでいる。

羽のようにふわりと浮かび上がるプーフは光に包まれてそっと元居た場所へと移動していく。

ゆっくりと片足ずつ着地すると光は火が消えていくかのように揺らめいて消える。


「おちなかったの」


「何が起きたの?」


 目を見開いて驚く二人は先を登っていたシロに視線を投げると、その髪が白く発光している。

プーフに纏われた光と同じ光に二人はシロが魔法のようなものを使ったのだと口を開いた。


「シロが助けたの?」


「え、わかんない……」


 当の本人にも状況が理解できなかった。

ただ助けたい一心はあったが、そこから具体的に何かをした意識はない。

無条件に発動した力はシロの意識に関わらず自動的にプーフを助けていた。


「でも、シロの髪光ってるよ。やっぱりシロ何かしたんでしょ」


 リリアに問いかけられてシロはやっと自分の髪が発光しているのに気付いた。

長い髪を掴むと柔らかな光を帯びた髪からゆっくりと光が消えていく。

 確かに何かしらの力が現れたのだろうとは思えた。

しかし、それがなんなのかは分からない。

自身にも分からない能力。しかし、今はそれのおかげでプーフが助かった。


「本当だ……でも、私本当に何もしてないよ」


「でもシロもアノマリーなんでしょ? じゃぁ何かまだ魔法みたいなものがあるのかな?」


「そう……なのかな?」


 三種の素材を使うことで全ての力が無力化したと思われたが、まだ自分の中には何かがある。

シロはそう思うとまた悲劇が繰り返されるのでとも思えた。

しかし、以前のような死を与える力ではない。誰かを救う力。誰かの助けになる力。

髪の毛を握りしめると何故だか細い一本一本から暖かさが感じられた。

死とはかけ離れたナニカ――生を与えるような希望を与えるような力に感じられる。


「シロありがとうなの! プーおっこちるかとおもったの!」


「全く。プー気をつけなよ」


 リリアに叱られてプーフは舌を出して笑ってみせる。

力のことはわからないが、とりあえずはこの場面は乗り切れたと思うと三人は再び斜面を登り始めた。



 大きな岩に手がかかり、そこからシロの顔がひょっこりと現れた。

続いて左右にプーフとリリアの顔も現れると、三人の視界には開けた野原が映った。


「やぁーっと頂上についたっぽいね」


 険しい斜面の先にあったのは緑萌ゆる野原。

やっとの思いで三人は頂上にたどり着いたのだと野原へと登ると、疲労と安心感にその場にへたりこんだ。

 まだ先は長いが、第一関門はクリア。

頂上から見える景色――三人の前にはさらに大きな山が聳えている。緑色に染まった大きな山、その天辺には小さく突き出した塔が見える。


「あそこまで行くにはまだかかりそうだね」


「たいへんなの。でも、がんばる!」


 シロの言葉にプーフが拳を握りながら気合の入った返事をする。

まだまだ先はこれからだ。しかし、三姉妹のやる気と気合は落ちることがない。

母を助けるため、足を止めるわけにはいかない。


 広大な山へと向けていた視線の下に一本の茶色い木のようなものが映った。

視線をそちらに向けてみれば野原には一本の古びた剣が刺さっている。長い間その場に刺さっていたであろう経年劣化が見られる錆びた剣。


「けんがあるよ」


 へたりこんでいたプーフは見つけた剣を引き抜こうと走り出す。


「あ、プー、ちょっと」


 リリアが手を伸ばして声をかけるも、プーフは剣まで駆けると野原にささった剣の柄に手をかけた。

プーフにとっては大きく重さもある剣。力を込めて地面から引き抜こうと『んー』と唸り声をあげながら持ち上げる。

 すぽんと音をたたせるようにして剣が抜けると、プーフは柄を握ったまま尻餅をついた。


「ちょっとプー、何してんのよ」


 尻餅をつくプーフにリリアとシロが駆け寄る。

握られた剣は錆びて全身が茶色くなり、もう剣としての役割を果たせそうにはない。


――少女たちよ


 三姉妹の耳ではなく、内側に聞こえる声。

いきなり声をかけられて三姉妹は辺りを見回すが、野原が風に揺れるのみに人影はない。


――私たちの頼みを、聞いてくれ


 すがるような声が聞こえる。

周囲を見回していた三姉妹に影が重なり、三姉妹が影のほうを見ればそこには一体の骸骨が浮かび上がっていた。

 頭に冠を宿した半透明の骸骨。

骸骨の顔は三姉妹に向けられ、いきなり現れたそれに誰もが叫び声をあげそうになった。

しかし、骸骨からはおよそ恐怖といったものが感じられなかった。

朝日の照らす野原に現れた骸骨。オバケなどに感じられる恐怖よりも、親のような慈愛をもった空気を漂わせている。


――驚かせてすまない


 声はない。だが直接心にかけらえる声ははっきりと聞こえる。

低い男性の声。若さの感じられない声からこの骸骨はきっと以前は中年程度の男性だったのだろうと感じられる。


「あなたは……だぁれ?」


――我が名はセバス。その剣をこの地に置いたものだ


「たのみってなぁに? プーたちになにかおねがいしたいの?」


――エルフの少女よ、私を雷の塔へと連れていってくれ


 雷の塔へと連れていけというセバスにリリアとシロは顔を合わせた。

同じ目的地ではあるが、どうしてセバスは一緒に連れていけというのか。

剣を握ったままのプーフはセバスに問いかけた。


「どうして雷の塔にいきたいの?」


――私はかつて雷の塔の主に仕えていた。その主に借りたものを返したいのだ。


「なにをかえすの?」


――今お前が持つ剣だ。


「プー、こんな重いのもてない……」


 大人ならば容易く扱えるであろうが、まだ子供のプーフにとっては剣一本を持つのでさえ苦労を要する。

さらにこの先の山にいくのにこのような重たいものを持っていくのは難しい。

剣を見つめながらプーフは少しばかりきまずそうに言葉を返していた。


――持たずともいい。その剣をお前の手に宿そう


 剣から錆が宙に浮かび上がると徐々にその刀身を小さくし、やがてプーフの手のひらに収まるまで小さくなるとプーフの手のひらに刻印として染みついた。

手のひらに浮かぶ剣の印。重さはなく、握ってもそこには何もないように感じる。


――これならば頼めるか


「うん、いいよ」


――感謝する。さすればお前たちに道を示そう


 骸骨は三姉妹に背を向けると、眼前に広がる山の天辺へと顔を向けた。

天辺に向かって手を翳す。今いる頂上にガラスのような透明な道が姿を現すと、その道は天辺の雷の塔まで続いている。


――これならば山を登ることもない。エルフの少女よ、サキュバスの少女よ、異端なる少女よ。どうか私の願いを


「わぁ! みちができた!」


「これならまた山を登らなくて済むね!」


「走ればすぐにでも着きそうだね。これならすぐママを助けられる!」


 思いがけない出会いではあったが、セバスは願いのかわりに雷の塔への最短ルートを示してくれた。

 そういえば道中出会ったルルが骸骨のオバケで出るなんて言っていたことを思い出す。

きっとこのセバスがそれなのだろうと思う。

恐ろしいと言われた骸骨はまるで恐怖など感じない、それに願いを叶えるかわりにこんな素晴らしい道も用意してくれた。


「よーし! いっきに雷の塔までいくの! けんもちゃんと渡してくるっからね!」


 駆けだす小さな3つの背中がガラスの橋を渡っていく。

小さくなる背中を見つめると、セバスは微笑みながら風に流れて姿を消していく。


――頼んだぞ、少女たち。……主よ、神に裏切られた悲劇の主よ。今借りたものを返します

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