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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
一章∶仁義なき異世界スローライフ編
1/153

鉄砲玉として終わる。

「オオシマ、お前隣のシマ荒らしてこい」


 組長の言葉が全ての発端だった。

桜木会という任侠に所属していたオオシマはある日組長から言われた言葉に息を呑んだ。


「隣のシマというと、赤井組のですか?」


「他にあるのか?」


 そうだよな、とオオシマは思い自分が鉄砲玉に指名されたのだと痛感した。


 赤井組は桜木会とは対立するヤクザであり、ここ最近勢力を拡大していた。

元々は桜木会の縄張りであるスナックや風俗にまで出入りし、その勢力の拡大ぶりをうかがわせていた。

既に一触即発の雰囲気になってはいた。

だが、その戦争の引き金になれと組長は言う。


 拒否など赦されるはずもない。

オオシマは雑居ビルの間で手にしたドスの柄に手をかけるとわずかに刃を引き抜き、鈍く光るそれを見つめると腹を決めたようにガチリと鞘に叩きつけて戻した。


 すでに近くには赤井組の本部事務所がある。


――組長(オヤジ)に言われたことは絶対だ。


 胸の中で呟くも、オオシマはこれから自分が死ぬのだと思うと嫌気が差した。

気を紛らわそうとポケットに入れていたソフトパッケージのタバコを取り出すと、お気に入りの銀製のオイルライターで火をつける。


――このタバコの味も最後か。


 最期と考えると何故だかタバコの味をやたらうまく感じてしまう。

普段ならば途中で灰皿に入れてしまうタバコを根本まで吸うと、その場に捨てて革靴の裏で踏みつぶした。


 雑居ビルの隙間から外の様子を窺うと黒塗りのベンツが通り過ぎていった。

間違いない。組の構成員を乗せた車だ。

何度もみていたヤクザながらの車種とその磨き上げられたボディの様子にオオシマは一瞥でそれが幹部を乗せた車だと見抜いた。


 ヤクザの幹部は面子や気品を重んじる。

それゆえに常時使用する車は常に清潔に手入れされ、埃の一つも赦さない。そうすることで周りとは格の違いを言わずともアピールするのだ。

今通りすぎた黒塗りのベンツはまさにそれらを現したものである。


 空を見上げて大きく息を吸い込んだ。

雑居ビルから見える空は狭くて薄汚れている。きっと酸素よりも排気ガスや都会から出たごみや人の思念が渦巻いているのだろうと思えた。


――死んだらどこへ行くのだろう。


 あと1時間後には自分は死んでいるのだろう。

そう思うとオオシマは死後の世界を瞑想した。天国や地獄は本当にあるのだろうか。三途の川はあるのだろうか。

とても自分が天国に行ける人間ではないと痛感している。

幼い頃から喧嘩に明け暮れ、組の構成員になる前からも人に言えないようなことばかりしてきていた。


――できるならば来世は平穏に暮らしてみたい。


 死を前に、なんて弱い自分がいるのだろうとオオシマは目頭を押さえた。

このままではいけない。両掌で頬を叩いて気合を入れた。


 バタンと車のドアが閉められる音がした。

それと同時にドスを鞘から抜き出す。もう後は何も考えずに駆けだした。


「赤井ー!」


 叫び声をあげながらドスを手にしたオオシマは黒塗りのベンツから事務所へ向かう紫色のスーツを着た男に向かって駆けだしていた。


「テメェ! なにしてやがる!」


「かこめかこめ!」


 紫のスーツを下っ端が囲みオオシマの行く手を阻むが、ガタイのいいオオシマは一撃で殴り倒していくと手にしたドスを紫のスーツに突き立てた。

刺された部分からはじわりと血がにじみ出ると、大きな粒となって地面に落ちていく。


「テメェ、桜木会だな……コノヤロウ、死ぬ覚悟できてんだろうな……」


 ただでは済ませないと紫のスーツは胸元からチャカを取り出すと、刺したままその刃が抜けないように手に力を込めているオオシマの蟀谷に銃口を突き付けた。


「戦争だぞ……コノヤロウ」


 言葉を聞きながら慌てもせず、オオシマはただ目を閉じた。

繁華街に一発の銃声が鳴り響いた。

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