超絶
思えばそれが無傷だったのは偶然ではなく、そうなるように庇っていたためだったのだろう……。
カゲロウは唯一の武装――ダガーガンを拾い、ゆっくりと構えた。
いっそ情報過多と言ってよいティラノアームズの武装に埋もれていたため気づかなかったが、これも恐ろしく精緻な造りである。
一言で述べるなら拳銃なのだが、スライドと銃身にクリアパーツを多用したいかにも空想科学的な趣の装飾が施されており、これが光線銃であると見ただけで理解できる説得力が付加されているのだ。
しかも、銃身部と本体とは分割可能な仕組みとなっており、分離させると銃身がそのまま握りとなった短剣がその姿を現すのである。
『う……お……』
『は、話が違えぞ……』
いまだ目の前の状況を飲み込めぬザラたちのうち何機かへ向け、トリガーが引き絞られた。
――たかが拳銃から放たれたビームの、何という威力か。
連続で打ち放たれた光弾は狙い過たずザラたちの真芯を貫くと、ただ一撃で撃破し顕造解除に追い込んでいく。
『すごい……!』
ユウからしてみれば、感嘆の吐息を漏らす他にない。
この一か月……基本を教わり模型道の入口に立ったからこそ、これだけの威力を実現するまでに積んできた年月と試行錯誤とがありありと伝わったのだ。
『か、数はこちらが勝ってるんだ! 一斉放火でまた袋叩きにしな!』
賊と言えど、そこは指揮官の貫禄か……。
グレートソードをかざしたショテルの言葉でザラたちは次々と我に返り、手にした重火器を構えていく。
『危ない……っ!』
先ほどは、ティラノアームズによる装甲があったからこそ持ちこたえた。
それを排除し見るからに軽量な本体を晒した今、直撃が致命傷となるのは火を見るよりも明らかだ。
だが……、
『ふん……』
当のシドーはといえば落ち着いたもので、あろうことかせっかくのダガーガンを腰のハードポイントへ装着させてしまう。
そしてカゲロウは銃身部を掴むと、この銃に存在するもう一つのモードを起動させた。
ブン……ッ! という虫の羽音にも似た音が響き、銃本体へ収められていた刀身がその姿を現す。
刃が放つ輝きは先に放たれた光弾と同じものであり、これがその切れ味を増しているのだと見て取ることができた。
『てーっ!』
そして、トリガーにかけられたザラたちの指が引かれるその瞬間……。
『無駄だ』
カゲロウの姿が……その名のごとく、揺らいだ。
光の屈折現象によってではない。
ただ単純に、挙動があまりに早すぎたためそのように見えたのだ。
そしてそう見えた次の瞬間には、グレートソードをかざすショテル・ウィルダネスの眼前へ踏み込んでいたのである。
傍から見ていたユウの目にすら瞬間移動めいて見えたのだから、正面からそれを捉えたアンにとっては尚の事だろう。
『な!?』
反応などできようはずもなく、ショテルはただその場へ硬直するのみであった。
『遅い』
それを見逃すシドーではない。
カゲロウが俊敏な動作で前蹴りを放ち、まともに喰らったショテルはザラたちの群れに弾き飛ばされていく。
こうなればもはや砲撃などできようはずもなく、戦場は完全な乱戦となった。
すなわち、軽量格闘型モデルであるカゲロウの独壇場だ。
そこからの立ち回りは、圧巻という他にないだろう。
――まるで早回しの映像を見ているかのように。
――ただ一機、違う時の流れを生きているかのように。
カゲロウは残像すら残す速さでザラたちの群れに切り込んでいくと、次から次へとその刃で切り捨てていく。
九メートルの人型兵器でありながらその姿を捉える術はなく、傍目には手にした短剣が残す光の軌跡が映るのみである。
そしてその光刃が宿す切れ味たるや抜群の一言であり、それに撫でられたザラは必ず大破し顕造を解かれるのだ。
――早く、速く、そして……疾い!
瞠目すべきなのは、この圧倒的な速度を実現するのにスラスターの類が一切用いられていない点だろう。
カゲロウはただ、その運動能力のみで戦場を駆け回っているのだ。
それを実現しているのが、全身を構成するフレームに仕込まれた稼働ギミックである。
カゲロウのフレームはコネクティングロッド、シリンダー、シャフトなど実際の機械に用いられている部品が恐ろしい密度で組み込まれており、しかもこれらが四肢を動かす度に連動して稼働するのだ。
それがプラモとしての完成度を高めると共に、これだけの運動性能と恐竜型追加武装を装着してなお行動に支障がないほどの馬力を与えているに違いない。
四十機はいたであろうザラたちが一機、また一機と姿を消し……ついには頭目が駆るショテル・ウィルダネスのみが戦場に残される。
『あれが、同じプラモなんだ……!?』
既に感嘆すら通り越し、憧憬の念にまで達した言の葉を口からこぼす。
この時、ユウの胸には一つの決心が固まりつつあったが……。
『半端ねえぜ……!』
「あれが模型騎士の力なのか……!」
「あ、相手が悪すぎた……!」
いつの間にか戻って観戦していた最初の三人組に台無しにされたので、とりあえずザラの頭をぶん殴り仲良く生身に戻してやった。
『化け物か……!?』
ただ一人残されたショテル・ウィルダネスが、グレートソードを正眼に構えながら吠える。
対してカゲロウは一言も発さぬまま、短剣を腰の銃身部に装着しなおした。
そしてついにダガーガンすら手にしない徒手空拳となり、一歩、二歩とショテルに向け歩み出したのである。
『う……うう……』
『どうした? 白兵戦の間合いだぞ』
『うおおっ!』
裂ぱくの気合と共に、グレートソードが振るわれ……なかった。
繰り出した斬撃を振り切れぬままに、内側へ踏み込んだカゲロウのカウンターパンチをまともに喰らったのである。
『ぐ……この……!?』
強烈な打撃を浴びながらも倒れなかったのは、ショテルも流石の完成度であると言えた。
だが、両者の完成度と戦闘力の違いはもはや一目瞭然だ。
――一撃。
――二撃。
――三撃。
何度振るおうとも必殺の刃がカゲロウを捉えることはなく、逆に痛烈なカウンターを浴びせられていく……。
ついに四撃目でショテルの機体が大きくのけぞると、カゲロウはその隙を見逃さず正中線に三発の突きを叩き込み、終いに鋭い回し蹴りで吹き飛ばしたのである。
『ぐあ……っ!? くそおっ!』
そして次にカゲロウが見せたのは、あまりにも意外すぎる動きであった。
何とショテルに背を向け、無防備な背中を晒してみせたのだ。
――すでに勝敗は決したと、言わんばかりに。
『舐めるなあっ!』
激高したショテルが立ち上がり、振りかぶったグレートソードを全力で振るわんとする。
だが、これを駆るアンに見えていただろうか……。
カゲロウの頭部に備えられた一対のパワー・ホーンが展開し、眩い光が発されたのを……。
そしてその光は電光となって機体を巡り、腰部に備えられたダガーガンへ充填されたのである!
『……アバランチ・ドレイク』
次の瞬間、カゲロウの機体が分身した。
否、あまりに動きが早すぎてユウの目にはそう映ったのだ。
――腰に備えられたダガーガンの銃身を掴み。
――振り向きざま、それを抜刀する。
――最後にそれを収め、残心。
三つの動作が残像として重なり合い、やがて一つの像に結びついていく……。
呼気を整えるかのように佇む、カゲロウの姿にである。
展開していたパワー・ホーンが元に戻り、止まっていたかのようだった時間が正常に流れ始めた。
『うわあああああっ!?』
フルパワーで形成された長大なビーム刃の斬撃を浴び、両断されたショテルが顕造を解除され元のプラモへと戻っていく。
シドーの……そしてカゲロウの完全勝利だった。




