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変身

 グラディウスがヒートブレードを振りかぶったまま動きを止めたのは、遥か遠方に落雷のごとき顕造(ビルド)の光を認めたからに他ならない。


『何……あれ?』


 これを駆るユウが思わずそう呟いてしまったのも、致し方のないことであろう。

 この辺境で数十人もの模型戦士がその力を行使するなどありえぬ事であり、頭ではそうと認識していても体が反応することを許さなかったのだ。


『ひいいいいいっ!?』


『下がれ! ユウ!』


 リーダー格の乗ったザラが、顕造(ビルド)を解除された仲間を抱え全速で離脱するのと……。

 シドーのティラノアームズが、グラディウスをかばうように仁王立ちするのとはほぼ同時の出来事であった……。

 否、かばうようにではなく実際かばったのだ。

 何故ならば、その直後に無数の砲弾とミサイルとが襲ってきたからである。


『ぬう……!』


『きゃあああああっ!?』


 こうなっては最早、操縦どころではない。

 例えるなら、虫カゴに入れられたままそれを力強くシェイクされた羽虫の気分だろうか……。

 四方八方からとめどなく襲う衝撃と爆炎に機体は振り回され、踏ん張ろうにも足を踏みしめるべき大地がえぐられているのである。

 たまらなく機体は吹き飛ばされ、それこそ人形を放り出されたように転がり回った。

 舌を噛まなかったのは、奇跡であったとすら言えよう。

 各部のダメージが伝わる頭痛のような感覚にさいなまれながら、どうにか膝立ちとなった。


 それもこれも、シドーによる指導の賜物だろう……。

 以前とは比較にならない装甲強度を手に入れたグラディウスは、各部に打ち身とも言うべき損傷こそ負っているがいまだ五体満足である。

 だが、シドーのおかげと言うならこれこそがそうか……。


『ぐ……っ!』


『シドー!?』


 グラディウスのモノアイが捉えたのは、半ばクレーターと化した爆心地で見るも無残な姿を晒すティラノアームズであった。

 プラスチックでありながら金属そのものと言って良い光沢を宿していた装甲は(すす)と土埃にまみれ、ところどころが衝撃によって醜くひしゃげてしまっている。

 本物の恐竜か怪獣さながらの眼力を有していたツインアイは片方が損壊し、バチバチと火花を散らしていた。

 本体そのもののダメージも深刻であるが、何より重大なのは武装に負った損傷だろう。


 戦艦の主砲を思わせた両肩のキャノン砲は先端部に歪みが生じており……。

 両腕のシールドは半壊し、内蔵されたガトリング砲が使用不可能なのは明らかであった。

 両手のカギ爪にも欠損が見受けられ……。

 腰のミサイルポッドは脱落しかかっている。

 尾に取り付けられたレザーソーもいくつかが砕けてしまっており、無傷なのは尾節(びせつ)に装着された人型モデル用のダガーガンのみであった。


 ユウのグラディウスを庇い、不意に襲いきた一斉砲火をまともに喰らった結果が、これである。


『一体、何が……?』


『来るぞ』


 ユウの疑問には短く答え、戦闘力を半減させられたティラノアームズが向き直った。

 釣られてそちらを見やれば、ユウが想像した事もないほど大規模な人型モデル部隊がこちらに急行していたのだ。

 十や二十ではきかない。

 一機を除きその全てがザラで編成された部隊の総数は、ざっと見て四十機近くはあるだろう。

 バーニアを吹かしながら全速で接近するザラたちはいずれも大口径のバズーカ砲や連装ミサイルポッドで武装されており、先程の砲撃は彼らの仕業であることが一目瞭然であった。


『あいつらは……!?』


『さっきの奴らの仲間だろう……あの連中は斥候に過ぎなかったというわけだ』


 武装のほぼ全てを失い、機体のダメージも甚大……。

 その上でこれだけの敵機が迫っているという絶望的状況にも関わらず、いつも通り平坦とした声でシドーが告げる。


『その通りさ!』


 それに答えを返したのは一団の先頭を往く、唯一ザラとは異なるプラモデルであった。

 ザラはおろか、パワーアップしたユウのグラディウスすら凌駕する加速性能を見せつけ、土煙を上げながら静止したその機体は、明らかに既製品の範疇に留まらぬカスタムモデルである。


 まず目を引くのは、旧時代に使用されたというスケイル・アーマーを髣髴(ほうふつ)とさせる意匠の装甲デザインだろう。

 紫紺(しこん)を基調としたカラーリングに塗装されたそれは、見るからに堅牢な印象を見る者へ与えている。

 全体的なシルエットは直線を組み合わせたものとなっており、これは中央(オールド)模型局(ファクトリー)お抱えの企業マスターモデリング社が販売している品をカスタマイズしたからであろう。

 頭部のデザインも官軍御用達らしくツインアイを採用したヒーロー然としたものに仕上がっており、グラディウスを闘士と称するならばこちらは紛れもなく騎士の出で立ちであった。

 だが、騎士と呼ぶには背部のバックパックへ装着されたグレートソードがいささか抵抗を与えるだろう。

 武装として見当たるのはそれのみであるのだが、機体本体の全長すら凌駕する長さの刀身は部位ごとに塗装色を変化させることで本物の金属剣さながらな迫力を有しており、こうして顕造(ビルド)された今、どれだけの切れ味を発揮するのかは想像することもできなかった。


『ショテルのカスタマイズ機か。

 ――いいプラモだ。名前を聞こう』


『――赤毛のアン、と言えば少しは聞いたことがあるかもねえ』


 続々と集結するザラ隊を右手で制するカスタマイズ機から、ふてぶてしい女の声が響き渡る。

 ただそれだけの挙動からにじみ出る荒々しさは、機体が持つ高貴さとは全く相反するものであった。


『お前の名などどうでもいい。

 興味があるのは、プラモの名だ』


『…………………………』


 シドーのマイペースすぎる言葉に思わず肩を落として見せるその小器用さは、なるほどあのザラたちの頭目に相応しいと言えるかもしれない。


『まあいいさ――ショテル・ウィルダネス。

 あんたを葬る機体の名だ。覚えておくんだね』


『ショテル・ウィルダネスか……覚えておこう。

 ――だが、俺を葬れるかに関しては、どうだろうな?』


『はっ!? 強がるんじゃないよっ!』


 言いながら、アンと名乗った女の駆るショテルが背中のグレートソードを抜き放つ。


(速い……!?)


 それはユウにとってまさしく、目にも止まらぬ早業であった。

 圧倒的な重量を持つはずのそれが、全く重さを感じさせない。


 ――縦に。


 ――真横に。


 ――時には斜めに。


 ショテルはまさしく縦横無尽にグレートソードを振るい、見事な剣舞を演じきって見せたのである。

 それを可能としているのは肩、肘、膝、足首の四か所に設けられた二重関節機構だろう。

 パーツ同士の橋渡しとも言うべきそれを盛り込むことで、より人間に近い動きが実現されているのだ。

 仕上げにグレートソードを担ぎ上げたその姿は、荒野(ウィルダネス)の名を冠するに相応しい佇まいであった。


『元のショテルには存在しない二重関節を違和感なく組み込むとは、見事だ。

 元々白兵戦を想定していた機体の完成度が、更に高まっているな』


『お褒め頂き恐縮だね……それでどうするさ?

 見るからに砲撃戦用な上、ボロボロのその機体で、この距離で、武器も壊れて……アタシに勝てるとでも?

 ――甘く見るんじゃないよっ!』


 その迫力は、搭乗するプラモの完成度と言うより本人の気性であろう。

 ライオンの咆哮を思わせる威圧感に、直接それを向けられたわけでもないユウの肌が粟立ってしまった。


『あえて手下たちに申し出通りの決闘をさせて気を逸らし、多数の部下で不意打ちをかける……。

 俺の戦闘力が削がれたところで、満を辞して接近戦で確実にトドメを刺す、か。考えたな』


『お行儀の良い模型騎士様には、卑怯に思えるかもねえ』


『別に思わんさ。

 それにお前は、考え違いをしている』


『――何?』


 その時、である。

 ティラノアームズの姿に、明らかな異変が生じた。

 機体の表面に一瞬、電光が走ったかと思うと全身の装甲が展開し始めたのである。


 ――まるで、その下にある何かを守っていたかのように。


 ――今まで見せていたのは、仮の姿でしかないと言うかのように。


『この機体……カゲロウには、何のダメージも存在しない。

 ――変身!』


 そう、それはまさしく変身であった。

 シドーの言葉を合図に、装着されていた恐竜型(ティラノ)追加武装(アームズ)が次々とパージされていく。

 否、それは最早パージなどという生易しいものではなく、いっそ発射と形容すべきであろう。

 リニアガンさながらの速度で本体から離脱していくそれはそのものが一種の砲撃であり、装甲そのものの圧倒的強度と相まって油断し直撃した数機のザラを撃破し顕造(ビルド)解除へと追い込んだのだ。


『変身、だと……!?』


 グレートソードを盾代わりにしそれをしのいだショテルから、驚愕の声が響き渡る。

 装甲を排除し、隠されていた姿を露わにしたその機体――カゲロウの姿は、これまでとかけ離れたものであった。


 完全な人型モデルであるその機体は重装甲・重武装であった仮の姿と異なり、恐ろしくスマートなシルエットである。

 最大の特徴は、フレームそのものを剥き出しとしたかのような機体デザインだろう。

 漆黒に塗装されたフレームは、人体の筋肉をそのまま機械へ置き換えたかのように精緻な作りであり、シドーの美意識を強く感じさせる。

 反面、これまでとは打って変わって装甲はおそろしく貧弱であり、真紅に染め上げられたそれが要所をわずかに覆うのみであった。

 頭部にはツインアイが採用されており、追加装甲を装着するために収納されていた一対のパワー・ホーンが屹立した様はさながらサムライのようだ。


『さあ……やろうか』


 封印を解かれた戦騎が、両眼に怪しき光を宿した。

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