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奇襲

 ――一か月後。

 

 町から一キロほど距離を置いた荒野に、四機のプラモデルが顕造(ビルド)され向き合っていた。

 他でもなく、ひと月前にこの町を襲った悪漢らが駆るザラと、彼らに条件付きの決闘を突き付けたシドーが乗るティラノアームズである。

 先日の戦いから、よほどユウの事を侮っているのだろう……。

 三機のザラが手にしているのは、先日同様の軽機関銃のみであった。

 一方、ユウはといえばまだ自身のプラモデルはホルスターに収納したまま、じっと三機のザラに向かい合っている。


『逃げずに来たことはほめてやろう』


 ティラノアームズから、シドーの声が響き渡った。


『へへ、こんな美味しい条件で誰が逃げるかよ』


『三人相手に勝てるもんか』


『何も正攻法でやったって、結果は変わらねえんだ』


『まあ、もしまた町の人を狙ったらその瞬間に引導を渡すが』


『……正々堂々やらせて頂きます。はい』


 ベストヒットモデルの可動域によるものか、はたまた虚仮(こけ)の一念と言うべきか……。

 ゴマすりの極意ここにありといった(てい)で、器用に腰をかがめながら揉み手をしてみせるザラたちである。

 かように間抜けな姿を見せられながらも、この日に備え己とプラモを磨き抜いた少女の目は鋭く細められていた。


『まあいいだろう。

 ――合図はしない。好きに始めろ』


 それだけ告げ、ティラノアームズは数歩下がる。

 決闘の始まりだ。

 だが、まだユウは動かなかった。


『おいおい、ビビッちまってんのかぁ?』


 先ほどまでの卑屈な態度はどこへやら……。

 イイ気になったリーダー格のザラが、腰に手を当てながら挑発してみせる。


「別に、ただ見てただけだよ。

 ……うん、こうして見ると本当に酷い出来だ。あたしも、人の事言えなかったんだけどさ」


 自嘲に口元を緩めたのは一瞬。

 次の瞬間、ユウはホルスターから愛機を引き抜くと高らかに叫んだ。


顕造(ビルド)!」


 巨大な光球がユウを包み込み……。

 それが消え去ると同時に現れたのは――グラディウスである。

 強化パーツの類が追加されたわけでも、武装が変更されたわけでもない。

 しかし、地に突き刺したヒートブレードの柄頭へ両手を添え、悠然と立つその姿は明らかに昔日のものではなかった。


 合わせ目も、白化現象による変色も見事に消え去り……。

 なめらかに磨き上げられた装甲は、本機が本来持つ荒々しい中のエレガントさを遺憾なく発揮している。

 それを後押ししているのが、全身に施された塗装だろう。

 以前のグラディウスはといえば、元が玩具であることを強調するかのような安っぽいブルーカラーの機体であった。

 だが、今は違う。

 使用されたのは元々と全く同じ色合いであるのだが、塗料でそれを散布したことによりプラスチックの成形色とは別次元の色気を帯びているのだ。

 そこへ更にツヤ消しの処理を施すことで、戦うための兵器だと一見で理解できる圧倒的な説得力が付加されているのである。

 無論、スミ入れも入念に施されており、一体成型である各部のパーツが、複数の装甲を噛み合わせているかのように表現されていた。

 その威容は言うなれば、真のグラディウスといったところだろう……。


『う……!?』


『おお……!?』


『こいつ、どんな魔法を使いやがった!?』


 三機のザラが、思わず後じさったのも当然である。

 模型戦士としての本能が、眼前に立つプラモデルに完成度と力量の差を感じているのだ。


『努力……!』


 それだけを告げ、ついにユウは生まれ変わったグラディウスを動かす。

 だが、その動作は極めて微小なものだ。

 何とグラディウスは右手の人差し指を、自身に向けてくいくいと動かして見せたのである。


 ――さっさと攻撃してこい。


 ――受けて立ってやる。


 無言でありながらも、その意思はハッキリとザラたちへ伝わっていた。


『野郎! ふざけやがって!』


『集中砲火を浴びせるぞ!』


『おお!』


 怒りが、本能を凌駕する。

 三機のザラは軽機関銃を構えると、それをグラディウスに向け一斉に発射したのだ。

 顕造(ビルド)されたプラモデルの武器は本物と寸分(たが)わぬ威力であり、軽機関銃といっても全長九メートルの巨人が手にするそれである。

 戦車砲の連射と言うべき、悪魔じみた破壊の猛雨がグラディウスに襲いかかった。


『やったか……!?』


 紺碧(こんぺき)の機体はたちまち着弾の煙に包まれ、マガジンの中身を撃ち尽くしたザラたちは一旦攻撃を中断する。

 しかし……。


『効いてねえってのか!?』


 塗装が剥がれた箇所も、装甲が削られへこんだ箇所も存在はした。

 だが、煙が晴れた中から現れたグラディウスの機体に深刻な損傷は一切存在せず、戦闘継続にいささかも支障が無い事は一目瞭然だったのである。


『……お前らなんか』


 それまで左手のシールドを構える事すらしなかったグラディウスが、地に差したヒートブレードを引き抜き、ゆらり……と一歩を踏み出す。


『ま、待て!? 降参だ! こうさ――』


『お前らなんかあああああっ!』


 効かない軽機関銃を放り捨て、両手を掲げようとするザラの動作はしかし――間に合わない。

 今のグラディウスが備えているのは、古びたディーゼルエンジンすら想起させる情けない噴射力のバーニアではない。

 正しい工程と塗装によって仕上げられたそれはカタログスペック通りの性能を発揮し、近接戦闘モデルにとって命とも言える瞬間的な突進力を与えているのだ。


『があああああっ!?』


 相対する者から見れば瞬間移動とも言える速度で突進したグラディウスが、勢いのままザラの一機へショルダータックルを仕掛ける。

 肩部のアーマーから突き出る特徴的なスパイクは見た目通りの威力を発揮し、まともに喰らったザラの上半身を文字通り粉砕してのけた。


『パ、パワーが違い過ぎる……っ!?』


 顕造(ビルド)が解除され、悪漢の一人が元のプラモデルと化したザラと共に荒野へ投げ出される。

 それを見た残る二機はといえば、これはもう慌てふためく他に(すべ)がない。

 腰部のハードポイントから予備のマガジンを取り出し装填しようとするも、乗り手の動揺を反映したザラの手はもたつくばかりなのだ。


『く、くそ! 来るんじゃねえ!?』


 そう言われて、攻撃の手を休める者など存在するものか……。

 グラディウスの手にしたヒートブレードが一瞬にして刀身を赤熱化させ、その周囲に陽炎を揺らめかせる。

 炎が燃え上がるような派手さは、そこにない。

 しかし、それを腰だめに構えた際、切っ先が向いた地面はじりじりと焼け炭化していっているのだから、単なる炎が持ち得ぬ猛烈な熱量が込められているのは明らかだろう。


『だああああああああああっ!』


 今度は、腰だめに構えたヒートブレードを用いての突進だ。

 先ほどから単純な突進攻撃しかしていないグラディウスであるが、パワーでも機動力でもこちらが上回り相手の武器も通用しないのである。

 となれば、これが最も有効な戦法であることに疑う余地はなかった。

 この戦法を教え込んだシドーが慧眼であったと言うべきだし、実行可能な機体を見事組み上げたユウの根性こそを称えるべきであろう。


『ぎいやあああああっ!?』


 頭部を一突きにされたザラが、突進の勢いそのままに地面へ吹き飛ばされる。

 特徴的な四角いカメラアイは無残に焼け焦げた刀痕(とうこん)がうがたれており、ザラはひくひくと四肢を動かすとそのまま顕造(ビルド)を解除されていった。


『ひ、ひい!?』


 残る一機、リーダー格の乗ったザラがようやくマガジンの装填を終えそれを構えようとする。


『あ、アネゴは何をしてやがるんだ!?』


 毒づきながらそれを撃ち放つが、効かない事はすでに実証済みだ。

 最後の一機を撃破すべく、グラディウスが再びヒートブレードを構えた……。




--




「頃合いだね」


 決闘の場からたっぷりと距離を置いた茂みの中……。

 現地の植物も貼り付けた迷彩シートを被った赤毛のアンは、双眼鏡を置くと親指を立てて見せる。

 それに呼応するのは、同じく迷彩シートに身を隠し周囲へ潜伏していた部下たちだ。


 蒸し暑いシートを脱ぎ捨てられる喜びと、これから行う大物食いへの期待に胸を躍らせた野盗たちは次々に立ち上がると腰のホルスターからプラモを引き抜いていく。

 一拍の間を置き、アン自身も立ち上がりながら愛機を引き抜いた。


顕造(ビルド)!」

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