シドー・I・ハセガワ
掘っ建て小屋に過ぎないとはいえ、通りを形成する建物群と同等の大きさを誇るのだから四機の全長は九メートルにも達しようか……。
色合いの安っぽさといい、関節部のポリキャップといい、全身の至る所に見られるひび割れのごとき合わせ目や、白化現象を起こした切り口の変色といい……。
いかに本物の大きさになろうと、やはりそれらはプラモデルに過ぎないと見れば分かる。
だが、巨体が生み出す迫力たるや尋常なものではない。
質量で地を揺らすことはなくとも、見る者の心は揺さぶられるのである。
それが三機と一機に分かれて対峙しているのだから、その壮観さたるや何をか言わんや、だ。
対峙する内、男たちを光の中に飲み込んで巨大化した三機はいずれもが同じデザインの機体である。
全体的に曲面を帯びた装甲はモスグリーンの配色がなされており、兵士の武骨さを感じさせた。
最大の特徴は首が無い頭部のほとんどを占める四角いカメライアイで、まるでテレビをそのまま乗せたかのようである。
武装は三機ともが軽機関銃を手にしており、これが兵士じみた印象を更に加速させていた。
――ザラ。
プラニック社が販売する傑作モデルであり、万人に組み上げやすい設計と塗装不要とすら言われる良好な色分けから模型戦士ならずとも愛する人間の多い機体である。
対する少女を飲み込んで巨大化した機体は、これも全体に曲面を帯びた装甲デザインからプラニック社製のモデルであると分かった。
ただし配色は全く異なっており、その全身はコバルトとターコイズを組み合わせたブルーカラーの配色となっている。
モノアイを採用した頭部から全身に至るまで中世の甲冑を思わせるボディデザインとなっているが、ショルダーアーマーから突き出た特徴的なスパイクは騎士というより闘士と呼ぶのが相応しいだろう。
それが証拠に、武装として保持するのは蛮刀と円形の小型盾であった。
――グラディウス。
漢を感じさせる独特なデザインから熱烈な愛好者も多いモデルであるが、ザラに比べ明らかに少ない可動域と非常に目立つ合わせ目は旧世代の機体であると評するしかないだろう。
「出来た……あたしにも!」
しかし、グラディウスの胸部……コクピットの中でこれを顕造した少女は闘志と感動で胸を震わせていた。
網膜に投射されるのはグラディウスの頭部が捉えた映像に他ならず、念じれば握り拳状のポリパーツに過ぎぬはずの指先が自在に動かせるのを感じる。
これこそが、模型戦士の力――亡き父と同じ能力なのだ。
それを思えば、プラスチック製のパイロットシートも何とも座り心地が良く感じられた。
『ほう……その年で顕造ができるたあ、大したもんだ』
余裕しゃくしゃくといった態度そのまま、前方に立つザラの一機……連中のリーダー格と思しき男の機体が自機に存在しないはずのアゴを左手でさする動作を見せる。
『あ、当ったり前でしょ!? あんた達みたいな盗賊なんて、あたしが追い払ってやるんだから!』
少女が吠えれば、その分身であるグラディウスも吠える。
そして燃え上がる闘志のまま腰だめとなり、右手の蛮刀を構えた。
次の瞬間――蛮刀の刀身が、猛烈な熱を放ちながら赤熱化をし始める。
――ヒートブレード。
模型戦士である少女がそうあれと願いながら組み上げた武器は、いざ顕造されれば込められた思いのままにその能力を発揮するのだ。
……組んだ時にはもう少しこう、炎が燃え上がるような感じになるのではないかと思ったが。
同時にリアスカートアーマーへ内蔵されたバーニアも火を噴き始める……これも想像していたより、勢いが随分と弱いが。
『おお、おっかねえおっかねえ……。
おっかねえから、こうしちまおうか、な!』
勢いのままに突撃しようとする少女のグラディウスに対して、ザラのリーダー機が見せた行動はしかし意外なものであった。
リーダー機は手にした軽機関銃を構えると、それをグラディウスではなく付近の家屋に向けたのである。
「なっ!?」
その時、グラディウスが捉えたのは家屋の二階……窓から通りの様子をうかがうようにしていた町民の姿だ。
通りに人気が無かったのは、何もこの町に住民が存在しないからではない。
プラモを駆る凶賊の存在に怯え、住居に閉じこもっていたからなのである。
『くっ――ああ!?』
考えるより、先に機体が動いた。
少女のグラディウスはバーニアを最大限に噴射させると、狙いを付けられた家屋との射線上へ割って入ったのである。
まるでそれを待っていたかのように――否、待っていたのであろう。
ザラの手にした軽機関銃が火を噴き、猛烈な勢いで銃弾を撃ち放つ。
『あぐっ! うあっ!?』
こうなっては、たまったものではない。
僚機も加わって三機ものザラから蜂の巣にされたグラディウスは手にしたヒートブレードも構えたシールドも砕かれ、その全身を撃ち抜かれたのである。
弾丸が貫通して背後の家屋に当たらなかったのは、近接用モデルとしての防御力ゆえであろう。
「うああっ!」
破壊されたグラディウスの機体が顕造した時と同じ光に包まれ、そこから少女が弾き出される。
満足に受け身も取れず倒れ伏す少女の眼前に落ちてきたのは、元のサイズへ戻った自らのプラモデルであった。
『はっ! 他愛ねえなあ!』
『達者なのは口先だけだったなあ!?』
『もろいプラモだぜ!』
見上げれば、三機のザラが自分を見下ろしながらせせら笑っていた。
「く……ちくしょう!」
手を伸ばし、再びグラディウスを掴もうとする。
しかし、涙ににじむ視界の中でそれを持ち上げたのは自分ではなく、他の誰かであった。
「いいプラモだ……思いがこもっている」
声に顔を上げてみれば、グラディウスを手にそこへ立っているのは一人の少年である。
一体、いつの間にここへ現れたのか……。
ノリの効いたシャツにベストを合わせるという、この辺りではまず見られない都会人のファッションに身を包んだ少年だ。
目深にまで伸びた黒髪と涼やかな瞳、そしてどこか捉えどころのない表情が何とも印象的であった。
『何だてめえ! どっから出てきやがった!?』
頭上から吐き出される汚らしい声も意に介さず、少年は様々な角度からグラディウスを眺めまわす。
ひとしきりそうすると満足したのか、ズボンが土埃に汚れるのも気にせず膝をつき、少女の手にグラディウスをしっかりと握らせてくれた。
「あ、あんたは……?」
「俺か?」
呆然とした少女の問いかけに、少年は立ち上がりながら答える。
「俺の名はシドー・I・ハセガワ……プラモを愛する者だ。
――お前たちのプラモは、美しくないな」
言いながら、シドーと名乗る少年が手を伸ばしたのは――腰のホルスターだ。
ならば模型戦士であることに疑う余地はないが、彼が手にしたのは少女が見たことも聞いたこともないプラモデルである。
「――顕造!」
シドーはそれを高々と掲げ、顕造した。
次の瞬間……爆圧的な光に包まれ姿を現した機体に対し、少女が持ち得たのはただ一つの言葉である。
「恐……竜……?」




