眼鏡少女と紳士たち ~無人島に女1人男4人元の関係に戻れるはずもなく~
高校二年生の夏のことです。
楽しい修学旅行の帰り道、私達が乗っていたフェリーが難破してしまいました。乗組員の方たちの誘導により非常用ボートに乗ったのですが、高波にさらわれ気がついたときには無人島に流れ着いていました。
命があっただけ儲けものと考える方もいることと思いますが、問題があるのです。
無人島に流れ着いたのは私だけではなく、なんと同じ学年の男子が四人も一緒だったのです。島を探索してみましたが、他に流れ着いた人はいませんでした。
残念ながら私はちょっと、いえ、かなり容姿に不自由しておりまして、そのお蔭で生まれてこの方男性に言い寄られたことはおろか、まともに交流したこともありません。そんな私がいきなり男子四人と一緒に居るなど難易度が高すぎるのです。
しかもそのうえ、実はこの男子たち学校内ではとても有名で女子ならば知らぬものはいないイケメン四人衆なのです。何を隠そう実は私も、彼らを遠くから見ては日々の糧にしている女子の一人です。
そんな私のすぐ近くにイケメン四人衆がいて、心の中の私は浮足立つどころか既に天国へ召されてしまっています。ああ、イケメン最高!
しかしそんなことを言っている場合ではありません。ここは無人島です。ただ生きていくだけでも大変です。
と、言いたいところですがそんなことはありませんでした。
「この木は使えそうだぜ。あとツルをロープ代わりにすれば簡単な家を作る事が出来そうだ」
そう言うのは父親が大工をしていて、子供のころからもの作りをしている高山大地くん。彼のおかげで雨風をしのぐには十分すぎるほどの家ができました。しかも、女子だからと私専用の個室まで作ってくれたのです。紳士です。
「待ってください。生水を飲むのは良くない。水は一度ろ過してから飲むんです」
そう言うのは学校一の成績で、将来は科学者になり世界の食料不足を解消することが夢の水城理くん。彼はキノコや果物にも精通していて人が食べても問題ないものを選別してくれます。しかも、一度自分が口にして問題無いことを確認した後に果物などを私にくれます。紳士です。
「見てくれ。鳥がいたから仕留めてきた。さばいてみんなで食べよう」
そう言うのは根っからのサバイバル好きで、夏休みは決まって何日も山籠もりをするという渡辺緑くん。彼は無人島にいる動物や海の魚を仕留めては見事な手際でさばいていくのです。しかも、「生きるためには仕方のない事だ。彼らのおかげで生きられることに感謝するんだ」と、かわいそうだからと食べるのをためらっている私に優しい言葉をかけてくれたのです。紳士です。
「みんな! 必ず救助は来る。諦めず全員で生きて帰ろう!」
そう言うのは生徒会会長の結城拓哉くん。この無人島に流れ着いてどうしていいのか分からない私達を優しい言葉で落ち着かせ、これからするべきことを的確に指示を出す私達のリーダー的存在です。しかも、そのことを言うと「僕はなにも凄くないよ。みんなの力があってこそさ」と、そう言って謙遜するのです。紳士です。
無人島生活は彼らのおかげで大きな苦労もなく生きることが出来ています。
……え? 私は何の役に立っているのか、ですか? 一介の女子高生にサバイバル技術などあるはずもありません。彼らがもたらすものに寄生するしかないのです。仕方が無いのです。しかもそのことを咎める人は誰一人としていません。全員とっても紳士なのですから。
そんな無人島生活が五日ほど経過したある日のことでした。
夜、救助が来た時に見つけやすいようにと火をつけて、その周りに居た私達に襲いかかったのは雨でした。かなり強い突然の雨に右往左往した後、私達は大地くんが作ってくれた家に避難しました。中は十分な広さなので、五人で入っても余裕です。
「みんな、大丈夫かい? ケガをした人はいないかい?」
拓哉くんがそう言ってみんなを気遣います。さすがはリーダーです。
拓哉くんの言葉にみんなケガはないと返事します。よかったです。
「この雨を貯めておく方法を考えておくべきでした。近くに泉があるとはいえ水は多い越したことはありません」
「じゃあ雨が上がったら、貯めるタルみたいなのを作ってやるぜ。家が完成してからやる事が無くてヒマだったんだ」
理くんはいつも冷静に物事の先を考えています。大地くんも本当にヒマだったらしく、腕が鳴るぜ、と元気いっぱいに叫んでいます。
「少しは静かにしろ。いざという時の為に無駄な体力は使わないようにするんだ」
緑くんはここに来た時から変わらずサバイバル基準の言動です。けれどいささか楽しそうに見えるのは私だけは無いはずです。
私はなんだか見づらいなと思っていたら、かけているメガネが雨で濡れていることに気がつきました。メガネを外して拭く物が無いかと考えますが、そんなものあるはずもありません。仕方がなく着ている服で拭いてみましたが、服も濡れているので意味がありません。
「あれ? お前もしかして――」
そんな声に顔を上げてみると大地くんの顔がすぐ目の前にありました。私は驚きのあまり固まっていると、大地くんはその手で私の前髪をすくい上げたのです。あまり容姿に自信が無いために、普段は長い前髪で隠している私の顔が皆の目に晒されてしまいました。
私はどんな厳しい言葉が来るのかと目をぎゅっと瞑ります。
「やっぱりだ。お前、メガネかけてない方がカワイイじゃんか!」
大地くんのそんな言葉に、私は驚き目を見開きました。
「驚きました。メガネのあるなしで、あなたの印象がここまで変わるとは……。想定外です」
「お、俺は女には興味がないから、その、よくわからないけど……悪くは無いと思う……」
「本当だ。キミはそっちの方がステキだね。もちろん、メガネをかけた姿もステキだけど」
理くん、緑くん、拓哉くんも私に声をかけてくれます。
驚きです。まさか私に「メガネを外すと実は美少女」の能力が備わっていたとは。
……え? 美少女は言いすぎ、ですか? いいじゃないですか、これぐらいの誇張は。
私が照れていると、大地くんがスッと私の前髪を救い上げていた手を外し離れていきます。その顔はなぜか赤くなっています。そして他の三人もなぜか顔を赤くし私から視線を外しています。
理由が分からず私が首を傾げていると、拓哉くんが自分のブレザーを私にかけてくれました。家の中に置いていたから今は濡れてはいませんが、私にかければ濡れてしまいます。
「女性をその姿のままにはしておけないからね」
そう言って指さす先を見てみれば、なんと、雨に濡れて私の服が透けているではありませんか。慌てて前を隠しましたが、四人の様子からすると私の胸はバッチリ見られてしまったようです。
幸い、ブラジャーをしていたので胸自体を見られたわけではありませんが、世の男性方は女性の下着に並々ならぬ興味をお持ちだと聞きます。しかもここにいるのは、そういうことに一番興味を持つ年頃の男子高校生です。
いけません、これは危険です。
男子高校生は性欲の塊、性欲そのものと言っても過言ではなく、エッチなことを考えさせたら右に出るものがいないと聞きます。
今までは私の、あまりよろしくない容姿のおかげで特に何もありませんでしたが、今彼らには、実は私はカワイイという共通認識が出来てしまっています。しかも、無人島について五日が経過しています。風の噂では、男性は一週間禁欲するのもツライというではありませんか。
けれどここは無人島で、しかも女は私一人です。さすがの私も身構えてしまいます。というか身構えてもいいですよね、さすがに。
イケメンといえども男性、紳士といえども男性です。己の内に渦巻く欲望に忠実になられては、非力な女子である私にかなうはずがありません。しかも四人いっぺんに来られては尚更です。
「雨が降っては何も出来ないな。みんな、今日はもう寝ることにしよう」
私が不安に思っているのを感じ取ったのか、拓哉くんがそう提案します。その提案にみんな頷き、私は促されるように自分の個室へと移動します。
これは逆に危険なのでは、と私は思いました。私が寝た後でこっそり襲われては何も出来ません。
私は不安に思いながらも、拓哉くんが貸してくれたブレザーに顔をうずめ、思いっきり呼吸します。拓哉くんのにおいで肺を満たしていると、うかつにも寝てしまいました。
その後なにがあったのかというと……、なにもありませんでした。
薄れゆく意識の奥で彼らが何事かを話している声は聞こえたのですが、結局誰一人として私が寝ている所へ来ることはありませんでした。
胸を見られたことで頭から飛んでいたのですが、彼らは紳士です。寝込みの女性を襲うなどそのようなことをするはずが無いのです。
別の日のことです。
私も年ごろの娘として、同い年の男子が目の前にいるのに変なにおいをまき散らすことはどうしても許せないと、毎朝泉で水浴びをしているのですが、今日はいつもと違うことが起きました。
ふと聞こえた物音に視線を巡らせると理くんがいました。
私はとっさにしゃがみ込み泉で身体を隠したのですが、きっと理くんにはバッチリ裸を見られてしまったに違いありません。
これは危険です。理くんはいかにも勉強だけをしていて女性に免疫が無いという雰囲気を漂わせています。そんな彼に裸を見せてしまっては理性のタガが外れてしまうかもしれません。
しかも私の服は理くんのそばにあり服を着るには裸で彼に近づかなければいけません。完全に詰みといえるこの状況にさすがの私も女性として身の危険を感じます。
「いや……申し訳ありません。水を汲みに来たのですが、まさかあなたがいるとは思いませんでした。……光が泉に反射して僕からは何も見えませんでしたので……その、安心してください。それでは僕は行きます」
そう言って理君は足早にこの場から立ち去っていきました。もしかしたら戻ってくるかも、としばらく動かずにいたのですが、その様子は全くありませんでした。
普通の男性ならば飛び掛かってくるこの状況に、自らが悪いと言葉を残し去っていくとは、さすがは理くん。紳士です。
別の日のことです。
いかに丈夫な制服といえども、こう何日も着て森の中を歩いていると破けてしまいます。
「おい。あんたの服、破けているぞ」
そう言う緑くんの言葉に自分が着ている制服を見回すと確かに破れていました。幸い脇腹の部分が切れているので、あまり恥ずかしい思いはしませんでした。
しかし、このままではいけないと緑くんは言います。
「ほつれた部分から次第に破れが大きくなる。すぐに縫った方がいい」
緑くんの言葉に私は頷きましたが、ソーイングセットなどを持ってはおらず、仮に持っていたとしても私の残念な指では服を縫うなどという器用なことは出来ないのです。
どうしようかと私が頭を抱えていると、緑くんが手を差し出してきました。
「その服を貸せ。俺が縫ってやるよ」
聞けば緑くんは山籠もりしている最中など、自分の服や道具が破れたり壊れてしまうと、いつも自分で修理しているのだそうです。さすがはミスターサバイバルです。
私は自分の服を脱ぎ、かわりに緑くんのブレザーを羽織ると制服の上を手渡します。
緑くんは見事な手際で服を縫っていきます。ちなみに、針と糸は緑くんがいつも常備しているとのことで、それを使っています。
手際の良さに見惚れていると私は、自分がとんでもない状況に置かれていることに気がつきました。
男子と二人きり、しかも緑くんのブレザーを着ているといっても、やはりどうしても防御力に不安のあるこの状況は非常に危険なのではないでしょうか。
緑くんの手には私がずっと着ていた制服があります。きっと私のにおいが彼の鼻孔をくすぐっているはずです。今、私が羽織っているブレザーから彼のいいにおいがしているように。
私はスカートの裾の位置を直してブレザーを強く握ります。この状況にさすがの私も女性として身の危険を感じます。
「ほら、終わったぞ。これで大丈夫なはずだ。また破れたら言ってくれ、直してやるから」
そう言って緑くんはこの場を離れようとします。
私はお礼の言葉を言って、どこに行くのかを尋ねました。
「獲物がいないか探してくる。しばらくは戻らないからあんたはさっさと着替えるといい。貸したブレザーは適当にその辺に置いておいてくれ」
緑くんはそう言い残すと本当にどこかへ行ってしまいました。
自分の服を着ている無防備な女子が目の前に居るという状況に、無駄なく服を縫って立ち去るとは、さすがは緑くん。紳士です。
別の日のことです。
大地くんが建てた家に雨漏りする箇所があったので、修理をするという大地くんと一緒に材料を集めに出かけました。
丈夫そうなツルを探してくれという大地くんの言葉に私は辺りを見回します。すると一本のとても太く丈夫そうなツルを見つけ手を伸ばしたのですが、なんとそれは大きなヘビで気がついたときには既にふれてしまっていたのです。
私は驚きのあまり「きゃああ」という女の子の可愛い悲鳴を上げる――などということはなく「ぎょええ」と聞くに堪えない悲鳴を上げて尻もちをついてしまいました。
幸いなことにヘビは私の悲鳴に驚いてどこかへ行ってしまいました。大地くんは逆に私の悲鳴を聞いてすぐに駆け寄ってきてくれました。
「おいおい、大丈夫かよ」
心配の言葉をかけてくれる大地くんに問題ない事を言って立ち上がろうとした時です。足首にピリリと痛みが走り私は再度尻もちをついてしまいました。
「あーこれは足首を捻っちまってるな」
私の足を見ながら大地くんはそう言います。そして私に背を向けてしゃがみ込みます。
「ほら、おぶってやるよ。このままじゃ歩けないだろ」
男の人におんぶなど、お父さん以外にされたことのない私は躊躇いましたが、大地くんは強引に私の身体を引き寄せ、おぶってしまいました。
大地くんは私の重さなど感じていないかのようにズンズンと速度を変えずに歩いていきます。その背中はとても大きくて、背負われるという不安定な状況にも関わらず安心感を与えてくれます。
大地くんの背中に身を預けていると、自分がとんでもない状況に置かれていることに気がつきました。
今、大地くんと私はこれ以上ないほどに密着しています。私の身体は大地くんの背中にくっつけている、つまりは胸をバッチリと押し当てています。残念ながら触れて大きな弾力を得ることは無い私の胸ですが、ここまで密着してはきっとその感触は伝わっているはずです。
さらには、大地くんの手は私の身体を支えるため、私のお尻をしっかりと握っています。別にいやらしい手つきでは無いのですが、大地くんの手と私のおしりの間にはスカートとパンツ、この二枚の布があるばかりで、お尻の柔らかさはシッカリと手に伝わっているはずです。
そのことに気付いたからといって、いまさら体制を変えれば変に思われてしまいます。大地くんと密着しているこの状況にさすがの私も女性として身の危険を感じます。
「ほら、着いたぞ。ここに座って安静にしていろ。今、緑を呼んでくる。あいつなら俺よりケガの対処が出来るだろ」
そう言って大地くんはこの場を離れようとします。
私はお礼の言葉を言って、手伝いが出来なかったことを謝りました。
「気にするなって。雨漏りの修理だって雨さえ降らなければどうってことないんだからよ。別に急ぐ必要はねぇんだ」
大地くんはそう言い残すと緑くんを呼びに行ってしまいました。
女の子特有の柔らかさを味わっておきながら寄り道することなくまっすぐ家に戻って、さらにフォローもするとは、さすがは大地くん。紳士です。
別の日のことです。
女子高生にサバイバル技術などあるわけがないと言っておきながら、役に立たないどころか足を捻って完全なお荷物になってしまった自分がさすがに情けなく思ってきました。
「どうしたんだい? なにか悩みでもあるのかな。僕でよければ話してくれないかな?」
そんな私の落ち込みを感じたのか、拓哉くんが話しかけてくれました。
暗い夜の中に腰を下ろし、遠く続く海を眺めながら私は自分のお荷物加減に嫌気がさしていることを拓哉くんに話します。けれど私が深刻に話しをしているというのに、こともあろうか拓哉くんは笑い出しました。
「あはは。ごめんごめん、笑ったことは謝るよ。気を悪くしないで欲しい」
拓哉くんは暗い海の彼方に視線を移します。私からは横顔が見えるのですが、横から見た彼もやっぱりイケメンです。当たり前のことですが。
「心配しなくても大丈夫だよ。――男って言うのは単純でね、女性の目があるだけで頑張れる生き物なんだ。キミの存在が、キミを守りたいと、無事に帰してあげたいという思いを生み、みんなの活力なっている。キミがいなければとうの昔に、この状況に絶望してしまっていることだろう」
拓哉くんはそう言うと、まっすぐ私を見つめます。彼の漆黒の瞳に思わず吸い込まれそうになります。
「だから、キミは居てくれるだけで僕たちの支えになっているんだ。こんな状況で、こんなことを言ったら怒るかもしれないけれど、キミが一緒で僕は嬉しかった。ここに居てくれて、ありがとう」
そう言って拓哉くんは柔らく笑うのです。その笑顔に私の冷めきっていた心は、ふわっと温かくなりました。
さすがは生徒会長を務めるだけはあります。私の心の荒みを敏感に察知してケアしてくれました。きっとこうして男女問わず多くの人が彼に心を奪われているのでしょう。拓哉くんはずるいです。
「さぁそろそろ戻ろう。みんなが心配してしまうよ」
拓哉くんは立ち上がると私に手を差し伸べてくれます。自然な流れに思わず、私はその手を取り立ち上がろうとします。
そこで気がつきました。私は生まれてこの方男子、しかもイケメン男子とこんなにシッカリと手を握ったことなど無かったのです。そのことを意識すると、私の身体の制御は私の意思から離れてしまいました。
私の身体はカチカチに硬くなり、バランスを崩します。そこで手を離せばよいのにそれもできず、私は拓哉くんを巻き込んで倒れてしまいました。
ゴツゴツとした岩に背中を打ちつけ声にならない声を出します。しかし状況はそれどころではなかったのです。なんと、私に覆いかぶさるように拓哉くんが四つん這いになっているではありませんか。
これはいけません。女性が下で男性が上など、私が最も危惧している行為の状況そのままです。きっと拓哉くんも同じことを考えているに違いありません。しかも男子高校生となればなおさらです。
両脇には拓哉くんの腕があり、正面には彼の顔があります。互いに何も言わず静かに見つめ合うこの状況に、さすがの私も女性として身の危険を感じます。
「ごめん、大丈夫かい? 女性の身体を満足に支えることも出来ないだなんて恥ずかしい。もうすこし身体を鍛える必要があるようだ」
拓哉くんはそう言って私の腕を取り、シッカリとした動きで私を立たせてくれます。そして私の手をもう一度握ると、くじいた足でも歩きやすいように支えてくれます。
女性を押し倒すなどという、もろ刃の刃ともいえる状況を作ってもその爽やかな笑顔を絶やすことなく、いやらしい雰囲気を出すこともなく女性をフォローするとは、さすがは拓哉くん。紳士です。
別の日のことです。
私は疑問に思っていました。風の噂では男子高校生の性欲は凄まじく、一日中エッチなことを考えていると聞きました。しかし彼らはどうでしょう、そのようなそぶりは全く見せず、きっとちらちら見えている私の女性の身体には目もくれていません。この無人島と言うエッチなこととは無縁の環境で、あり余る若いリビドーをどのように発散しているのでしょうか。
いえ、もしかしたら私の考えが間違っていたのかもしれません。彼らを紳士である前に男だと思っていましたが、男である前に紳士だったのかもしれません。かも、ではありません。絶対にそうなのです。
私は自らの考えに妙に納得しました。同時に恥ずかしくなりました。きっと、いつもエッチなことを考えているのは私の方だったのでしょう。
そんなことを考えているといつの間にか夜がふけてしまっていました。変なことを考えていたせいか目が覚めてしまい全く眠れません。
ふと、部屋の外から話し声が聞こえてきました。どうやら隣の部屋で寝ているはずの男子四人はまだ起きているようです。
私は眠れないこともあり彼らの所へ行くことにしました。
彼らは紳士だと分かったのです。特に心配することはありませんでした。それに、いつ救助が来るか分かりません。救助されれば彼らと会うことなど無くなってしまうでしょう。今のうちにいっぱい話してイケメン成分を取り込んでおくのです。
私は彼らが話をしている部屋へ足を踏み入れました。
そこで、私はとんでもないものを見てしまったのです。
彼らはまるで時が止まったかのように、大きく目を見開いて一様に私を見ています。私はそんな彼らの目を見ることはなく、別の物を見ていました。彼らの裸体を。
拓哉くん、大地くん、理くん、緑くんの四人はなぜか一糸まとわぬ姿をしており、互いに互いの身体を重ね合わせているのです。
みんな裸ですので、もちろん男性自身と称されるものも見えます。生では初めて見るソレに私は目が離せません。以外にも大地くんのモノが一番小さいように思います。
この状況に驚きましたが、同時に納得もしました。彼らの若い欲望は互いを使って発散させていたのです。そう言えば、彼らは女子ならば誰もが欲するイケメンなのに浮いた話を一切聞きませんでした。きっと以前からこうゆう関係だったのでしょう。
止まっていた時が動き出したかのようにみんな一斉に動き出しました。理くんは服で自身の身体を隠し、大地くんはあぐらで座り頭を掻いています。緑くんは鋭い眼差しで私を睨み、拓哉くんは色々と言い訳のような言葉を並べて私に話しかけています。
私はその状況に声を張り上げてこう言いました。
「わ、私も、BLが大好きっ! だからみんなの事、もっと見ていたい!」
BLとはボーイズラブのことで近年市民権を得た、婦女子もとい腐女子のたしなみのことです。基本的に二次元世界限定を唱える声が大きいのですが、私は三次元世界もいける口だったりします。というか、彼らイケメン四人衆でそのような妄想に浸ることは日常茶飯事でした。それを日々の糧にしているのです。
私の声の大きさにか内容にかは分かりませんが、みんな驚きの表情をしています。そして次第に困った表情に変わっていきました。ただ、拓哉くんを除いて。
拓哉くんは整った顔をいやらしい笑顔に歪ませるとこう言いました。
「いいよ。僕は誰かに見られているのがとても興奮するんだ。キミが現れてからも胸が高鳴って仕方がない」
拓哉くんは他の三人へと振り返り、同意を求めます。初めは困惑した顔をしていた彼らですが、
「僕がいいって言うんだからきっとみんなも賛同してくれるよね。そうだよね?」
という拓哉くんの言葉にみんな了承の言葉を口にしました。
こうして、私はイケメン四人衆による肉欲の日々を鑑賞する日々を手に入れました。
ちなみにこの数日後に救助の人が来て、私達は全員無事にいつもの日常へ帰ることが出来ました。
けれど変わったことがあります。それは無人島で交わした約束は今なお有効なのです。
彼らが事に及ぶときには決まって私も呼ばれ、その甘美な光景によだれを垂らします。
……え? 本当に見ているだけなのか、ですか? 当たり前でしょう。彼らの間に私が入ってはこの尊い時間が汚れてしまいます。私は彼らを見ているのが一番の至福なのです。
紳士は紳士と愛を語らうのが一番美しいのです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
読んだ後に「なんだこれ……」と思っていただけたのなら幸いです。