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9話 協力クエスト

 俺たちは街を出て、モンスターが大量発生しているという地帯へ向かっていた。


「サリアさんも魔法使いだったんですか!」

「ええ。 モンスターなんて、私にかかれば一瞬で消し炭だわ! あんたも私の足を引っ張らないように頑張るのよ!」

「はい! 頑張ります!」


サリアは同じ魔法使いであるミルコに上から目線でものを言っているが、きっと足を引っ張るのはサリアだろう。俺はたった一人でクエストに参加したマグの隣を歩いていた。


「マグはどうして一人でこのクエストに参加したんだ? ヒーラーなら、回復させる仲間とパーティーを組んでいるものじゃないのか?」

「パーティーは過去に組んでいたが、追い出されてしまった。それでも、私は回復させることが好きだから、今回のクエストに参加したんだ。これだけ人がいれば、傷を負うものも自然と出てくるだろうからな」


回復させるのが好きだなんて、優しい人だ。どうしてそんな人がパーティーを追い出されるのか分からないな。


「みんな! モンスターたちが現れたぞ! 戦闘準備だ!」


戦闘を歩いていたマキノが緊張感をまとった声を張り上げる。前方に目を向けると、数百メートルほど先に数十匹ほどのモンスターの群れが見えた。マキノは素早く剣を抜く。


「遠くないか?! まだ構えなくていいだろ!」

「何を言っているんだイツキ君! ここから先は命がけだ! 早く構えろ!」

「わ、分かった!」


勢いで返事したが、そもそも俺には構えるものがない。腕を上げて、それっぽいポーズをとることにしよう。

俺が両腕を胸の前まで上げて握りこぶしを作ると、タケミツが俺の構えに反応してきた。


「イツキ、お前も武闘家なのか?!」

「ああ、ちょっとかじっててな」

「ぜひ今度手合わせ願いたい!」

「え? あ、それはちょっと無理かな、うん」


調子に乗ってかじっていたなどと言ったせいで目をつけられたが、実際のところは武闘家でも何でもないので、本物の武闘家の相手などしていられない。

タケミツも俺とマキノと並んで構えをとる。俺たち三人は、構えを保ったままじりじりとモンスターたちとの距離を詰める。しかし、遠すぎて一向に近づいている気がしない。


「あんたたちバカなの? そんなとろとろしてたら戦闘が始まるころには日が暮れてるわよ」


サリアたちが俺たちの横を平然と通り過ぎていく。


「サリアにバカにされるだなんて……」

「俺は最初からおかしいと思っていたぞ。マキノが戦闘態勢に入るのが早すぎたんだ」

「すまない、焦りすぎてしまったようだ」

「焦りすぎにも程があるよ! モンスターたちはこっちに気づいてすらないよ!」


ミルコに怒られたことで、マキノはがっくりと落ち込んだ。俺の方も、サリアにバカにされたショックは大きかった。しょぼくれた俺たちはサリアたちの後をふらふらとした足取りで追いかけた。

モンスターとの距離もだいぶ近づいてきた。モンスターの群れは、スライムやスケルトン、他にも2,3種類のモンスターで構成されていた。今度こそは活躍の時だ。


「いくぞ!」

「おう!」


マキノとタケミツはモンスターの群れに突っ込んでいく。俺は、肉弾戦は遠慮しておこう。


「サリア! 魔法で一気にぶっ飛ばしてくれ!」

「任せて! ウォーターフォール!」


サリアの手のひらからぽたぽたと水がしたたり落ちる。


「手汗か?」

「そんなわけないでしょ!」

「なら次こそ頼むぞ!」

「ええ! ウォーターフォール!」


サリアの手からは飛距離が一メートルにも満たないような弱い勢いの水が出た。


「花の水やりをやるんじゃないんだぞ!」

「なんで出ないのよ~~」


サリアは泣きわめきながら地団太を踏んでいる。しかし、サリアがだめでも、俺にはもう一人、頼れる仲間がいる。


「パルメラ、モンスターの生命エネルギーを吸って倒してくれ!」

「はい!」


パルメラは近くにいたスライムに噛みつき、生命エネルギーを吸いだす。


―チュゥゥゥゥ


みるみるうちにスライムの体がしぼみだした。


「いいぞ! その調子だパルメラ!」

「まず!」


パルメラはスライムから口を離して、今にも泣きそうな顔をしている。


「どうしたんだ?!」

「モンスターの生命エネルギーはまずすぎます。まるでドアノブ。もう無理です」

「お前ドアノブなんて舐めたことないだろ!」


ここでパルメラまで離脱してしまっては、マキノたちの負担が大きすぎる。ここは俺自身も頑張るしかないだろう。


「パルメラ、なんとか頑張ってくれ! 俺も戦ってくる」

「そんな! 武器もないのに戦うんですか?!」

「たまにはかっこいいところを見せてやるぜ!」


素手の俺ではスライムを倒すことはできないだろう。しかし、モンスターの群れの中に、俺でも倒せそうな種類のモンスターが混じっているとサリアから聞いていた。

俺は巨大なカタツムリのようなモンスターと向かい合った。このモンスターはデンデンというらしく、大きさは大人の人間と同じくらいの大きさはあろうかというサイズだが、動きが非常に遅い。これなら俺でも倒せるだろう。


「うぉぉぉぉー!」


デンデンの側面から体当たりしてみると、その巨体は大きく左右に揺れる。よし、俺でも倒せそうだ!しかし、デンデンのほうも頭を振り回して抵抗してくる。


「うっ!」


俺は吹き飛ばされてしまった。体の動きは早くないようだが、頭は素早く動かすことができるようだ。それなら、頭の攻撃にさえ注意すればいいだけだ。俺はデンデンの攻撃をかわすと、再び側面から体当たりをかます。デンデンの体はグラグラと揺れて、ついには横に倒れた。こうなってしまうと、しばらくは立ち上がれないらしいので、とりあえずは一安心だ。

戦局に目を向けると、マキノとタケミツが次々と敵を倒し、ミルコは二人の隙を魔法で援護している。だが、それにしては敵の数が減っている気がしないのはなぜだ?


「大丈夫かイツキ! 怪我をしているなら私が回復しよう!」

「マグか! 頼む! ってどこ行くんだよ!」


マグは俺の横を通りそのまま俺が倒したデンデンのもとに近づき膝をついた。


「おいおい、何する気なんだ?」

「回復に決まってるだろ! ヒール!」

「待ったぁぁぁ!」


俺は急いでマグを羽交い締めにしてデンデンから引き離す。


「何をするんだ! せっかく回復呪文をかけていたのに!」

「お前こそ何してんだよ! そいつは敵だぞ! 俺がやっとの思いで倒したんだ!」

「戦場で敵も味方も関係ない! みんな元気が一番だ!」

「一生クエストが終わんねーよ!」


俺は暴れるマグを抑えながら周りの状況を確認した。マグが俺のところに来てから敵の数が少しずつ減ってきている。


「お前もしかして、マキノたちが倒した敵を片っ端から回復して回ってたのか?!」

「そうだ。ヒーラーとして当然の仕事をしたまでだ。礼ならいらんぞ」

「礼なんて言うわけねーよ!」


俺は羽交い締めにしている力を強める。マグを自由にしてしまえば、またモンスターたちを回復しだすだろう。そうなればきりがない。ここでマグを押さえつけることが俺にできる一番の仕事だ。


「私がこの程度で止まると思うなよ?」

「え?」

「誰か、助けて!」


マグが突然大声で助けを求めると、その声を聞いたパルメラがこちらに顔を向けた。


「イツキ! マグに何をしているんですか! 離してあげてください!」

「ちょっと待ってくれ! これには訳が……」

「助けてパルメラ、イツキがいきなり私を羽交い締めにしてきたの」

「ダメですよイツキ! 悪い子にはお仕置きが必要ですね。血の制裁です!」


パルメラは素早く俺の背後に回り込むと、首筋に噛みついてきた。俺は思わずマグを抑える力を緩めてしまった。マグはその瞬間を見逃さず、素早く俺の腕を振り払う。


「待ってろ皆! 今回復してやるぞーーー!」


無差別回復魔が再び野に放たれてしまった。



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