8話 寝起きの吸血
なぜ、俺のベッドの上でパルメラが寝ているのか?自分でこの部屋にやってきたのだろうか?それとも、俺が無意識のうちに連れてきていたのか?!できれば前者であってくれ!
「起きろ、パルメラ! なんでお前がここにいるんだ?」
「んーー?」
パルメラは目をこすりながら体を起こし、ぼんやりとこちらを見てくる。
「あ、おはようございます、イツキ。いい朝ですね」
「ああ、いい朝だな。この状況の理由が分かれば、だけど」
「ひどい! 昨日イツキはあれだけ求めて来たのに!」
「そうなのか?!」
「はい。それはもうすごかったです」
俺にはまったくそんな記憶なんてない。しかし、よく見るとパルメラの着ている服は激しく動いた後のように乱れている。もしかして、パルメラの言っていることは本当なのか?!
「ちくしょう! 悔しいことに、記憶にねぇ!」
「まぁ、嘘なんですけどね」
パルメラはにこにこと笑っている。こいつ、こんな度肝をぶち抜く恐ろしい嘘を平然とついてくるのかよ。
「なんだよ、嘘か、焦ったよ」
「サリアの寝相があまりにひどかったので、こっちの部屋で寝させてもらいました。最初は我慢していたんですけど、さすがに一晩中耐えるのは無理でした」
パルメラの服が乱れていたのは、サリアの暴力的な寝相によるものだろう。俺も体験したことがあるので、よくわかる。
「そういえば、パルメラに聞きたいことがあるんだ。異世界に人間を送る方法について、何か知っていることはないか?」
「異世界に人間を送る魔法ですか……。すいません、心当たりはないです」
吸血鬼であるパルメラなら、なにか特別な方法を知っているかもしれないと期待したのだが、知らなかったようだ。
「イツキ、起きたそばから申し訳ないのですが、その……」
パルメラは照れくさそうになにかを言いたげな様子である。何か言いづらいことでもあるのだろうか。もしかして、恥じらってしまうようなことを頼もうとしているのか?
「どうした?何か言いたいことがあるなら遠慮せずに言ってくれていいんだぞ。俺にできることならどんなことでも協力する!」
「血が飲みたいんです」
「ああ……血ですか……」
やっぱり血か。そんなところだろうとは思っていたが、予想通りすぎて少し悲しい。血を吸わせなければパルメラは凶暴になってしまうので、おとなしく吸われることにしよう。
「いいよ」
「やった!」
俺が首を傾けて首筋に噛みつきやすいようにスペースを作ると、パルメラはそこに勢いよく飛び込んできて、音を立てながら血を吸う。パルメラが噛んでいるときに痛みを感じないような魔法をかけてくれているので、首筋にはこそばゆい感覚だけがあり、なんとも不思議な気分である。
その時、俺の部屋のドアノブが回って、ドアが開くのが見えた。まずい!もし誰かにこんな状況を見られれば、俺がロリコンだと勘違いされてしまうことは不可避!
俺はベッドから慌てて立ち上がろうとするが、勢い余って地面に倒れ込んでしまう。それに驚いたパルメラは口を離し、地面に後頭部をぶつけてしまった。俺はパルメラに覆いかぶさるような姿勢になったが、両手を地面についたことで、なんとか体を支えることができた。
「イツキ、パルメラ見なか……」
ドアを開けて部屋に入ってきたサリアは俺たちを見て、驚きのあまり、口をパクパクさせている。
「違うんだ! これには理由が!」
「ロリコンよ!ロリコンがいるわ!」
「痛い……」
「痛い?! パルメラに一体何したのよイツキ!」
「これは事故なんだ!」
♢♢♢
騒ぎ立てるサリアの誤解を解く頃にはもう昼近くになっており、俺たちは集会所に来ていた。
「今日はクエストを受けてみよう」
「クエストですか」
「どんなのを受けるの?」
「ここからそう遠くない地帯で、モンスターが大量発生したらしい。そのモンスターたちの討伐クエストだ」
「私たちが大量のモンスターに勝てると思ってるの?!」
サリアの言うことは最もである。俺たちが大量のモンスターたちを相手にまともに戦って勝てるかというと怪しい。サリアの魔法は大した威力が出ないことがあるし、パルメラだって、一対一ならまだしも、複数の敵が相手ではモンスターの生命エネルギーを吸っている隙に攻撃を受ける可能性がある。俺に至っては全然役に立たないだろう。
しかし、俺にはこのクエストを攻略するための秘策があった。
「このクエストはな……三つのパーティーが協力して挑むクエストなんだ!」
「ということはつまり、私たちが弱くても全く問題ないってことね!」
「イツキは賢いですね!」
俺たちがクエストを受注すると、すでに他の二つのパーティーの枠は埋まっており、俺たちの参加ですべての枠が埋まったので、参加するパーティー同士の顔合わせをすることになった。
片方のパーティーは三人組であった。
「僕はマキノといいます。戦士として、前線で敵をひきつけます」
「俺はタケミツだ。武闘家だから、マキノとともに前線で戦うよ」
「私はミルコです。魔法使いなので後方から皆さんを援護します」
頼りになりそうなパーティーだ。彼らならモンスターたちを問題なく倒してくれるだろう。
もう一つの方のパーティーはたった一人だった。
「私はマグ。ヒーラーだ。傷を負ったなら私が治そう」
マグと名乗った女は、切れ長の目もとが品格を漂わせ、凛としている。そのうえ、その胸の主張の強さに俺は一人、勝手に威圧されていた。サリアやパルメラをいつも見ている俺にとって、その存在感は強烈だった。
しかし、気になることがある。ヒーラーというのは心強いのだが、なぜ一人なのだろうか?普通ヒーラーは複数人のパーティーの中にいてこそ真価が発揮されると思うのだが……。今は気にしないで自分たちの紹介をしよう。
「俺はイツキ。こっちがサリアで、そっちはパルメラ。俺たちはみんなのカバーをするよ」
「カバーをするというと、どんな風にですか?」
「うっ……」
戦士のマキノに鋭い疑問を投げられる。俺たちがまともに果たせる役割などないのでカバーをすると言ったのだ。
「そ、それは実戦でお見せするよ!」
「わかりました! よろしくお願いします!」
純粋な人でよかった。曖昧にごまかしたが、信じてくれたようだ。
俺たち三つのパーティーはさっそくクエストに出発することにした。