7話 勘違い
「パルメラ! 食べられるときにお腹いっぱい食べるのよ!」
「わかりました! サリアも悔いの残らないようにしてくださいね!」
「もちろんよ!」
サリアとパルメラはまるでこれが最後の晩餐であるかのように、目の前にある料理を全力で口に入れていく。
「あんまり食べ過ぎると動けなくなるぞ」
二人は俺の声など気にしていないようだ。
街に戻った俺たちは集会所へ向かい、集会所内にある鑑定所でお宝を換金してお金を手に入れることができた。そのころにはもう夕方になってしまっていて、昼飯を食べ損ねていた俺たちは集会所内で晩飯を食べることにした。俺たちの座っている机には次から次へと料理が運ばれてきており、俺の向かいに座っているサリアとパルメラは運ばれてくる料理を死に物狂いで食べている。周りの机には他の冒険者もいるのだが、みんなコソコソと何かを話しながらこちらを見ているのが気になる。
「おいおい、あの子たち、『食べられるときに』って言っていたよな?」
「ああ、俺も聞いたぞ、『悔いの残らないように』とも言っていた」
「もしかして、一緒にいる男はあの子たちを奴隷のように扱っているんじゃないか?!」
「あの食べっぷりから察するに、一週間ぶりの食事ってところだろうな。ひどいことをしやがる」
聞こえてくる話声によると、どうやら俺は二人のいたいけな少女を奴隷のように扱うひどい悪人と勘違いされているようだ。しかし、そんなことはない。俺は他人のことを思いやって行動できる優しい人間である。それをみんなの前で証明しよう。
「パルメラ、口元にご飯粒がついてるぞ」
俺は立ち上がり、前かがみになってパルメラの口元にあるご飯粒を優しく指でとり、そのまま自分の口に入れる。決まった。これで完璧に評価を覆した。
「変態よ!変態がいるわ!」
「ええ?!」。
サリアが俺を変態呼ばわりしてきたことに動揺していると、周りの冒険者たちが一斉に立ち上がった。
「やっぱり変態だったのか!」
「このロリコンが!今のは見逃せねぇぞ!」
「許せねぇ。やっちまおう!」
「ちくしょう!羨ましい!」
「俺たちがあの子たちを守るしかない!」
「俺もあんな子たちとパーティー組みてぇ!」
冒険者たちから怒号が乱れ飛んでくる。
「何人か欲望が混じってるやつがいるじゃねぇか!」
「うるせぇ!」
「やっちまえ!」
俺の言葉ではもはや彼らを鎮圧することはできないだろう。ここは、サリアかパルメラの口から誤解を解いてもらおう。
サリアの方に目を向けると、おびえた顔でこちらを見つめている。こいつはだめだ。パルメラに頼むしかない。
パルメラはというと、顔を赤らめながら、ちらちらとこちらを見ていた。
「パルメラ、頼む! こいつらを止めてくれ!」
「わ、分かりました! あたしが何とかします!」
パルメラが勢いよく立ち上がると、冒険者たちも怒号を飛ばすのをやめて、パルメラの言葉を、固唾を飲んで待つ。
「イツキが変態なのは仕方ないことなんです! 許してあげてください!」
「変態であることを否定しろよ!」
俺が恐る恐る冒険者たちの方を向くと、彼らは慈愛に満ちた表情をしていた。
「この子が言うなら仕方がないよな」
「ああ、許すしかない」
「俺も女の子とパーティーが組みたいな」
「イツキというらしいな、その子たちを大切にするんだぞ」
「え……?」
冒険者たちは俺の予想以上にパルメラに対して甘かった。
「パルメラちゃんっていうのか。ひどいことをされたらすぐ俺たちに言うんだぞ」
「はい!」
「俺たちはどんなところからでも駆けつけるよ!」
「うれしいです!」
「ほかにも何か困ったことがあったら言ってね」
「わかりました!」
いつの間にかパルメラは周りを冒険者たちに囲まれて、延々とちやほやされている。
とりあえず俺は助かったようだ。
「羨ましい。私だってちやほやされたい!」
ちやほやされるパルメラを見ているサリアは、嫉妬しているようだった。
「それなら、お前の口にご飯粒がついてたらとってやろうか?」
「やっぱり変態なの?!」
「冗談に決まってるだろ」
今日も一日頑張ったので眠たくなってきた。
会計を済ませた後、ちやほやされているパルメラをなんとか引っ張り出して、昨夜泊まった宿屋へ向かった。
♢♢♢
「あらお客さん、いらっしゃい……え?」
宿屋に入ると、宿主が俺たちを出迎えてくれた。しかし、俺たちを見た宿主は困惑した様子だった。
「お客さん、昨夜は二人だけだったのに、今夜は三人なのかい?」
「はい、今日は三つ部屋を借りたいんです」
「それなら、銀貨三枚だね」
「サリア、お金を確認してくれ」
「わかったわ」
サリアは、手に持った袋の中を確認する。ダンジョンで手に入れたお宝のおかげで、宿泊するには十分なお金があるはずだ。
「足りない……わ」
「嘘だろ?! いくらあるんだ?」
「銀貨二枚と銅貨三枚よ」
まさか足りないことになるとは思わなかった。しかし、思い当たる節はある。晩飯を食べる時に、サリアとパルメラは大量に料理を注文していた。それが原因と考えて間違いないだろう。
「食べすぎなんだよ!」
「腹が減っては戦ができぬって言うでしょ?!」
「戦い終わった後じゃねぇか!」
足りないものは仕方がないので、昨夜と同じように、一部屋に二人泊まることにしよう。
「一人用の部屋を二部屋借りて、そのうち片方に二人泊まる形でお願いできますか?」
「それは構わないけれど……どっちの子を仲間はずれにする気なんだい?」
「俺ですよ、俺!」
「ええ?!」
宿主の驚いた様子を見る限り、この宿主はなにか勘違いをしていたのだろう。一人で寝るのはもちろん俺だ。
部屋は隣同士であり、俺たち部屋に入る前に軽く言葉を交わす。
「パルメラ、気をつけろよ」
「どういうことですか?」
「何言ってんのよイツキ、モンスターが現れるわけでもあるまいし」
現れるのである。お前こそがモンスターだ。
俺は生贄となったなにも知らないパルメラに憐みの視線を送る。パルメラは何のことだかわからないといった様子で首をかしげている。
「その内分かる」
俺はそう言い残して、自分の部屋に入った。今日はぐっすりと眠れそうだ。
♢♢♢
心地よい日差しが窓から差し込んでいる。この世界に来てから、やっとまともな睡眠をとった気がするな。俺はゆっくりと上体を起こして伸びをした。
「いやー、よく寝た!」
「うーーん」
俺の声に反応するかのように何者かの眠そうな声が布団の中から聞こえた。
「誰だ?!」
勢いよく布団をまくり上げると、そこにはパルメラが体を丸めて眠っていた。