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6話 街への帰路にて

 吸血鬼のパルメラを仲間に加えた俺たちは、町への帰路についていた。


「イツキの血はとてもおいしいので、また飲めると思うと、今からわくわくします!」


パルメラは俺の血をいつでも飲めると分かり、まだはしゃいでいる。

俺としても、力になれることはうれしいのだが、あまり血を吸われすぎると命に関わるので、あまり気が乗らない。吸われすぎないように注意しよう。


「町に着いたら飯でも食べたいところだけど、ダンジョンから出る時にお宝全部おいてきたんだよな~」


俺はパルメラにかみつかれたことに驚いて、両手に抱えていた原石をすべて落としたうえに、ダンジョンの出口に向かって走っているときに、ポケットに入った原石も落としてきてしまった。

これでは、宿屋に泊まるどころか、昼飯を食べることもできない。


「はいはい、注目! これは何でしょう?」


俺たちの前に躍り出たサリアは両手を合わせて器を作っており、その中に原石を十個ほど乗せていた。


「やるじゃないかサリア!」

「一人でダンジョンから出る時も、全部は無理だったけど何とか持ち出せそうな分はしっかり持ってきたわ! これが私の天才たる所以よ!」

「すごい!サリアは天才なんですか?!」


パルメラがサリアに尊敬のまなざしを向ける。


「そう! 私はいずれこの世界に名をとどろかす天才魔法使いのサリアよ!」

「天才魔法使い! かっこいいです!」

「いや~照れるわね~」


褒められたことで、サリアは有頂天になっている。

あんな適当な言葉を信じ込むなんて、パルメラはいささか純粋すぎる。

そんな子を弄ぶなんてよくないぞ、サリア。


「俺も天才呪術師なんだ!」

「天才呪術師!? イツキもかっこいいです!」


褒められるのはやっぱり気持ちがいいものだ。


「なに乗っかってきてんのよイツキ!」

「いいじゃないかちょっとくらい! 俺も褒められたいんだよ!」

「イツキの呪術と、サリアの魔法を見てみたいです!」


いがみ合っていた俺たちはその言葉を聞いて、黙り込んだ。

羨望のまなざしを向けてくれているパルメラの前でしょうもないところを見られたくはない。サリアも同じことを考えているだろう。


「サリア、お前の魔法を見せてあげたらどうだ? 俺は遠慮しとくよ。俺の呪術はあんまり見栄えがいいとかじゃないからなー」

「私も遠慮しておくわ。むやみやたらと魔法を打つのは良くないしね」


スライムと戦った時に、倒せるまで打ちまくろうとしていたくせによく言えたものだ。

パルメラは俺たちの呪術と魔法を見られないと分かり、落ち込んでいる。本当はかっこいいところを見せたいのだが、無理である。すまない。


「今更なんだが、パルメラは俺たちと一緒に来てもいいのか?世の中についてもっと知るために旅に出たんだろ? その日生活するので精一杯の俺たちと一緒だと、なかなか前に進めないかもしれないぞ?」

「大丈夫です。血を求めて人を襲い、指名手配されるよりはましです」


確かにそうだ。

一人で旅をするよりも俺たちといる方が、血も吸うことができるので、いくらかましだろう。


「……血が飲みたいです」

「え?!」


パルメラは先程俺の血を飲んだばかりである。

これ以上吸わせるわけにはいかない。


「さっき吸っただろ? もう十分じゃないのか?!」

「久しぶりに特上の血を飲んだら、さらに飲みたくなってしまいました」

「ダメだダメだ! 俺の体がもたないだろ!」

「早く……血を……」

「ダメだ!」

「血をよこせー!」


血に飢えたパルメラは突然狂暴になって俺にとびかかってきた。

俺はよろめきながらも何とかそれをかわす。


「サリア! なんとかしてくれ!」


サリアに助けを求めるものの返事がない。

辺りを見回すと、こちらに背を向けて逃げていくサリアが見えた。身の危険を感じて、一足先に逃げ出したのだろう。薄情者め!


「待てー!」

「こっち来ないでよ!」

「血を!血を!」


俺はサリアを全力で追いかける。その俺の後ろにはパルメラが迫ってきている。

パルメラがとびかかってきたタイミングで、俺は素早くしゃがみ込む。

俺の頭上を勢いよく通り越したパルメラは、そのままサリアの首筋に噛みついた。


「俺を見捨てた報いだ」

「いやー! 殺さないでー!」


――チュゥゥゥゥ


大げさに暴れるサリアの努力もむなしく、パルメラは容赦なく血を吸った。

十分に血を吸い終えると、パルメラは満足そうな表情をしてサリアの首筋から口を離した。

サリアは燃え尽きたようにふらふらと地面にしゃがみこむ。


「すみません、サリア! あたし、つい我を忘れて血を吸っちゃいました!」

「いいのよ……別に……私たち仲間だもの………」


サリアは力なく返事をする。

その疲れた様子は、血を吸われるという未知の体験に対するショックによるものだろう。


「パルメラ、サリアの血はどうだった?」

「そうですね、不思議な味でして、間の抜けたような感じがしました」


ポンコツの体は、流れる血にも間抜けな成分が混じっているということか。


「う~~~~~」


パルメラの感想によって追い打ちをかけられたサリアは、膝を抱えて落ち込んでいる。

相当ショックを受けているようなので、俺の呪術で励ましてやろう。

俺は靄のかかった黒い球をサリアに投げた。サリアに当たった球は溶けるように消えていく。パルメラはそれを見て目を丸くした。


「イツキ! 何をしたんですか?!」

「呪術をかけたんだ。これでサリアは元気になる。サリアに声をかけてあげてくれ」

「わかりました。サリア、大丈夫ですか?」

「アッハハハハ!」


サリアはパルメラに声をかけられると急に笑い出した。これこそが俺のかけた呪術の効果である。


「今かけた呪術は『ワライヤスイ』といって、かかった相手はしばらくの間、少しのことでも、笑ってしまうようになるんだ。それが名前を呼ばれただけでもな」

「これが呪術ですか! これならサリアも笑っているうちに元気になりますね!」

「なにやッアハハ! くれてッフフフ!」


サリアは笑いながら俺をたたいてくる。


「笑ったり怒ったり、忙しいやつだな」

「イツキのッフフフ! せいでしょッアハハ!」


サリアは俺に向かって手を突き出した。

まさか魔法を打つ気なのか?!逃げなければ!

俺は慌てて走り出すが、遅かった。


「クーッフフ、ウィンド!」


背後からの強烈な風によって俺の体は吹き飛ばされる。

そんな俺の耳には、魔法を見ることができたことに対するパルメラの喜びの声がかすかに聞こえた。


「俺を心配してくれよ!」


俺の言葉は体とともに宙を舞った。


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