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5話 吸血鬼の少女

 ―コンコン、コンコン


俺は棺の外から誰かがノックする音で目を覚ました。サリアが先に起きて、俺を起こそうとしているのだろう。

棺のカギを開けて、ゆっくりと扉を開く。


「意外と休めたな、サリア」

「カタカタカタッ!」


俺を起こしたのはサリアではなかった。スケルトンたちが俺のいる棺の周りを囲んでいた。


「カタカタカタッ!」


しかも、相当怒っているようである。やはり、勝手に棺で寝たのはまずかったのか。

そんなスケルトンたちの隙間に、部屋の出口から顔だけ出してこちらの様子を震えながらうかがっているサリアが見えた。


「起きてたなら俺も起こせよ!」


俺は大声を出しながらスケルトンたちに体当たりして無理やり道を作り、出口に向かう。

不意を突かれたスケルトンたちも、すぐさま俺を追いかけだす。


「また追いかけられるの?!」


サリアが半泣きになりながら悲鳴を上げる。

俺たちは部屋を出て、行く先もなく走り出す。せっかく休むことができたのに、また追いかけまわされるとはついていない。

いくつもの部屋を次々と通り過ぎていく中で、俺は視界の端に木の箱を捉え、思わず足を止めた。


「もしかして、あれってお宝じゃないか?!」

「そうみたいね、宝箱で間違いないわ」


俺たちを追っていたスケルトンたちも、もう追ってきていない。これならゆっくりとお宝を見ることができる。

俺が箱のふたを開けると、中には握りこぶしほどの黒く濁った原石が数十個ほど入っていた。


「お世辞にもきれいとは言えないな。こんなのがお宝なのか?」

「確かに、一つ一つの価値はあんまり高くないわね。でも、これだけ量があれば数日分は間違いなく生活に困らないわ!」

「よし、ありったけを持っていくぞ!かっつめろ!」


俺とサリアは、衣類のポケットに、はちきれんばかりに原石を詰め込んで、入らなかった分は両手いっぱいに抱えて持ち運ぶことにした。それでも全部の原石を持ち帰ることはできないが、それに関しては諦めるしかない。


「これでひとまずは生活に困らないな!」

「やったわね! こんな薄暗いとこなんてとっとと出て、美味しいご飯を食べに行きましょう!」


俺たちは満面の笑みで顔を見合わせた。しかし、サリアの顔はみるみる青ざめていった。せっかくお宝を手に入れたというのに、どうしてそんなに悲惨そうな顔をするのだろうか?


―ガタガタッ


俺の背後から物音がした。振り返ってみると、そこにはここに来る道中に何度も見てきた棺が置かれていた。


―ガタガタガタガタッ


物音の正体は棺が揺れた音だった。

どうか幻覚であってくれ、今モンスターに襲われればひとたまりもない。


「血を、血をよこせ~」


棺の中から聞こえる声は明らかにスケルトンのものではない。


「今のって、夜道で襲われた人たちが聞いた言葉と同じじゃないか?!」

「どうしましょう?! 私たちこんなにお宝抱えてたら逃げ切れないわよ!」


突然、棺の中から何かが飛び出し、素早く俺の首に噛みついた。


「うわぁぁぁぁぁぁー!」


俺は驚いて、手に抱えていたお宝を手放し、そのまま無我夢中で走り出した。

このまま血を吸われて死んでしまうのか?!いやだ、死にたくない!こいつは夜にしか現れていないから、陽の光が弱点なのかもしれない。一か八か、ダンジョンを出てみよう!


「おいてかないでよ~」


後ろからサリアの叫ぶ声が聞こえる。すまないサリア、お互い生きていたら明るい日の下でまた会おう。

俺は走り続け、ダンジョンに入ったときの階段を見つけた。外まであと少しだ。

棺の中から出てきた何かはまだ首筋に噛みついているが、不思議と痛みは感じない。

一気に階段を駆け上がり、最後の一段を登り切った……と思ったが、段差が足に引っかかって勢いよく前のめりに地面に倒れこむ。その衝撃で俺の意識は途絶えた。


♢♢♢


 俺は後頭部に柔らかい感触を感じながら意識を取り戻した。

薄く目を開くと、幼さの抜けきっていない顔立ちの少女が、淡い茶色の髪を垂らしながら心配そうにこちらを覗き込んでいる。決して主張の強いとは言えない胸も相まって、実に愛らしいものだ。

膝枕の上での寝覚めは心地よいものであり、もう少しこの状態でいてもいいと感じる。

さて、もうひと眠りしますか。


「起きなさいよ!」


サリアの声が聞こえたと同時に額に強烈なチョップを食らって起き上がることになった。


「イタッ! なにすんだよ! せっかく人が気持ちよく寝ようとしてんのに!」

「目が覚めたくせに何また寝ようとしてんのよ。こっちは一人ダンジョンに残されて大変だったんだから!」

「あ……そうだった。すまん」


そういえば、俺はサリアを置き去りにしてダンジョンから出て来たのだった。

俺はもう一つ重要なことを思い出した。俺に噛みついてきたやつのことだ。


「サリア、俺に噛みついてきたやつがどこに行ったか知らないか?」

「それはあたしなんです」


俺の顔を覗き込んでいた少女が申し訳なさそうに言う。


「あたしは、パルメラといいます」


このパルメラという子が噛みついてきたのか?にわかには信じがたいが、何か事情があるのかもしれない。


「俺はイツキだ。どうしていきなり噛みついてきたんだ?」

「実はあたし、吸血鬼でして、血が欲しくなると狂暴になってしまうんです。迷惑をかけてしまってすみませんでした」

「それは仕方ないよな。そんなに気に病まないでくれ」

「んんん?なんだかイツキ、ずいぶんパルメラに甘い気がするんだけど」


サリアが余計なことを言ってくるが、気にしないでおこう。

俺は噛まれた首筋に手を当てる。小さな点状の傷が二つある。しかし、これができた時に痛みがなかったのはなぜなのだろうか。


「噛むときに魔法をかけていて、相手に痛みを感じさせないんです。その傷もすぐに消えますよ」


パルメラは俺の考えていることを察したのか、聞く前に答えてくれた。


「へぇ、相手のこともちゃんと考えてるんだな」

「痛みを感じて激しく暴れられると困るので」


意外と合理的な理由であった。


「パルメラがダンジョンの中にいたのにも何か理由があるのか?」

「あたし、ひと月ほど前に、世の中を知るために家を出て、旅を始めたんです。それで、数日前にこの近くの街まで辿り着きました。人の血が欲しかったんですが、さすがに人を襲うことはできないので、ダンジョンの中にいるモンスターの生命エネルギ―を吸っていたんです。」

「モンスターの生命エネルギーも吸えるのか?」

「はい。でも、人の血に比べると、圧倒的にまずいんです」


パルメラが苦虫を嚙み潰したような顔をしている。よほどまずいのだろう。


「それでストレスがたまって、血を求めてこの辺りを通る人に襲いかかった夜もありました」


ダンジョンの中で『血をよこせ』と言っていたのを聞いて、何となくは分かっていたが、やはり最近この辺りで人を追いかけまわしていたのはパルメラだったのか。


「でも、これからはそんなことしなくていいんですよね?」


パルメラが期待に満ちたまなざしで俺の顔を見てくる。なぜそんなことを思ったんだ?誰か血をくれる人が見つかったのだろうか?

サリアの方に目を向けると、サリアは意地の悪そうな笑みを浮かべて俺に指をさしている。


「サリアから、イツキがいくらでも血を吸わせてくれるって聞きました!」


サリアめ、ダンジョンに置いて行ったお返しとばかりにパルメラに変なことを吹き込みやがったな。

冗談じゃない。何度も何度も血を吸われていては俺の命が持たない。パルメラには悪いが、断らせてもらおう。


「ダメですか?」


パルメラが目を潤ませながら上目遣いでこちらを見てくる。


「喜んで!」


口が勝手に動いてしまった。


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