刺客ですね。定番ですね
前回が短かった分、今回は少し長目です。
あの後を簡単に説明すると、気絶した騎士団長やら未だ床に転がっているガルレイドの横を通り、王様にもう一度近づきアーデルハルト解放について一筆書いてもらう。
偽造じゃないよって証の為、印も押してもらう。私が手元から印を出した時は驚きこそすれ、何も言われなかった。既に色々諦めたのかもしれない。印を押してもらい、そのまま印を王様の手元に戻してあげる。
もうここに用はないから、お邪魔しましたーって軽くお辞儀してアーデルハルトと一緒にその場を離れた。来た時と同じ空間移動する際、なんだか足下が煩かった気もしたけどそんなの気にしない。
そして今は宿の私の部屋。改めてアーデルハルトの顔を見ると先ほどと同じように色々吹っ切れた?みたいな表情をしていた。理由はわかっているから、良かったねと笑い掛けたら、あぁと穏やかな笑みを浮かべた。
その笑みは彼によく似合っていて、それが本来の性格なのかもしれないと思った。
私は特に片付ける荷物もないので、そのまま部屋から出て普通にチェックアウトして宿を後にした。
国から出るべく関所へ向かい、何事もなく到着する。恐らく私たちを消そうと刺客が向けられているはず。あれだけ脅は……交渉したけど、消せるものなら消したいはずだし。失敗しても自分たちは無関係を貫けば良いだけだしね。
アーデルハルトも分かっているのか、今後のこととか聞きたいこともあるだろうけど黙って私についてきてくれた。
関所には大きく頑丈そうな鉄の扉があり、扉の前には三人の兵がいた。彼らはアーデルハルトの姿を視野に入れると目に見えて慌て出す。私はもちろんそれに真面目に付き合う気はない。
「国から出発します。扉を開けてください」
「あ、その」
手前にいた一番若そうな男に声を掛ける。男はまだ状況の整理が出来ていないらしく、あたふたと私とアーデルハルトを交互に見ている。
「あんたは構わないが、後ろの男は確認が必要だ。すぐに通すことは出来ない」
そこにこの中で一番年長者であろう男が、若い男の前に出て来る。その内容も想定内だ。
何のために王様に一筆書いてもらったと思っている。
私はニッコリと笑って鞄から一枚の紙を取り出し、男の前に広げて見せる。
「?……これはっ!」
「そういうことだから、確認は必要なし。……扉、開けてくれますよね?」
「……扉を開けろ」
男は後ろに控えていた二人に扉を開けるよう命じる。後ろの二人はまだアーデルハルトを見て疑う様子もあったが、恐らくこの中では上官であろう男の命に従い扉を開ける為、動き出す。
少しして扉がゆっくりと開き、目の前には私がこの世界に来て見た景色と同じような景色が広がっていた。
「どーも」
「……」
私が形だけお礼を言うと男は睨むように私を、というよりアーデルハルトを見ているだけで何も返すことはなかった。
そして、私たちは国から出た。
「こーなるとは思ってたけど、ね!」
キィンと金属同士がぶつかる音が痩せた森に響く。
私は武器を持たずに体術で対処してるから、音の発信源は私の方ではない。
アーデルハルトは大きな剣を振り回し、そうなれば動きが緩慢になりそうだが、そんなことはなく軽々と大剣を扱い刺客を倒していく。
相手は私たちを囲むようにして、これまた定番といった頭から足先までを黒一色で覆った刺客二十人ほどが短剣やらで狙ってくる。
私も蹴って、殴って、蹴って、蹴って刺客を倒していく。
数分後には動いてるのは私たちだけになった。
「というか大剣って。私のイメージでは、あの騎士団長が持ってるみたいな剣だったんだけど」
「ああいった剣も扱えるが、一番は大剣だな。これが一番手に馴染む」
そう言ってアーデルハルトは身の丈ほどある大剣をブンブンと風を切るように振り回す。
おーすごいすごい。色々武器準備しといて良かった!
武器も創ったのかって?いーえ、武器は購入しましたよ。ちゃんと武具屋で!創っても良かったんだけど、武具や防具なんかは購入したいかなって。武器屋で剣買うとか冒険っぽいじゃない!
私はアーデルハルトを見つけた時に、既に仲間にすることは確定していたから彼の身請け金用にと集めたのと別のお金で武具も購入していたのです!
彼を仲間にした後だとゆっくり買い物は出来ないと思ってたからね。
アーデルハルトはひとしきり大剣を振り回して感覚を思い出したのか、鞘に戻そうとしていた。
あ、すっかり忘れてた!
「ちょっと待って!」
「は?」
「まだ剣を構えてて。ちょっとそのまま!」
「?わかった」
アーデルハルトは素直に剣を構える。
私は右手でアーデルハルトの持つ剣の先から柄の部分までを撫でると同時に左手はアーデルハルトの体に向ける。アーデルハルトの腕を治した時と同じような淡い光が剣とアーデルハルトの全身を覆っていく。そして、一瞬強く光ったかと思うとすぐに光は消えた。
「レイナ?……っ?!」
アーデルハルトが怪訝な表情で私の名前を呼び視線をこちらに向けようとした時、その表情が驚愕に変わる。そして、剣と私を交互に見てくる。
あ、初めて名前呼び捨て!
名前呼びに感激しながらも、アーデルハルトの疑問に答えてあげる。
「剣自体は武器屋で売ってたミスリルの剣なんだけど、いくらミスリルでもその大きさじゃ重いでしょ?だから軽く、丈夫に、ついでに身体能力も少し上げてみました!ちょっとあの木、思いっきり切ってみて」
私が指差したのは近くにある大木。アーデルハルトは少し悩む様子もあったが、私の言う通り木に近づき大剣を大きく振りかざす。すると本来ならいくらミスリルの大剣とはいえ、簡単に切り倒されることのない大木があっさりと切られ、大きな音と共に倒れる。
「……凄いな」
「私の力の一部を渡したからね。女神の加護ってことだねー」
「女神の加護……」
「元々アーデルハルトは強かったし、闘技場で色々戦ってたから戦闘能力も上がってるんだけどね。私と一緒に行くからには普通の人じゃ付いてくるの難しいかもしれないからね。面倒事にも突っ込んでいくと思うし。私も守るけど万が一があるし。それに……」
「それに?」
「……仲間になる人は簡単に死なれちゃ困るのよ。使い捨てみたいな仲間はいらないの。私とずっと一緒にいてくれる仲間じゃなきゃ」
「仲間……か」
そう、簡単に死んでしまう仲間なんていらない。どうせ旅をするなら最後まで一緒にいたい。この体がどれ位保つのか今の私には分からないけど。
私の思いがどれ位伝わったか分からない。アーデルハルトは何とも形容しがたい顔をしたかと思うと、すぐに真剣な表情になり私から視線を外し剣を振るったり、体を動かす。
その動きは先程と比べると数段上がっている。大剣を持っているはずだが、それはダガーナイフでも持っているように機敏に細かな動きで宙を切っていく。しかし、その威力は大きく一降りする度に風が起こり、周りの木々の枝を揺らしている。
徐々に力に慣れ自身で制御出来てきたのか、力を渡す前の動きに近くなる。
まぁ、あの力で常時いたら切らなくて良いものまで切っちゃうからね。
アーデルハルトが動きを止め、今度こそ剣を鞘にしまうと私の方を向く。
「まだ少し時間は掛かりそうだが、使えそうだ」
「良かった」
私が本当に良かったと思って安心した顔を向けると、アーデルハルトは眉根を寄せる。
どうしたの??
「俺にこんな力を簡単に渡していいのか?」
「良いに決まってるじゃない」
それでも、まだ納得いかないのかアーデルハルトの表情は変わらない。
「もし俺がこの力を持って逃げたり、この力で何か企んだりしたらどうするんだ?」
あーなるほど。
「ふふ」
「?」
私が思わず笑ってしまった理由が分からなかったのか、アーデルハルトは不思議そうな表情をしている。私が笑みを口元に残したままアーデルハルトをじっと見る。
あの国でもそうだったけど、本当に素直というか、優しいというか。
「本当にそうするなら私に言わないでしょ。それに、あなたはそんなことしない」
「……わからないぞ。人は自分に過ぎた力を手に入れると変わるからな」
「……もし、そうなった場合は力を返してもらうだけ。まぁ、それ相応の代償はもらうかもね。神を裏切るのだから」
当然でしょ?と言うとアーデルハルトは黙る。けれどアーデルハルトは私の言葉に恐怖するというより、納得したような顔をしている。
「とにかく、アーデルハルトが私と共にいる間は、その力はあなたのものよ。さぁ!この話は終わり。次の事を話しましょ!」
力のことが分かったんなら、次の事を話さないと時間が勿体ない!
私からやや強引に話を終えるが、アーデルハルトもこの話はもう良いのか頷く。
さぁ、これから二人旅!
なんだか冒険っぽくなってきた!!
やっと国から脱出(?)出来ました!
これから、冒険も本番ですww