初めまして、神様です
やっと彼が話します。
彼と話したい、けど他の者は邪魔だな。
言って素直に部屋を出て行ってくれるとも限らないし……やっぱりここは。
案の定、二人になりたいと言った私に渋る男だったが、私が鞄から白金貨を一枚取り出し男に渡すと「まぁ、少しなら」と言って屈強な男を引き連れて出て行く。
奴隷の価値は幅広だが、人間は安ければ金貨一枚、高くても白金貨一枚しない位で買えることを考えれば既に大分良い奴隷二人分買っただけの金額を払っていることになる。たかが二人で会うだけで白金貨二枚。男はボロ儲けというわけだ。
彼は二人になったが、その場から動かないし何も言わない。
わかっちゃいたけどね。
「まぁ、立ち話もなんだし座ったら?」
「………」
私が座っているソファと反対側のソファを指さして彼に声を掛ける。しかし、彼はそれに従う素振りもなければ、話す様子もない。完全に無反応。
「はぁ……。あなたがそれで良いならこのまま話しを進めるけど。……率直に言うとあなた私と一緒に来ない?」
ぴくっと肩が揺れ私に視線を向ける。私を見ると彼の体に力が入るのが分かった。といっても普通の人ならわからない程度の本当に些細な動きだけ。
だが彼はそれだけで、じっと私を見たまま話すことはない。疑っていることがわかっているので、私はそのまま話を進める。
「あなた、今のままでいい……なんて考えてないでしょ?でも、その首輪もあるから勝手なことはできない。あなたの場合はここから逃げるっていうより、死を選ぶって感じがするけど。それも出来ない。んーでも魔獣とかに負けずに勝つってことは、やっぱり生きてここから出たいのかしら?そうだとしたら―――」
「魔獣を倒すのは生きたいからじゃない」
初めて彼が言葉を発する。想像していたよりも凜として通る良い声だ。
「じゃぁ、なぜ?」
私はある程度理由を知っているけど、あえて彼に聞いた。
「……簡単なことだ。もし俺が魔獣に負けたとしても殺されることはない」
彼はさっき私の言葉を遮ってまで言ってしまった言葉を一瞬後悔するような感じも見られたけど、言ってしまったことを取り消すことは出来ないと、覚悟を決めたのか私の質問にも答えてくれる。
私が無言で続きを促すと、私に言っても関係ないと思ったのか、言っても無駄だと思ったのかはわからないが話を続ける。
「俺が闘技場の戦いで死ぬことはない。その証拠にこの左腕を失った時、俺は確かに死を覚悟した。だが、勝負は俺の負けで止められ、適切な処置もされた。痛みだけはあったが、人間痛みだけでは死ぬことはできない。その後も何度か重症を負ったが、その度に治療される。何度目かで治療した奴に言われたのは、ある人がお前を簡単に殺すなと言ったということだ。……俺は簡単に死ぬことは出来ない。死なないのだったら無駄に痛い思いをしたいとは思わない、だから倒しているだけだ」
「生きてここを出られる。私と一緒に行きましょう」
「俺を連れて行けばお前が命を狙われる。止めた方が良い」
私からの提案に即座に否定する。彼は諦めたように言うが、つまり自分のことで他の人が傷つけられるのが嫌ってことね。
オーケーオーケー、全く問題なし!
「あなた、名前は?」
「……人の話を聞いているのか。俺に構うなと「名前は?」
「……アーデルハルト」
「私はレイナよ。よろしくってことでちょっとこっちに移動してくれない?」
「?」
私は立ち上がり有無を言わせず彼の右手を取り、握手を交わしそのまま腕を引いて扉と反対側の机の前まで移動する。
理由は簡単。私がこちらに向かってきている十数人の気配を感じて、間合いを取っただけのこと。この部屋まで少し距離があるせいかアーデルハルトはまだ気づいていない。
私が右手を引いたって事もあるけど、彼は疑問に思いながらも私の指示通りに動いてくれた。
良い子良い子!素直な子は好きですよ!
と、にこにことアーデルハルトを見上げていると乱暴に扉を開けられる。というより、殆ど壊される勢いだ。
入ってきたのは筋骨隆々な男が十三人。一気に部屋が暑苦しくなる。
うっ、筋肉は好きだけど、あくまで細身な男性に限られます!こんな筋肉の塊は望んでいません!!
男達はあっという間に私たちを囲うように半円に広がる。私たちのすぐ後ろは机になっているから簡単には逃げられない構図。そして、先頭のおそらくリーダーらしき男が口を開く。
「大人しく「気持ちが悪い」ぐえっ!!」
私は男が発するがらがらな声を聞きたくなくて、問答無用で蹴り倒す。
あれ、一撃とかどんだけ弱いの?この間倒した大きい蛇の魔獣の方がもう少し骨があったよ。
私は呆気にとられている周りの男達を次々になぎ倒していく。狭い部屋なので対術オンリー。男達がまずいと気がついた時には半数の男が床に伸びている。
男達は手に持った剣を構え私に襲いかかるが……。
「狭い部屋で危ないでしょーが!」
「がっ!」
私は剣を足で床に押さえつけ、そのまま剣を持っていた男を反対の足で蹴り上げる。残りの男達も同様に倒していく。男達はうめき声さえ殆ど出すヒマ無く床に伸びっていった。
「……ふぅ」
私は最後の男を倒して一息つく。
かいてもいない汗を拭う動作をして、後ろを振り返るとアーデルハルトは髪で殆ど見えないけど呆気にとられた表情をしていた。
「君はいったい……」
お、お決まりの台詞来た!
なんて返すか……「名乗るほどでも」ってさっき名乗ってるし。
「普通の人間ですよ」って普通の人間はこんな簡単に人を倒さないか。
…………
「私、実は神様なんだよね」
はい、考えるの面倒になったので、正直に言うことにしましたー。
「………え、は?」
うん、困ってるねーというかどう反応して良いのか分からないって感じ?
「信じられないのは分かるよ。っていうか、そんな簡単に信じられたら逆にびっくりだから。なので、証拠になるか分からないけど、これから私が色々やってくから見てれば分かると思う」
アーデルハルトはまだ状況について行けない様子だったが、なんとか平静を保とうと努力している。
手始めに彼の今後というか、私たちの今後について話しときますか。っと、その前にここにずっといると面倒だから、移動しよう。
決してむさ苦しい男達が伸びている部屋が嫌だからじゃないよ。男臭いとか、目に入って嫌だとかそんな理由じゃ決して無い。
「はい、じゃ移動しよっか。目閉じてね-」
「え、移動って……」
「空間移動するから普通の人は気分悪くするからね。ほら、目を閉じる!」
言いたいことは沢山あったと思う。でも、それも含めて場所を移動してから。
とりあえず、私がとった宿まで移動!
アクションの表現は、苦手です……
上手く書けるようになりたい(つд;*)