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あなたは神様ですか?

早くと言いつつ二ヶ月空いてしまいました。

良ければ読んで下さい。

あれから三日経つ。それまで一度も目が覚めないあの子に少し不安になる。体の傷も治し、食事が食べられない分は魔法で少しずつ栄養を体に送り込んだ。その為、初めて見た時に比べ顔色もよくなった。

その間アルは砂漠に出ては魔獣を相手に体を動かし、私は砂漠を見て回る。私たちがいる場所が丁度砂漠の真ん中に位置する場所だった為、南へ北へと足を伸ばした。

わかったのは海に面した地は砂ではなく土があり、多少の草木が育っていたこと。私たちがこの大陸に上陸した場所とは異なり、砂漠が広がるこの地の海沿いは殆どが切り立った崖となっており、海から上陸することは困難なこと。そして草木が育っている場所には多くはないが獣人や人が住んでいること。

相手は気づいていないと思うが、ちらっと見かけたその姿は簡素な衣類を身に纏ってはいるが、鍛え上げられた体をしていた。逆に今にも倒れそうな者も少なからずいたけど。

この大陸の大国「ミラン」と反対に位置するその地域。崖と砂漠に守られおそらく、なかなか人は手が出ない場所なんじゃないだろうか。だとすれば、あそこにいるのは……。



どさっと何かが落ちる音が聞こえる。ソファに座っていた私と椅子に座っていたアルはほぼ同時にそちらに顔を向ける。音が聞こえたのは、あの子が寝ている部屋。

急ぎたくなる思いを抑えて、ゆっくり脅かさないように部屋へ向かう。扉を開けるとベッドから落ちたのか床に座り込むあの子の姿が見えた。

扉の音が聞こえたのか、ビクッとこちらが驚くほど体全体を揺らす。私がゆっくり近づいていくと耳をピクッと動かし、体を私の方に向かせたと思った瞬間……土下座をした。


「……」


私は進めていた足を一旦止めた。


「も、申し訳ありません。申し訳ありません」


黙っている私に何を思ったのか、謝罪を繰り返す。頭を床に擦り付け、耳はへたり、尻尾は丸まっている。体は震えが止まらない。

これがこの子の日常なのかと思った。

私はまたゆっくり近づく。足音が近づく度に震えは大きくなる。

ごめんね、私は心の中で謝罪し後一歩という所で歩みを止め、しゃがみこむ。


「顔を上げて」

「っ!」


声にさえビクつき、恐る恐るといった様子で顔を上げる。目を閉じ我慢するような表情の中には、声の主が想像していた者と違う者であったことに対する戸惑いも見える。


「目を開けて」

「っ!でも……」


顔は上げたもののその子は目を開けることを何故か躊躇する。私がもう一度、目を開けるように伝えると再度顔を下げ、申し訳ありませんと謝罪する。命令に反したことを咎められるとでも思ったのか。


「大丈夫だから。お願い、顔を上げて目を見せて」

「は、はい。わかりました」


今後こそ顔を上げ、ゆっくり目を開く。


「……」


私は眉をひそめた。現れた瞳は、白く濁っていて焦点が合っていない。元が緑だったのか、まるで濁った沼のような色をしている。


「見えないの?」


改めて聞くまでもないけど、確認するように声を掛ける。小さな声で、はいと頷く。


「他には?」

「……え?」


目について何か言われると思ったのか、私の言葉にぽかんとして聞き返す。


「他に不自由な部分はないの?耳とか、鼻とか」

「あ、はい。……耳は、大丈夫、です。……鼻は、少し前からあまり臭いを感じなく、なりました。…あと、左足が、思うように……その、動きません」

「そう」


初めて見た時は表面上しか治していなかった為、その子の言葉を確認しながらその箇所を見ていく。


「触れても良い?」

「え?……はい」


私の言葉に困惑しながらも否定はしない。ゆっくりと手を伸ばし、両手で顔を包むように触れる。触れて瞬間に一際体をビクつかせ、目も閉じてしまう。気休めにもならないかもしれないが、大丈夫と声を掛け、私は先ほど言っていた箇所に優しく触れていく。

両目、鼻、体を撫でながら下ろし、左足。私が触れた場所が淡い光に包まれる。私は触れた時と同じようにゆっくり手を離す。


「目を開けて」

「?……っ!?」


目を開けるとそこには、エメラルドのような綺麗な緑色の瞳が現れる。

一瞬何が起こったか分からなかったようだけど、徐々にクリアになっているはずの視界や臭いに驚き、鼻をひくつかせながら辺りを見回し、次に自分の体を見て手で触れていく。指先や足、顔、耳。首に触れ、首輪がないことに驚き、目の前にいる私に視線を向ける。あ、あ、と声にならない声を出しながら、私を見つめる瞳からは次々に涙が零れてくる。


「綺麗な瞳……ちゃんと見える?臭いも感じる?足も違和感はない?」


私は目の前の子に向かってニコッと笑いかける。その子は私の言葉に何度も頷く。

ふふ、良かった。

初めに全部治してしまっても良かったけど、意識のない時にそれをしたら目を覚ました時に混乱してしまう。ただでさえ体に違和感を感じているはず。

私がニコニコと見ていると、それまで扉の前に立って動かなかったアルが呆れたように声を掛けてくる。


「いつまで床に座らせてるんだ?」

「あ、そうだった。立てる?」


私が立ち上がり声を掛けると、その子も涙を拭い立ち上がる。一瞬よろめくが、問題は無い様子。

こちらにどうぞとリビングへ案内する。

アルにソファに案内してもらい、私はお粥の準備をする。それほど時間の掛かるものでもない為、火に掛けた後アルの隣に座る。

一人がけのソファに座っているあの子は座り慣れないのか、どこか落ち着かない様子でもぞもぞと体を動かしている。

なんか癒やされるなぁ、まだ緊張してるみたいだけど、耳や尻尾を動かしてる感じが可愛い。


「……レイナ」

「何?」

「見過ぎだ」


アルの言葉に、いつの間にかその子が萎縮したように下を向いてしまっていることに気が付く。


「あ、ごめんね。なんか可愛くって」

「い、いえ」


私の言葉に下を向いたまま首を横に振って答えてくれる。少し見える頬が赤くなっていて可愛い。


「そういえば、名前もまだ聞いてなかったね。私はレイナ」

「アーデルハルトだ」

「わ、わたしは、カフィーです。あ、あの、助けていただき、ありがとうございました!」


カフィーは顔を上げて名前を言ったかと思えば、勢いよく頭を下げる。

私は微笑ましく思いながら、素直に今の気持ちを伝える。


「元気になってくれて良かった」

「……でも、わたし、お礼に差し上げる物がないんです」


カフィーは顔を上げたかと思うと、申し訳なさそうにして私たちを見る。


「いいっていいって、私が好きでやったんだから」

「でも……」


私の言葉に、それでもすまなそうにしているカフィーにアルが声を掛ける。


「レイナが助けたいと思って助けて、治したいと思って治した。自分は幸運だったと思えば良いんじゃないか」

「……」


アルの言葉にカフィーは少し考えるように視線を落とす。

私はチラッとアルに視線を移す。

自分は幸運だったと思えば良いとアルは言った。アルも私と出会った時、そう思ったのかな。

視線を落としていたカフィーが、ふと気づいたようにもう一度体や顔を触る。


「あ、あの!」


カフィーがバッと顔をこちらに向ける。何故か、目が輝いているように感じるのは、気のせいかな。


「どうしたの?」

「その、あの!」


先ほどまでとは違い少し興奮気味のカフィーに、驚きながらも次の言葉を待ってあげる。カフィーは意を決したように一度口を閉じ、そして開いた。


「あなた方は、神様ですか!?」

「え……」


カフィーの言葉に私は呆気にとられてまじまじと見てしまう。

いや、うん。そうなんだけど。まさかそっちから言ってくるとは。


「うん。まぁ、そうなんだけど」

「やっぱり!」


私の言葉に何故か嬉しそうなカフィーは頬を染めて少し前屈みになってこちらを見てくる。


「いや、俺は違うぞ」


アルが隣で少し呆れ気味に答える。

カフィーは視線を私からアルに移して不思議そうに首を傾げる。あ、と何か思いついたのかまた嬉しそうな表情をする。


「お供の方ですね!」

「……お供」


アルは何ともいえない顔をして私に視線を向ける。

あー確かに神様と一緒にいるなら、そうなるのかな。でも、今後どうなるか分からないけど、一応説明しとかないとね。


「一応簡単に説明するね。アルのことも、あなたのこれからのことも」


カフィーは黙って聞いてくれている。とりあえず、アルがお供ではなく仲間であることや私自身神ではあるけど、今はこの世界の住人となっていることを伝える。カフィーを見つけた力や回復させた力も神の力によるものであることも説明すると、また何度も頭を下げ感謝の意を示してくる。


「それでここからが本題とも言えるんだけど、カフィーあなたはこの後どうしたい?」

「わたし、は……」


言葉を詰まらせてしまうカフィーに、ごめんねと声を掛ける。


「実は初めにカフィーのこれまでを少し見させてもらったの。……帰る場所がないことも知ってる」

「……」


帰る場所がないという言葉にカフィーは膝に置いた手をギュッと握る。それを見ながら続ける。


「だから、カフィーがこうしたいっていうのがあれば私はそれが出来るように手伝ってあげたいと思う」

「……わたしは」


一度口を開くがまた閉じてしまう。

奴隷として過ごしてきて、いきなりこれからどうしたいなんてそんな未来考えられないのかもしれない。

丁度良くお粥が出来たことを鍋がカタカタと言って知らせてくれる。


「すぐに決められないなら、ゆっくり考えてみて。まずはご飯食べようか」

「……はい。ありがとうございます」


カフィーは見たことない食べ物に初め躊躇っていたが、一口食べるとそこからは一気に食べ終えてしまった。


「美味しかったです。ありがとうございました」

「良かった。これなら普通のご飯も食べられそうだね」



食後のお茶を出したが、すぐにカフィーが眠そうに目を擦り始める。私がさっきの部屋で寝るよう伝えると、自分は床で構わないとカフィーが部屋の端に移動しようとする。それを止め、カフィーの部屋だから使って欲しいと言うと驚き、次に申し訳なさそうにしながら、何度も私やアルの顔を見ながら先ほどの部屋へ入っていった。


まだまだカフィー編は続きます。

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