飽きたから
思うように話が進みません。頭ではもう大分先を行っているのに……。
「よし、次の大陸に行こう!」
「突然だな……いや、普段通りか」
わかってるね!アル!
カルフィアの村を出た私たちは森の中にいるわけだけど。
私のさっきの言葉は次の目的地について。正直、雪山も寂しい森も、ここら辺の森も見飽きた。アルに他に行きたい所はあるか聞いたけど、アル自身国からそんなに離れたこともなかったみたいで特にないとのこと。国から離れたことがない、つまりシルフィから出たことがないということ。
だったら、もうここは別の大陸向かうしかないでしょ!
「ほら、それにここからだったら次の大陸に渡る船がある港まで近いって宿の人が言ってたし」
「いつの間にそんな話聞いたんだ?」
ふふん!情報は常に手に入れとかないとね!
「俺は良いが、レイナは本当に良いのか?この大陸だってあの国と村くらいしか見てないが?」
「あぁ、良いの良いの。それにまた行きたくなったら来ればいいし」
「そんな簡単に行き来できるほど……いや、出来るのか」
そうそう!普通に戻っても良いし、なんなら文字通り飛んで戻ったって良いし。
方法なんていくらでもある。
アルも別の大陸に行くことに特に異論はないみたいだし、さっさと港に行きますか!
港のある町は村からそれほど離れていない。道もある程度整備されていたし、加えて越えなければいけない山もそれほどなかった為、ゆっくり歩いても三日も掛からないで着いた。途中野党なんかにも襲われたけど、それは、ね。
町はシルフィで最も南に位置しており、港町ともあって人も町も活気に溢れている。ここフィラーラから、隣の大陸デスタールまでの船が出ている。
船を作ったり、飛んでいくのも出来るけど、やっぱりそれじゃ面白くないからね!
港に行けば大きな船が何隻もあり、その中でデスタール行きの船をす。大きな船の中でも特に立派な船がそうで、出航時間を聞けば丁度出発するところだったとのこと。
考えるまでもなく、私たちはその船に乗り込んだ。
「船に乗るのは初めてだな」
「あ、私も。楽しみ!」
でも、すぐにその思いは消えた。
うぅ、まさか船酔いするなんて。
そういえば、人間の時に船に乗ったことなかったな……三半規管弱かったのかなぁ、私って。
え、乗り物酔いする神様って格好悪い。
とりあえず、魔法掛けて……ふぅ、スッキリ。次から船とか乗り物に乗る時は事前に魔法掛けとこ。
っていうか、本当になんで神なのに船酔いするかな。
船が港を出港してすぐに襲ってきた言い様のない気持ちの悪さ。
まさかと思った時にはぐったりでした。
船自体にも魔法が掛けられている為、大きな揺れこそないもののゆっくり揺られる感じは、私にとってはあまり気持ちの良いものではなかったみたい。
アルは船が初めてと言っていたが、全く平気な様子。体を鍛えるとそういった部分も強くなるのかと考えてしまう。
「船だとデスタールまで十四日位だってね」
「あぁ。ゆっくり出来るんじゃないか?……何もなければ」
アルの何もなければは、私がまたつまらないとか飽きたとか言って何かやらかさないかってことも含んでると思う。
そこまではしないよ!……多分。
とりあえずは飽きるまで海を見て、その後は船の中を見て回ってその日は終わる。
部屋はギリギリだったこともあり、一部屋しか取れなかった。
一部屋で一緒に寝るのはさすがの私もちょっとと思ったので、部屋に入る前に魔法を掛ける。扉を開ければ、よく見るリビング他に扉が四つ。船の一室とは思えない空間が広がる。
「いつも通りだな」
「良いじゃない。それに窓はそのままにしてあるから、部屋の窓からは海が見えるよ」
荷物らしい荷物もないけど、とりあえず着替えたり汗を流したりして部屋を後にする。
夕食はせっかくなので、船の中で頂くことにする。
やっぱりというか、魚料理が中心だった。でも以外に肉や野菜料理も結構あって、聞けば港町で他の大陸との交易も盛んな為、このように揃えることが出来るのだという。
さすが港町と思いながら、次に行く大陸の情報を集める。
「……なんか、嫌な話しか聞かなかった気がする」
私は部屋に戻った後、リビングにあるソファに座り背もたれに寄りかかる。
別のソファに座るアルも苦笑いしてるけど、どっちかといえば私よりアルの方が気になるんじゃないかなって思う。
『デスタール』
その大陸の半分以上が砂漠となっている。神に見放された大陸(いや、見放してないけど)
貧富の差は大きく、奴隷の数も他の大陸に比べ抜き出て多い。特に獣人が多いとのこと。
砂漠から珍しい鉱石が見つかることがあり、それを探す為に獣人の奴隷が重宝されるとか。
でも、灼熱の砂漠で体力、精神的にやられ倒れたり身体機能を失う者も多く、使い捨てが一般的だとか。ちなみに砂漠で見つかる鉱石は神の落とし物言われるらしい。(落としてないし)
あー、うん。もうね、いや最初からね、嫌な感じはあったんだよ。
でもさぁ、使い捨てってなに?機能を失う?あーもう、ないわー。うん。なんか行く前から嫌いになりかねないわ。
確かあの大陸元々は砂漠じゃなくて、普通の本当に普通の少し他より暖かい大陸だったはず。いや、まぁそれいっちゃシルフィもあそこまで雪雪させてなかったけど。
気候なんかも徐々に変わって、一番南にあった大陸だから徐々に砂漠になっていったんだと思う。そんで、その名残的な感じで元々山にあった鉱物が砂漠に紛れていると、そういう感じかな。
やっぱり、ちょくちょく見てかないと駄目だね。
「アルは?なんか聞いた?」
「いや、俺が聞いたのもレイナが聞いたのとそれ程変わらない」
「そっかぁ」
「……でも一つだけ気になることを聞いたな」
「何?」
アルの気になることとは一体何なのか。様子からしてこれ以上私を不快にさせるものではないようだけど。
「なんでも数年前から反奴隷組織が出来て、砂漠に来る奴隷を連れた人を襲い、奴隷を解放しているとか」
「……へぇ」
「中でも人の三倍はある大きな悪魔が強く並の傭兵では傷一つ付けられないらしい」
「人の三倍って……どんだけ。しかも悪魔って何?」
「まぁ、噂だから脚色されてる部分もあるんだろ。悪魔についてはよく分からない。人によっては大きな熊だとか虎だとか龍だとか」
どれもはっきりしないけど、噂なんてそんなものかと思う。
とにかく船酔いも解決したし、大陸に着くまではゆっくり過ごそう。
多分大陸につけば、嫌でも目にしなきゃいけないものが多くあるだろうから。
ひとまず別の大陸目指します。