頂く物は頂いていきます
ゆっくり進んでいきます。
私たちは残っていたサンリアを四本鞄にしまい、来た時と同じように戻っていく。
出発した時に比べ、辺りは暗くなっていたが店先では魔法の明かりが灯り食事や酒を楽しむ人で賑わっている。私たちはそのまま村長の家へと向かうことにした。
「……これは」
通されたのは成金かって感じの趣味の悪い部屋。
村長は私が鞄から取り出したサンリアを見て驚いた表情をしている。
依頼出した日の内に終わらせてくるなんて、さすがに思わないか。
村長はサンリアを手に取り本物だと確認し、やっと落ち着いたようだった。
「いや、まさかこれほど早くとは……。驚きました」
「いえ、あの後すぐに動きだし、そして運が良かっただけですよ」
とりあえず謙遜しながら答える。
方法などは気にしないのか村長は話しもそこそこに報酬について話し出す。
「では、報酬についてですが、取り返していただいた内半分を報酬としてお渡しする。それで間違いありませんな」
「……えぇ」
私が返事をすると笑みを浮かべたままで村長はテーブルに乗っていた四本の内の二本を私たちの前に出してくる。
え、本当にこれだけ?
いやいや、まさか、さすがにさぁ。と思ってサンリアを受け取らず村長を見るが、笑みを浮かべたまま、私たちを見ている。
確かに私たちはそこまで疲れてもいないし、怪我もないけど……。
村長の態度に私は確信した。村長はわかっていたと。
四本という的確な数字は分からないまでにしても、残りがわずかなのはわかっていた。だから、報酬も半分と的確な数字は出さなかった。
そっちがそういうなら、こっちも考えがある。
「……村長さん、確かこちらのお酒一本銀貨三枚でしたよね?」
「えぇ、そうですが」
だから、どうしたといった様子の村長に私はにこっと笑って続ける。
「さすがに賊を退治し、サンリアを取り戻した報酬が酒二本というのは、いかがなものでしょう」
「……私は最初に奪い返したサンリアの半分を報酬にすると言いました。特に本数までは決めていなかったはず。それにサンリアが大量にあった時は銀貨三枚としていましたが、今売れる物はここにある四本だけ、それだけで価格は倍以上。その二本を渡すのです。こちらのことも考えていただきたいものですな」
村長は、私が残りの二本も欲しいと言っているように聞こえたのか、暗に渡さねぇぞと言ってくるが、二本増えたところで別にどうでもいい。飲む分としては四本もあれば十分だけど、それじゃこのこすい村長に一泡吹かせてやることができない。
「えぇ、分かっています。私は別に残りの二本も頂きたいと言うわけではないんです。……確かに今売れるサンリアは四本だけですが、現在作り途中の物はあるんですよね?」
私の言葉に村長は少し驚いた表情をした後、ニヤリと笑うがすぐに表情を戻す。私が言いたいことが分かったらしい。
「えぇ、ございますとも。ですが今あるサンリアは後一年は寝かせなければなりません。しかもただ置いておくだけではなく、この村の貯蔵庫でなければ難しいと思いますが?持っていくだけでは、価値のないものになってしまうかと。……それでも良いと言うなら、そちらを好きなだけ報酬としてお渡しましょう」
村長は私が諦めないと見たのか、そう提案してくる。
サンリアのことも私はもちろん承知済み。気候や湿度なんか色々なことが関係していることはお店の人から聞いてる。
だから私は笑顔でこう言った。
「えぇ、そちらで構いません」
翌日、再度村長の家に行き、その後貯蔵庫まで案内してもらう。
村長宅へ向かう途中、賊が既に退治されたことは噂になっていた。そして村長と並んで歩く私たちを見て、彼らが?と驚いた様子で話しているのが聞こえた。
貯蔵庫は自然の山を切り崩して作ったようで、中に入るとひんやりしている。
棚がいくつも並んでおり、所狭しとサンリアが並んでいる。
私とアルは持ち込まれた手押し車にサンリアを乗せていく。鞄に入れても良かったんだけど、村長がこれでなければと強く言うので、仕方なく乗せていく。
それをニヤニヤと見ている村長。
まぁ、理由は分かってるけどね。
私たちが貯蔵庫にある半分ほどを手押し車に乗せたのには、少しいや大分顔をしかめていたけど。
サンリアを乗せ終わった私たちは、それを押して洞窟を出ようとした時、村長があたかも今思い出したというように、あぁ!と大げさに声を出す。
「一つ大事な事を言い忘れておりました。サンリアはとても繊細な物でして、この完成前にこの洞窟から出すと忽ち劣化してしまうのです」
村長は手押し車に乗せていた一つを手に持ち、洞窟の外にサンリアを出す。すると、それまで赤かったサンリアが茶色く変色してしまった。
「これでも、まだ報酬として欲しいですかな。まぁ、これ以外の報酬の話は出ていませんがね」
ニヤニヤと堪えられないように笑みを浮かべる村長。
それも承知の上だって。
村長は気付いていないけど、サンリアを手押し車に乗せた後その周りに魔法を掛けていた。
だから私たちはそのまま手押し車を押していく。
それにはさすがに村長も驚き慌てて手押し車の前に出てくる。
「い、今の見ましたか?今出せば全てこれと同じ状態になってしまいますぞ!売ることはおろか飲むことも出来なくなってしまう!この洞窟と同じ状態でなければっ!」
「えぇ、わかっていますよ。さっき洞窟と同じ状態になるように魔法を掛けましたから」
「……は?」
アルが村長を横に退け、私はそのまま手押し車を押して洞窟を出る。
サンリアは……変わらなかった。
「なっ!?馬鹿な!!」
私が掛けたのは、湿度、気温、気候その他全てをこの洞窟と同じ状態で保つ魔法。
似たような魔法で気温を保たせたりといったものはあるかもしれないけど、私は全てをコピーしたからサンリアは洞窟に置かれている物と同じ状態。もちろん洞窟を出たからといって劣化したりしない。
「報酬、頂いていきますね」
私は村長にそう言って手押し車からサンリアを鞄の中に全てしまった。
「これ以外の報酬の話は出ていませんし、ね。……それじゃ、さようなら」
項垂れている村長を一瞥して、アルと一緒に歩き出す。
一つ思い出して、私は足を止める。
「あ、賊は後で処理しといて下さいね。洞窟で眠ってますから。多分後数日は寝てると思うんで」
言いたいことを言い切って、今度こそその場を離れる。
大事な事こそ、けちっちゃ駄目だよねぇ。
ざまぁ……?