サクッといきましょう
賊さんの登場です。
日が沈みかけうっすらと月が見え始める。昼間見た村とはまた違った雰囲気を感じる。
早めの夕食を宿で食べた後、私たちは村の外れに移動する。森に囲まれた村の為、村の外れというより、ほぼ森といった方が正しいかもしれない。
周りに人の気配がないのを確かめ、私たちは賊のいるアジトまで移動する。
時間にすれば数分、距離にすれば二十㎞ほどの場所にアジトはあった。洞窟を利用したアジトのようで、入り口は目の前にある場所だけであることを魔法で確認する。入り口には男が二人、そして近くに大きい熊の魔獣が丸まっている。
私は隣にいるアルを見る。二十㎞を数分で走り抜けたけど、疲れた様子は見られない。
力も十分使えているみたいで良かった。
洞窟までは数十m。気配だけではなく臭いなども消した為、さすがの魔獣もまだ私たちには気づいていない。
「アルは魔獣の方をお願いね。終わったら中に入ってきて」
「わかった」
「さぁ、サクッと行きますか」
作戦とも言えない作戦を伝えた後、私たちはすぐに実行に移した。
私は音をたてずに見張りの後ろに移動し、首に手を当て電流を流す。男がガァッ!!と短い声を上げたことでもう一人が気づく。すかさずもう一人の後ろに回り同様に首に電流を流す。二人とも気絶した所で、縄を取り出しぐるぐる巻きに。
見ればアルは熊の魔獣と戦っている。見た目だけではなく、戦闘用としても調教していたのか、動きが巨体の割に素早い。
そういえば私が闘技場でアルを初めて見た時も同じような熊の魔獣と戦っていたなと思う。
あの時に比べれば、遥かに動きが軽やかだけど。
煩くされて中に気づかれるのも面倒だったから、先に魔獣の方に音が漏れないよう魔法を使っている。
もうすぐアルの方も決着は付きそうだけど、待ってるのもあれだから先に中に入ることにする。
中は薄暗いかと思えば、所々に魔法で光を灯してあり明るく周りの様子がよく分かる。入ってすぐに洞窟は三つに分かれている。魔法で確認すれば右は更に先で細かく分かれており主に賊が寝泊まりする場所のようだった。真ん中は右と同じように先で分かれているが、奥に他より広い場所がありおそらくそこがリーダー格の部屋だろう。最後に左の通路は奥に貯蔵庫のような場所がある。盗まれた酒が保管されているみたい。
詳思を確認すると。
「……え」
いや、え、まさか。
私はもう一度確認しようとしたが、正に確認していた通路の奥からこちらに向かってくる人の気配がする。確認を一時中断し、通路の横で待ち伏せると、すぐに男二人が通路から出てくる。相手も私に気づいたようだけど、遅い。
問答無用で手刀を首に落とす。今度は声も出なかった。
最初からこっちにすれば良かった。
男二人の首元を持ち、引きずって奥へ進む。見えてくるのは適当に置かれた木箱。中を確認すると
「……マジかぁ。……これ分かってた、とかないよねぇ」
とりあえず、気絶している男二人は見張りと同じく縄でぐるぐる巻きにして、放置。
来た道を戻り右の通路に入る。今度は通路に入る前に音が漏れないように魔法を掛ける。後は、隠れることもせず出会す奴を片っ端から叩いていく。
文字通り叩きまくり、数分後には私以外立っている者はいない状態。
と、そこに後ろから近づいてくる気配があり、振り返る。
「あ、お疲れ」
「あぁ」
そこには特に怪我をした様子はない、来た時と同じ姿のアルが立っていた。
「時間掛かった?」
「いや、レイナが洞窟に入って少しして倒したんだが……俺のやることはまだあるか?」
アルは周りの死屍累々(死んでないよ)を見ながら私に尋ねてくる。
半分以上は終わっちゃってるけど、メイン?が残ってるからね。
「あるよー。まだボス倒してないからね」
「そうか」
「あ、そういえば、サンリアなんだけど」
私が先ほど見た物を伝えようとした時、洞窟の入り口の方が騒がしくなる。
あ、もう見つかっちゃったか。
多分先ほどの貯蔵庫に置いてきた二人だと思う。おそらくさっき出てきたのは見張りの交代だったのかもしれない。
「後で伝える……っていうか、見れば分かると思う」
「わかった」
アルと私は来た道を戻っていく。
何人かと鉢合わせになり蹴り倒す。洞窟の入り口に戻り、最後の通路に入る。
既に侵入者のことは全体に伝わっているようで、出てくる出てくる。といっても少人数の賊の為、それも終わり、時間も掛からず奥の部屋に辿り着く。
「おめぇら、何も「はい、ごめんなさいねー」ゴフッ!」
たぶんボスっぽい人を蹴り倒す。周りにいた他の賊はアルが倒してくれたので、一瞬で終わる。
「よし、終わった!」
「本当にサクッと終わったな」
賊を縄でぐるぐる……は一々面倒なので、道を戻りながら眠りの魔法を洞窟全体に掛けていく。
「これでよし!」
「…………最初からこれで良かったんじゃないか?」
洞窟の別れ道まで戻ってきた所で、私が満足げに言うと隣にいたアルがそう呟いた。けど、無視!
だって、それじゃつまんないし!アルだって魔獣以外の人を相手にして、力の加減も分かっただろうし良いじゃん!良いじゃん!
アルも私の返事を最初から求めていなかったのか、特に突っ込んではこない。
「そういえば、サンリアがどうとか言ってなかったか?」
アルの言葉に私も思い出す。
「あ、そうそう。とりあえず見てくれる?」
左の通路に進み貯蔵庫へ到着する。
アルは私がさっき開けた木箱の中身を見て驚く。
「レイナ、これは……」
「そうなの」
私もアルの隣に立って中を覗く。そこには……
「見ての通り……空っぽなの」
木箱には何も入っていなかった。正確には殆どの木箱が空になっているというのが正しい。
私が最初に探知で確認したのが、コレ。十数個の木箱の中身は殆どが空で、目的のサンリアは合計四本しかなかった。
一応確認で木箱を開けていくけど結果は同じ。出てきたのは四本だけ。
報酬は『奪い返したサンリアの半分』つまり、二本。
これ、私たちだから別に怪我とかないけど、普通にやったら報酬酒二本ってないよ!?
店で見た価格に上乗せしたとしても、これはない。
あの村長これ知ってて報酬にしたとか言わないよね?
見ればアルも心なしか少し残念そうな様子が見られる。
これはちょっと村長の態度次第で、考えないとかなぁ……。
賊の台詞の少なさに、改めてビックリしました(^_^;)