■ 後 編
『ねぇねぇ~、スミレちゃ~ん・・・
ここの男子3人の中で、一番いいなって思うの、だ~れ~ぇ??』
ミサキはニヤニヤと緩む頬を無理やり引き戻し、さり気なく、
たまたま思い付いたかのように。
イセヤは隣に座るそんなミサキの後頭部を、こっそりパコンと軽く叩いた。
(まーた・・・ ミサキの、余計なお世話病がはじまった・・・)
突然のミサキからの質問に、面食らってアタフタするスミレ。
今までの流れでどうしてそんな質問がとぶのか、全く以って意味が分からない。
『ぇ・・・ えーっと・・・。』
『もし万が一、それがイセヤ君でも、アサヒでも、
別に気にせずに言っちゃっていーから!』
そのふたりではないという確証の元、ミサキはこの質問をしているのだが。
もじもじと困惑顔を向け、口ごもるスミレ。
所在無げにその指先は無意味に爪をはじき、目線は中空を彷徨う。
『じゃ、質問かえるわ!
自分より背が高い人と、低い人なら・・・ どっちがいい?』
『・・・そりゃぁ、高い方が・・・。』
『じゃぁ、痩せてる人と、太ってる人なら・・・?』
『ん~・・・ どっちかってゆうと痩せてる、方が・・・。』
『じゃぁ、ムダに元気なタイプと、物静かなタイプだと・・・?』
『ぇ・・・? えーっと・・・ 物静かな方がいいですかね・・・。』
『年上と年下だったら?』
『・・・年上の方が・・・ 頼り甲斐、ある方がいいです・・・。』
『じゃぁ、一人称は・・・ ”俺 ”と ”僕 ”、だと・・・?』
ここまで来た段階で、ミサキが引き出そうとしている固有名詞に気が付いた
スミレ。
真っ赤になって瞬きを繰り返し無意識のうちに指先を絡めたり爪をはじいたり。
ソワソワと落ち着きなく、髪の束を赤く染まった耳にかけたり。
『どっち?どっち??』メデューサのように目をギラつかせて詰め寄るミサキ。
すると、袋のネズミ状態のスミレがさすがに気の毒になって、助け舟を出した
イセヤ。 後ろからミサキの口を大きな手でふさぐと、またしてもパコンと
後頭部をはたく。
そして、リメイクたこ焼きをパクっと口に放ると『うん、ちゃんと旨いね。』 と
やわらかく微笑んだ。
すると、『ねぇ。最後の質問の答えは~?』
ミサキの ”策略 ”に気付いていないナツが無邪気に続けた。
慌ててイセヤはナツの頭にも手を伸ばしパコンとはたくと、アサヒに向けて
ナツを顎で差し(お前の、どうにかしろ!)と目で合図する。
続いてアサヒからもチョップされたナツ。
『え?なに??』 キョロキョロと見渡す。
すると、真っ赤に俯いたままスミレが、律儀にも小さく小さく答えた。
『・・・ ”僕 ”、の方が・・・
なんとなく、やさしい感じがしますよね・・・。』
(あと一押しっ!)ミサキが心の中でガッツポーズの腕を上げかける。
『・・・て、ことは~? この3人だと~ぉ?』 イセヤに口をふさがれた
その指の間をぬって最後のトドメに入るミサキ。
『・・・・・・・・・・・・・モチヅキ、先輩・・・・です、かね。』
『え!!!』
自分の名前が呼ばれて、ダイスケが目を見張りあからさまにうろたえた。
目の前で繰り広げられる攻防戦の意味が全く分かっていなかったダイスケ。
まさかその矛先が最終的に自分に向かうなんて考えてもいなかった。
もやしっ子の色白肌がみるみる赤くなってゆく。
パチパチとせわしなく瞬きを繰り返し、照れくさ過ぎて誰の顔も見られない。
『そうだったの~?! スミレちゃん。
でも、ダイスケって口うるっさいし、細かいし、
な~んか小姑みたいだよ? いいの~?』
ナツが口を挟んだ瞬間、ミサキに両頬をつねられて横に引っ張られた。
『なななんですかぁー・・・ せんぱーい・・・ やーめーて・・・』
ミサキはナツの耳元で『ヨケーな事ゆうな!馬鹿オノデラっ!』
小声で怒った。
その後は、やたらと満足気に勝ち誇るミサキとまるで空気が読めていないナツ。
呆れ顔で、でもどこか愉しそうに笑いを堪えるイセヤとアサヒ。
そして、ダイスケとスミレは互いの方に目を向けることも出来ず、
急に他人行儀にソワソワと落ち着きなかった。
夕方になり、たこパは解散の時間となった。
後片付けを終えたイセヤがミサキに言う。
『ミサキはもうちょっとウチにいるんだろ?』 笑いを必死に堪え、
コクリ頷くミサキ。
『お前さ・・・ あの、アレ! 今度貸すって言ってた、アレ、
貸すから、ちょっと残ってー・・・』
アサヒがナツに言うと、『なに?貸すって、なにが??』
キョトンとして何度も聞き返す。 『いーから! ちょっと残ればいいの!』
『お疲れ~!』『またね~!』『セトさん頼むぞ~!』『気を付けてね~!』
先輩たち4人にニヤニヤ顔で見送られ、ダイスケとスミレふたりがペコリ頭を
下げ帰ってゆく。
ナツ以外の3人は、玄関のドアをバタンと閉めた途端、大笑いした。
『ゴーインだなぁ・・・ サノ先輩・・・』
アサヒがミサキの鬼のような質問責めを思い出し、呆れ顔で笑う。
『ちょっと荒療治すぎたんじゃないか~?』 イセヤもミサキを睨みつつ
口許は緩んでゆく。
『え? なんの話・・・?』 ナツだけが、相変わらず話についていけず。
すると、ミサキは嬉しそうに笑って言った。
その顔は男らしくて、凛々しくて、眩しいほど神々しい。
『ああゆう子は、背中タックルする勢いで押し込んでやんないとね・・・。』
夕暮れの帰り道。
まだまだ気温が高い夕刻に、ヒグラシの耳障りな音が延々響き、
暑苦しさを助長する。
ダイスケとスミレは、照れくさそうに前後に少し距離をあけて歩いている。
あんな皆がいる前で、お遊び程度の大して意味の無いものだとしても
名指しされて迷惑だったかもと不安気な目を落としてトボトボとスミレが歩く。
前をゆくダイスケの表情を見るのが怖くて、顔を上げられない。
そんなスミレをチラっと振り返り見た、ダイスケ。
足元に目線を落としツムジしか見えないその姿は、きっと先程のアレを
過剰に気にしている風で。
『あのさ・・・ あの、別に僕、怒ったりとか・・・ 別にしてないから、
あの・・・ 変に気使ったり、気にしなくてヘーキだから・・・さ。』
聴こえたその声に上げたスミレの顔は、真っ赤になってまるで泣き出しそうに
見える。
『すみません・・・。』 小さく返したスミレにダイスケはぷっと笑って言う。
『だから・・・ 謝ることないから、ほんとに・・・。』
少しだけ居心地の悪い沈黙が、ふたりの間を通り過ぎた。
『あの、半分たこ焼き、チーズでくっ付けたやつ・・・
アレ、美味しかったね~?』
なんとか話題を変えようと必死なダイスケが、スミレを盗み見ながら微笑んだ。
いつも淡々とした口調のダイスケがほんの少したどたどしく早口になっている。
咄嗟にそれがダイスケの気遣いだと分かったスミレ。
がんばって口角を上げ頬に笑みを作ると少し早足でダイスケに追い着き並んだ。
『だって・・・ 捨てちゃうのなんか勿体ないでしょ~?
半分だって、小さくたって、
ナツ先輩が一生懸命焼いてくれたたこ焼きですから。』
『そうだね・・・
ってゆうか、セトさんて・・・ マネージャーに向いてるよね。
気が利くってゆうか、気配りが出来るってゆうか・・・。』
ダイスケから不意にかけられた褒め言葉に、スミレが分かりやすく嬉しそうな
表情を向けた。
先程、がんばって作った笑顔は、心からの微笑みに変わる。
『・・・ありがとうございます。
わたし、頑張ってるひと応援するの好きなんです。得意なんです・・・。
今はまだ、全っ然ですけど、
モチヅキ先輩の右腕になれるように頑張ります・・・。』
スミレのまっすぐな言葉に、ダイスケが照れくさそうに目線をはずした。
『ぁ、はい・・・
僕も、ガンバリます・・・。』
ふたり、微笑み合う。
互いにさり気なく気遣い合うやわらかな空気に、
なんだか、やさしい風がふたりの間に流れた。
『ぁ、モチヅキ先輩。 そう言えばこないだの短距離の記録・・・』
いつの間にか話題はマネージャーの仕事の話に移り、いつまでも話し声は
途切れることなくふたりは肩を並べ歩いた。
話に夢中になり気が付けば互いの家へ別れる分岐点で足を止め、尚もしゃべり
続けている。
もう街灯のあかりが灯り、ふたりの影がしっとりと伸びている事にも
気付かない程夢中になって。
話が尽きてしまうのが寂しいかのように、次々話題を紡いで。
ゆっくり、顔を出していた三日月。
ふたりの背中から、遠慮がちに。 しかし、やさしくあたたかく覗いていた。
【おわり】




