■ 中 編
真夏の午後のリビングは、たこ焼きの熱にみんなの止まない笑い声と熱気が
プラスされ冷房が入っているはずなのに、一同汗だくで一様に顔が赤い。
イセヤにやっと焼き係を代わってもらったナツが、乱雑にたこ焼きをひっくり
返す。
手先は器用なはずなのに、何故か料理となるとナツはからっきしダメだった。
鉄板で火傷でもするんじゃないかと、見守る一同がハラハラと心配で気が
気じゃない。
ナツが焼き始めた途端、テーブルは飛び跳ねた液や具材で汚れはじめた。
竹串を危なっかしく握る指先にも液が付き汚れている。
すると、
『ぁ。 ミサキー・・・ キッチンからおしぼり持って来て。』
『ん~。』 イセヤの声に立ち上がってキッチンへ向かったミサキ。
そのふたりの遣り取りに、その他一同が一瞬、無言になりかたまった。
みな、今自分たちの耳に聴こえた ”それ ”が聞き間違いか否か脳内リピート
している。
確認せずにいられないナツが、口火を切った。
『今・・・ ”ミサキ ”って呼びました・・・?』 ナツが目を見開いている。
『・・・ん?』
イセヤが、言われている意味が分からず首を傾げる。
すると、なにか思い付いたように少し呆れながら笑ったイセヤ。
『え?お前・・・今更? 知らなかったのか~?
フルネーム、サノ ミサキだぞ?』
『いやいやいやいやいやいや、 そーじゃなくてデスね・・・
下の、名前・・・を、呼び捨てに・・・しました・・・?』
ナツ以外の、アサヒ・ダイスケ・スミレも必死の形相で、皆おなじように身を
乗り出している。
4人が雁首揃えてイセヤを凝視して二の句を継ぐのを固唾を呑んで待っている。
キッチンからおしぼりを持って来たミサキ。
今リビングで交わされていた遣り取りは聴こえていなかった様子で。
『イセヤ君・・・ あの、2段目の引出しにあるやつでいーんだよね?』
『イ セ ヤ く ん っ ?!』
『イ セ ヤ く ん っ ?!』
『イ セ ヤ く ん っ ?!』
『イ セ ヤ く ん っ ?!』
4人、まるで『せ~の!』 とタイミングを合わせたかのように、
一斉に声を張り上げた。
イセヤとミサキは、この一同の反応の意味が全く分からず目を白黒させている。
『あのー・・・ 当時、部活ん時って・・・
部長はサノマネージャーのこと、
”マネージャー ”って呼んでましたよね・・・?
マネージャーは、部長のこと・・・ ”部長 ”って・・・。』
『うん。』
『うん。』
イセヤとミサキが同時に頷く。 それがなにか?という顔を向けて。
『ぇ・・・。 で? 今は・・・ ”ミサキ ”と ”イセヤ君 ”??』
『今は、ってゆーか・・・
・・・当時から、部活以外ではそうだけど?』
ミサキがキョトンとしながら、あっけらかんと言う。
一同、イセヤに目線をスライドさせると、その顔も同じようにキョトン顔で。
『フツー・・・ 付き合ってたら、そーゆーモンじゃないの?』
イセヤの口から至極当たり前のように飛び出した ”付き合ってる ”という
ワードにアサヒ・ナツ・ダイスケ・スミレの4人が絶叫した。
『ええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!』
何故か、イセヤとミサキが付き合っている事は部員はみな気付いていなかった。
元々イチャイチャするタイプのふたりではないし、呼び名も部内では
”役職呼び ”だったし、部活終わりの帰宅時もふたりで帰ってはいたものの、
それは只単に方向が同じだからだと何故かみんな思い込んでいた。
”部長 ”と ”マネージャー ”というあまりにしっくりくる自然なふたりの姿に
それ以外の関係を想像したことなど、みな一度も無かったのだった。
当のふたりも、わざわざ発表するような事ではないので特に何も言わず。
気付かれていなかったという事実に、逆にイセヤとミサキは驚いていた。
『いいいいいつから、っスか・・・?』 アサヒが人一倍うろたえながら訊く。
『アサヒが入部してすぐ、だよねぇ~?
ほら、連絡網作るのに住所訊いて回ったことあったじゃない? あの時。』
ミサキがなんだかちょっと思い出し笑いをするように可笑しそうに頬を緩める。
そんなミサキを、イセヤはどこか他人事みたいに笑って眺めている。
『ええええええ・・・・ なんか・・・チョォ~嬉しい!!
すっごい嬉しい!! あたし、泣きそう! ヤバイヤバイ!!』
ナツが涙目になりながら、顔を真っ赤にして興奮している。
アサヒは、信頼して止まないこのふたりの関係に今まで気付けずにいた事に、
どこか悔しそうなもどかしそうな、心中複雑そうな表情を必死に隠そうと
している。
素敵なイセヤ・ミサキカップルの姿にすっかり陶酔してしまって、今焼いている
たこ焼きのことなど頭の中からキレイサッパリ忘れ去っていたナツ。
すると、『ナツ先輩!!』 スミレが慌てて竹串を奪いひっくり返すも、
下半分真っ黒焦げになったツートンのたこ焼きは、よく言えばとびきり香ばしい
においをリビング中に漂わせ一同呆れ顔で大笑いした。
もくもくと目の前で上がる煙に、ナツがケホケホとむせている。
『コゲコゲだから、もうダメじゃね?』 むせるナツの背中をやさしく
さすりながらアサヒが竹串で転がして遊んでいると、
『勿体ないじゃないですか~・・・』 と、スミレが焦げた部分だけ
ペティナイフで切り落として、焦げていない半球の断面にとろけるチーズを
乗せふたつくっ付けるとソースやマヨネーズで美味しそうにそれを盛り付けた。
まるで、普通の美味しそうなたこ焼きに変身した半球のたこ焼き。
『すごいじゃん。』
笑いながらぽつり小さく褒めたダイスケに、スミレの顔が嬉しそうにパっと
華やいだ。
その一瞬の微笑みをミサキは見逃さなかった。




