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1/3

■ 前 編

 

 

 『たこ焼き器なら、ウチにあるけど。』

 

 

 

そのイセヤ前部長が至極あっさり放った一言で、

思いがけず ”たこ焼きパーティー ”はイセヤ邸で開催されることになった。

 

 

アサヒとナツが思い付きで発案した ”たこパ ”。


まずたこ焼き器を購入するところからスタートするはずだったのだが、

メンツを集めてからにしようと取り敢えず参加してくれそうな人に

片っ端から声を掛けていた。

 

 

ダメモトで連絡したアサヒは、正直自分の耳を疑った。


イセヤはあまりそうゆう部員同士での集まりに参加するようなタイプには

見えなかったし実際もう卒業して陸上部員でもないのだ。

おまけに ”たこ焼き器 ”を持っていて

更に ”結構な頻度で作っている ”なんて・・・

 

 

 

 

 (丸々2年一緒にいたのに・・・


  部長にそんな一面があったなんて、俺としたことが・・・)

 

 

 

 

おまけに電話向こうのイセヤの声は、突然掛かって来たこの電話にも、

不意に誘われたたこパにも喜んでいる風で、イセヤを兄と慕うアサヒには

その反応が嬉しくて仕方なかった。

 

 

 

 『サノマネージャーにも連絡しようと思うんですが・・・』

 

 

 

そう言うアサヒに、イセヤは『あぁ、ちょっと待って。』 と少し電話から離れ

すぐさま『行くってさ。』 と返事が来た。

 

 

『え? ・・・マネージャー、今、いるんですか?』 驚くアサヒに、


『え? ・・・いるけど?』 イセヤもその反応に逆に驚いた。

 

 

 

なんだかどこか、あまり噛み合っていない気が互いにしていた。

 

 

 

 

 

アサヒとナツ、イセヤとミサキ、そしてダイスケと新1年生マネージャーの

スミレが参加することになった、たこ焼きパーティー。


スミレは入れ違いで卒業した大先輩のイセヤとミサキが参加するという事を

訊いた途端自分が参加していいものか迷っていたが、ナツに強引に押し切ら

れての参加となった。


不安気な顔を向けるスミレに、ダイスケが笑いながら言う。

 

 

 

 『前部長もマネージャーも、いい人だから大丈夫だよ。』

 

 

 

それでもまだ尚、まるで居場所がなさそうな心配顔のスミレ。

 

 

 

 『僕も行くし、ナツもいるんだから・・・ 大丈夫だって。』 

 

 

 

そう言うダイスケはいつものポーカーフェイスが、今日はどこかやわらかく

感じてスミレははじめて見るダイスケのそんな表情に思わず目を逸らした。


その時、

少しだけ心臓が早く打ち付けた事に、スミレ自身気付いていなかった。

 

 

 

まだまだ猛暑が続く8月の、とある土曜。


その日、6人は駅前で待合せをしていた。

ジリジリと日差し照り付ける昼時のそこは人でごった返していて、

ただ立って待つのでさえ人波に軽く流され、その熱気も相まって汗が噴き出る。

 

 

最初に待合せ場所に着いたのはアサヒだった。

辛うじて一人分だけ空いたベンチに腰掛け、背を丸めて休日の気怠い空気を

漂わせ額の汗を拭う。

 

 

次に、ナツとダイスケが一緒にやって来た。


ナツがアサヒの姿を見付け嬉しそうに手を振ると、アサヒも笑って振り返す。

ふたりの右手首のミサンガが、同時にやさしく揺れる。


ダイスケはそんな仲良さそうなふたりを横目に、小さくペコリと会釈をした。

 

 

すると、駅向こうからイセヤとミサキが並んでこちらにやって来る姿。


いつ見てもなぜか後輩陣には安心する ”部長 ”と ”マネージャー ”

ふたりの佇まい。

アサヒ・ナツ・ダイスケの3人は、まだ小さく見えているだけの先輩ふたりに

嬉しそうに軽く会釈をする。

 

 

そして最後に、慌てて走って向かって来るのが新1年生スミレだった。

 

 

 

 『スミレちゃ~ん! こっち、こっち~!!』

 

 

 

ナツが満面の笑みで少し背伸びしながら、日焼けした小さな手を左右に振る。


待合せ時間は過ぎていないので遅刻ではないものの、一番遅くに到着して

しまったスミレは申し訳なさそうに眉根をひそめ謝った。


そして初対面の大先輩イセヤとミサキに、仰々しく自己紹介をするともう一度、

『遅くなってすみませんでした!!』 と深々と頭を下げた。

 

 

『ちょっと、アサヒー・・・』 

そのスミレの姿に、ミサキが眉をしかめ口を開いた。

 

 

 

 『アンタ、どんだけわたし達のこと ”怖い先輩 ”だって吹き込んだのよ!


  スミレちゃん、なんか、怯えまくってんじゃないの~!!』

 

 

 

そう言うとミサキは、小さく縮こまるスミレの肩を抱いて

『取って喰いゃしないっての』 とニヤリ。口端をつり上げて笑って言った。


その顔は、本当に喰ってしまいそうな笑顔だった。

 

 

 

 

 

6人揃ったところで、駅前のスーパーでたこ焼きパーティーの買出しをする。


ダイスケがカートを押し、それに女子トリオ ナツ・ミサキ・スミレが続き

アレコレ騒がしく食材を選んでいる。 

トリオの顔は一様に嬉しそうで、白い歯がこぼれっぱなしで。

 

 

『お餅とかチーズとか入れたい!!』 他者の意見も聞かずナツが売り場から

それを持って来てカートに放る。

 

 

『え?今日ってたこパでしょ? お好み焼きじゃないよね~?』 

ミサキがそれに怪訝な顔をし首を傾げ、再び売り場へ戻してしまう。

 

 

『小さく刻めば・・・ 入れられなくも、ないんじゃないですかね~?』 

スミレがすかさずフォローしている途中で、


『あ! 納豆とかも変わり種で面白いかも!!』

ナツが次の食材を自由に次々掴んでは放る。


そしてミサキに却下され、スミレがやんわりフォローするという流れを

延々繰り返していた。

 

 

 

 『多、数、決、に。 しましょう!!』

 

 

 

女子トリオの全くまとまりがない遣り取りに、最も冷静な男ダイスケが

ぴしゃり言い放った。

3人の顔を見すがめ、それはまるで小学生に説く教師のようで。

 

 

 

 『いい・・・?ナツ。 なんでもかんでも入れてるけど、


  みんなが食べたい物じゃないとダメなの、分かるよね・・・?』

 

 

 『サノ先輩・・・。 全部が全部、却下してたら買い物進みませんよ!』

 

 

 『セトさん・・・。 


  無理やりナツなんかフォローしなくても、全然大丈夫だから。』

 

 

 

ダイスケの至極真っ当な意見に、

女子トリオが揃って素直に『ハイ。』と返事をした。

その三者の背中のカーブは、廊下に立たされる小学生のそれ、そのもの。


それをブラブラと只つっくいて後ろを歩いていたイセヤとアサヒが、

授業参観に来た親のようにクククと肩を震わせて笑って見ていた。

 

 

 

 

 

やたらと時間が掛かった買出しを終え、駅から程近くのイセヤ邸に

到着した一同。 アサヒもナツ達も、勿論遊びに来たことなど無く

お邪魔するのははじめてだった。

 

 

自営で商売をしているイセヤの両親は、土曜も自宅続きになっている店に

出ていて自由にキッチンを使っても問題なかった。


『お邪魔シマ~ッス!』 

一同声を揃えて挨拶すると、ぞろぞろとリビングに上がる。

玄関で脱いだみんなの靴を、一番最後に入ったスミレがちょこんとしゃがんで

全員分揃えている。


それをチラリ振り返って見ていたダイスケが、少し驚いた目を向け微笑んだ。

 

 

 

リビングの座卓テーブルにたこ焼き器を置き、6人で準備に取り掛かっていた。


料理が得意なミサキが生地を作り、スミレは中に入れる具材を細かく包丁で

刻んでいた。

男子トリオは、焼く準備をはじめたり、皿を出したり、ドリンクの準備を

したりしている。

 

 

ナツだけが、ひとり。

ソワソワと、しかし一番頬を赤くして嬉しそうにキッチンと

リビングを何往復もムダにウロチョロしている。

 

 

ズビシッ。 いつもの垂直チョップがアサヒからお見舞いされた。

 

 

 

 『なーにやってんだよ、手伝えよ~・・・』

 

 

 

笑いながら覗き込むと、

『だってさー・・・ な~んにも、やる事ないんだも~ん。』


そう言って、アサヒが掴む準備中のコーラのペットボトルを奪おうとする。

 

 

 

 『ちょ! コレ、俺の仕事だー・・・』


 『あたしがやるから、貸して下さいよー・・・』

 

 

 

グーパンチしたりくすぐったり、

子供のようにキャッキャとじゃれ合って笑っていると、


『そこのふたり! イチャイチャするなら外でやって来て。』 

冷静にミサキに一言いわれて、ふたりは途端に照れくさそうに俯いた。 


『・・・サ~せぇん。』

 

 

イセヤとミサキが顔を見合わせ、ぷっと笑った。

 

 

 

 

 

 『やりたい!やりたい!やりたい!』 


たこ焼きのふちが少し焼けて固まってきた頃、作ることに慣れているイセヤが

竹串でたこ焼き器の穴をなぞりながらひっくり返すと、ナツが騒がしく竹串を

握りしめた両手をジタバタ動かした。

 

 

やっと始まったたこ焼き作り。

慣れた手つきでたこ焼きを回転させるイセヤの隣に引っ付く、

やたらと騒々しい小柄。

 

 

 

『オノデラー・・・ もうちょっと待ってろって。』 

優しく言い聞かせようとするイセヤ。

 

 

『えー・・・ やりたい!やりたい!早く代わって、ブチョー!』 

全く聞く耳を持たない。

 

 

 

 

 『取り敢えず、最初のコレだけでもちゃんとしたヤツを・・・』

 

 

 『やりたい!やりたい!ブチョー、ずるいー!!』

 

 

 

 

 『ちょっと慌てんなって、オノデラ・・・』

 

 

 『ブチョー!!!』

 

 

 

すると、温厚なイセヤが吠えた。

 

 

 

 『アサヒっ!! ”お前の ”コイツ、黙らせろっ!!』

 

 

 

滅多に声を荒げることのないその低音が、たこ焼きが鉄板に焦げる香ばしい

焼き音に混じりリビング中に響き渡った。

 

 

イセヤに怒られたことより、”アサヒの ”と言われた事が恥ずかしくて、

ナツは急に貝のように口を閉じ静かになった。 


アサヒも照れくさそうに『ばーか。』 イヒヒ。と笑ってナツの頭に

垂直チョップする。

そして互いにツンと顎を上げ睨み合うように目を向け、

クスクス笑い合っている。

 

 

そんなふたりに、ミサキが呆れて言う。

 

 

 

  『・・・なに? 今日、ノロけに来たの・・・? アンタ達。』

 

 

 

 『・・・ちがっ!!』


 『・・・ちがっ!!』

 

 

同時に言って、ふたり同じように口許を緩めて俯いた。


普通にしてるつもりでも傍から見れば ”じゃれ合っている ”ように

見えてしまう事が照れくさくてどうしたらいいか分からなくて、

気まり悪げに互いチラっと目を合わせた。

 

 

 


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