第八話
「ここが君の部屋だよ、隣はわたしの部屋だから。でも、今日も依頼があるから用があるなら後で人を寄越すからその人に聞いて。」
「何から何まで本当にありがとう。」
「ううん。…君の友達を見殺しにしちゃったからね。罪滅ぼしってわけじゃないけどこのぐらいはやって当然かな?って。」
「あれは…君のせいじゃないよ。君には君のやるべきことがあったわけだから気に病む必要なんかないよ。」
「…ありがとう。そう言ってもらえると幾らか心が楽になるよ。何か要望があったら遠慮なく言って、出来る限り力になるから。」
「うん、何かあったら君に頼むよ。」
「それじゃ、わたしは行くね。」
そう言ってレティは依頼を解決するために部屋から出て行った。
僕らがアーヴィングさんやレティに助けてもらってからエスペランサの人達にはとてもお世話になった。盗賊団から助けられて憔悴しきっていた僕と意識不明の羽馬を保護してくれた。羽馬は洞窟から救い出したとき意識不明の状態だったがエスペランサの人達の賢明な治療のおかげで翌日には意識を取り戻すまでにはいかなかったが容体は安定しているようだった。
部屋でくつろいでいるとまだ、疲れが残っていたのか知らないうちに寝てしまった。それから体感で1時間ぐらい寝て起きてみると部屋の隅に置かれている椅子に座って赤毛の青年と金髪の少女が楽しく話している。と、僕と青年の目が合った。
「どうも、おはようございます。と、言ってもこんにちはの時間だけどね。」
「君は?」
「僕はアレックス。こっちはアナンタ。洞窟の中で一度会ったね。カムイ君。」
「君がレティの言ってた…?」
「そうだよ。レティに君の面倒を見るように言われてね。」
「ごめん。ずっと寝てた。」
「大丈夫、問題ないよ。ところで、お腹すいてない?もうお昼になるけど。」
「そう言われると何も食べてなかったな…。」
「それじゃ、食堂に行こう。今日はいい肉が入ったってコックが腕を振るってたしね。」
「ほお、急ぐぞ我が主よ。」
「はいはい。カムイ君ついてきてね。」
食堂内には、清潔感のある白いクロスがかけられ燭台で飾られた長大なテーブルが何列もあり、お昼の時間だけあって食事をとりに来た人たちで混雑していた。
基本的には奥にある厨房カウンターで料理を注文し、料金を支払って料理を受け取る。そして、自由にテーブルに腰かけ、食事を取る。前世とあまり変わらない方式のようだ。
アレックスもカウンター越しに食堂のコックに向かって料理の注文をした。
「お疲れ様です。今日のオススメは何です?」
「おっ!アレックスにアナンタか。オススメはコルトン豚の香草焼きにシーザーサラダだな!」
「じゃ、それと大麦パンにコーンスープ。あと、ポテトフライを2人分お願いします。カムイ君は何にする?」
「あ、僕も同じので。」
「ん?坊主は…ああ、保護した奴隷ってのは坊主の事か。調子はどうだ?向こうではひどい目にあったんだろ?」
「はい、皆さんのおかげで何とか。」
「ハッハッ、そうか少し待ってろ。すぐに飛び切り美味いのを食わせてやるよ。」
しばらく待っていると料理が出来上がった。アレックスは革袋から銅貨を数枚取り出しておじさんに手渡し、木製のお盆に載せられた料理を受け取った。この世界のお金がない僕はどうしようかと慌てていると
「坊主の分は俺のおごりだ。しっかりと味わってくれよ!」
「ありがとうございます!」
食事を受け取りアレックスの向かいの席に腰を下ろして食事を始める。
久しぶりのまともな食事なだけあってパンもスープも肉も全部がより一層美味しく感じられた。気が付くとお盆の上にあった料理は残さず完食していた。
「いい食べっぷりだね。」
「あはは…ろくに食べてなかったから。」
「ところで、貴様はこれからどうするのだ?」
「え?」
「ああ、ごめん。アナンタは僕の使い魔なんだよ。種族はドラゴンの炎龍。」
「ドラゴン?う~ん。そうは見えないけど今は人の姿に変身してるって感じかな?」
「その通り。契約したばっかの頃は僕も驚いたよ。何せ夜中にいきなり」
「主!これも美味しいぞ!」
話しているとアナンタがいきなりアレックスの口にパンを突っ込んでその口を塞いだ。
アレックスはなぜこうなっているのか解らずパンを頑張って食べている。
「あっ、なんかごめん。」
「気にしなくていい、我が主に否がある。」
「なるほど、2人の関係は理解したよ。ところで、思ったんだけどエスペランサのギルドマスターはアーヴィングさんなの?」
「違う、ここのギルドマスターはもっと嫌なやつだ。」
「嫌なやつ?どんな人なの?」
「我に劣らず勝らずな美人な使い魔を2人もはべらせてこのギルドを己の思うがままに牛耳っている極悪人だ。」
「ゲホッゲホッ!このパンはちぎって少しずつ食べるもので丸ごとじゃ固くて食べられないの知ってるよね!?」
「フンッ。」
「顎が痛い…えっと、ギルドマスターだっけ?アーヴィングさんは幹部で、ギルドマスターは今、大勢の他の幹部と依頼に行ってるんだよね。」
「依頼ってどんな内容の?」
「確か、ドラゴンの討伐って聞いたかな。正直、あの人1人でもドラゴンぐらいだった倒せると思うんだけどね。」
「そんなに強い人なんだ…」
「そりゃもう、あの人の右に出る召喚術士はいないね。みんなからも慕われてるし。」
(最高の召喚術士で美女の使い魔を2人もはべらせ、ギルドを自分の物のように扱うが、慕われている…どんな人だ…?)