第六話
僕は無我夢中で走った。自分が死なないように、少女の後を追いかけて。
時折、耳の横を矢がかすめたがそれも気にならなかった。
「あっ!」
「カムイ!」
途中で倒れていた死体に足を引っ掛けて躓いてしまった。
そこに僕めがけて矢が飛んでくる。少女の悲鳴のような叫びが聞こえるが迫りつつある矢から目を逸らせずに固まる。
矢が眼前にまで迫り、死んだと思ったところで突如横から飛んできた銃弾が矢を撃ち落した。
「そこの坊主!早くこっちまで走ってこい!」
その声で体がまた動き出す。僕は声の聞こえた方向の通路に飛び込んだ。
頭の上から声がかけられる。
声の主を見ると耳が尖っている精悍で野性的な顔をした男だった。
片手には銃を持っていて僕を助けてくれたのはこの人だろう。
「坊主。お前捕まっていた奴隷だろ?」
「は、はい。」
「チッ、あいつ自分の持ち場に責任持てよ…!坊主、捕まってた奴隷に茶髪でショートカットの女の子がいたろ?そいつはどこに行った?」
「その子は…」
「すいませんでした!」
僕と男の人の間に少女が割って入ってきた。
少女は男の人の前で姿勢を正すと膝を折り、地に手と頭をつけ綺麗な土下座をした。
「こんなところでいい!それよりも他の捕まっていた人は!?」
「アレックスに任せてきました。」
「だったらこいつも外に連れて行け!」
この男の人はどうやら少女の上司に当たる人のようだ。
人の命もかかっているのだろうがかなり厳しい人に見える。
「その事なんですがこいつも一緒に連れて行ってもらえませんか?」
「はあ?」
「僕がこの子に連れて行ってくれと頼んだんです。」
「お前がか?何でこんな危ない場所にいたがる?」
「友達が盗賊に連れていかれてまだ見つかってないんです。お願いします!行くのを許してください!」
「…俺らを信用しろと言っても大人しく帰ってはくれなさそうだな…」
少しの間男の人が考えていると戦っていた人が一人駆けてきた。
「班長!敵が退いていきます。」
「追撃しろ!投降してきた奴、無抵抗の奴は縛って外に連れて行け!」
「了解しました!」
「…少し待て。投降してきた奴を1人連れて来てくれ。」
「は?わりました。」
「お前は後ろからついて来い。奴らからお前の友達の居場所を聞いてみるがあまり期待するなよ。」
「ありがとうございます!」
それからは男の人が呼び出してくれた青と緑を混ぜた深緑の様な鱗の上に鎧を着て、剣や槍を持ったリザードマンの様な生き物に守ってもらいながら奥へ進んでいった。
「班長。投降してきた者を連れてきました。」
「おい、こいつに聞いてみな。」
「僕と一緒に捕まえてきたもう1人の男はどうした!?」
「はっ、そいつなら今頃死んでるじゃねえかな?ハハハッ!ゲハッ!?」
笑っていた盗賊の顔面に「班長」の靴が突き刺さった。
盗賊は骨の折れた鼻を両手で抑えながら「班長」を睨み付ける。
「て、手前何しやがる!?」
「あん?お前1人ぐらい殺したって報酬が少し減るくらいで別に殺してもいいんだ。死にたくなかったらそいつの友達がどこに連れていかれたか吐け。」
「そ、そいつなら一番奥の祭壇で生贄に使われていると思う…」
「本当だな?」
「た、多分な。」
「こいつを連れていけ。『紫陽花』の奴らには撃ち漏らしの確認。ウチの各班には持ち場の掃討が終わり次第、奥に集結しろと伝えろ。」
「わかりました。」
「坊主、急ぐぞ。」
「早く、早く行きましょう。」