第五話
「君!カムイ!気が付いた?」
「ああ…ありがとう。」
あれからどのくらいの時間気を失っていたのだろうか…。
何故だか少女が僕の牢屋に入ってきている。よく見ると少女の片手には刀が握られている。全部の牢屋の扉が破壊されて捕まっていた少年少女が逃げ出している。
一体何が起こっているんだ?
「僕が気絶している間に何があったの?」
「今はそんなことはどうでもいいの!早く!」
少女にせかされて僕も皆と同じように逃げ出す。
通路はいくつもの枝分かれ複雑なつくりになっていたが少女が先導してくれているため道に迷わずに逃げることができている。途中、分かれ道から盗賊のものだと思われる叫び声や爆発音、剣戟が鳴り響いている。
「手前ら待ちやがれ!」
突如、横の通路から盗賊が飛び出してきた。
先頭にはあの少女がいる。盗賊の剣が降りぬかれて少女を頭から一刀両断しようとする。剣の刃が頭に触れようとしたとき「キイィン!」と甲高いが耳障りにならない様な音が聞こえたかと思うと盗賊の剣が柄のところから上が折れて天井に突き刺さっていた。
今のをこの子がやったのか…?
「な!?な、何が!?っく!」
一瞬の出来事で目を白黒させている盗賊。それでも戦意は失っていなかったようで右手を少女に構えて何かを唱えようとする。
脳裏に「ショック・ボルト」を唱えて僕を撃ちぬいた盗賊の姿が思い出される。
とっさにそれを少女へ警告しようと口を開こうとするよりも早く少女は動いた。
盗賊が詠唱を完了させる前に消えたのではないかと思う程の速さで間合いを詰めると盗賊の腹を蹴り飛ばす。詠唱は妨害されて不発に終わったようだ。
すると盗賊たちとは全く違う雰囲気の銃を担いだ赤毛で精悍な顔つきをした青年が盗賊の出てきた通路から現れた。
「ごめんごめん。こっちで撃ち漏らしがあってね。」
「わたしが護衛についていて良かったね。下手してたらあなたの首が飛んでたよ。ところで持ち場は?」
「アナンタに任せてるよ。正直、僕がいなくてもどうとでもなるからね。」
「じゃ、あなたに後を任しとくよ。わたしは奥の方に行ってお兄ちゃんにもっと褒めてもらうんだから!」
「わかったよ。アナンタによろしく言っといて。」
「君!僕も一緒に行かせてもらえない?」
横道に消えてこうとした少女を呼び止める。
もしかしたらまだ羽馬が生きてこの洞窟の中にいるかもしれないから…!
「……いいよ、ついてきなよ。」
「本当!?ありがとう!」
「ちょっと待て!奴隷の脱出が最優先だろうと聞いたでしょう!」
「責任はわたしが持つ。それにわたしの実力は知ってるでしょう?」
「はぁ、今度は君の首が飛ぶかもしれないな。」
青年はため息をつくと他の子を連れて出口に向かって行った。
残った僕たちは警戒しながら洞窟の奥へと向かった。
「カムイ。どこも怪我はしてない?」
「うん。ついていくのを許してくれてありがとう。」
「ううん、力があったのに君の友達を助けられなかったから…ね。その事の償いにでもなればと思ってね。」
「君には君の役割があったんだろうから仕方ないよ。」
「そう言ってくれると助かるかな…。」
「ところで、羽馬はどこにいるか目星ついてるの?」
「ある程度はね。多分、彼は売られたんじゃないと思う。」
「何でわかるの?」
「売られるときはどこの誰に売られるかぐらいは言ってくれるの。仮に売られていたとしても街道は仲間が張ってる。それに、最近ここには正体不明の魔術師たちが出入りしていたの。そいつらここで何か怪しげな儀式を……。」
進んでいくと広い空洞に出た。
長机がいくつかありここでは盗賊たちがここで食事や酒盛りをしているのだろう。だが、今はそんな賑やかな様子ではなく戦場となっていた。
出口側からは盗賊とは違う、武装や動きがしっかりとした集団がゴーレムやスケルトンのようなモンスターを操って戦っている。反対側では盗賊たちが机や椅子でバリケードを作ってその後ろから弓で矢を射たり魔術で氷の槍や炎の玉を飛ばしている。
盗賊側の反撃むなしく武装集団側の圧倒的優勢で洞窟の奥へと追い詰められている。
「カムイ。わたしから絶対に離れないでね。仲間の方が優勢だけど君だと魔術の一発でも当たったら死ぬから。」
「わ、わかった。」
「仲間の方を回っていく。頭低くしてついてきてね。」
通路の陰から顔を少し覗かせてみると目の前を火の玉が飛んでいった。
額から汗が吹き出し、足が震えだす。体があそこへ行くのを全力で拒んでいる。
しっかりしろ!羽馬まで死なせるわけにはいかないんだ!
「仲間も援護してくれる。ついてきて!」