第参話
目が覚めると冷たい土の上に倒れていた。周りが暗く少しじめっとして、土がむき出しになっていることからどうやら洞窟に作った牢屋に入れられているらしい。
まだ体が少し痺れて頭がクラクラしている。
いったいあれからどれくらい時間がたったんだ?頭が痛い…。
動かない頭を無理やり覚醒させてなくなっている物がないか学ランのポケットをまさぐってみる。
「あ、財布とスマホがない!…でも、この世界じゃ意味もないかな?」
「ああ!八坂君!やっと起きましたか。」
声のした方を振り向くと独房の隅で羽馬が一安心といった様子で胸をなでおろしていた。
狩野もいないかと思って他の独房を見るが狩野はいない。変わりに追いかけられていた少女と僕たちと同じくらいの歳の少年少女が20人くらい捕まっている。なかには人ではない耳の尖ったエルフのような子や兎の耳の子もいた。皆、顔を見るとやつれていたりとかなり憔悴している。
「羽馬。狩野は?」
「狩野君は奴らに抵抗しようとして連れていかれました…。」
「そうか…。」
「あの…さっきは助けようとしてくれてありがとう。」
追いかけられていた少女が遠慮がちに話しかけてきた。
服はボロボロであの男たちに殴られたのだろう口の端が切れて血が出ている。汚れていなければ綺麗であろうショートカットの茶髪も土埃で汚れてしまっている。
「いや、結局は助けられなかったし…ごめん。」
「そんなことないよ。助けようとしてくれただけで嬉しかったから。」
「ところで、ここは?」
「ここは盗賊団のアジト。わたしも含めてここにいる子たちは皆誘拐されて連れてこられたの。」
「連れてこられて何をさせられるんです?」
「奴隷として売られるんだよ…女はたまにあいつ等の慰み者になったりするけどね。男は何処か危険なところで死ぬまで鉱石の採掘だってさ。」
「死ぬまで…。」
「あの時はわたしも慰み者にされそうだったから感謝してるよ。ええと…」
「あ、僕の名前は神威、八坂神威。」
「ヤサカ…カムイ?変な名前なんだね。」
「それで、あっちのが羽馬文也。」
「よろしくお願いしますね。」
「わたしは…」
少女が名前を言おうとしたところで扉が開けられて誰かが入ってきた。
入ってきた男には見覚えがあった僕たちを魔法で気絶させた男だ。だが、僕はそいつのことなんか見てはいなかった。僕が見ていたのは男が右手で掴んでいる物だった。
それは…狩野の首だった。相当な苦しみの末死んだのであろう狩野の顔は苦しみに歪んでいた。
「おい手前ら!手前らもこうなりたくなかったら反抗したり逃げ出そうなんて考えるじゃねえぞ!!」
頭の中が真っ白になった。何も考えられずただ呆然と何もない空間をぼんやりと眺めていることしかできなくなった。
狩野が死んだ…?
一緒にゲームをしたり色々なところに遊びに行った思い出が頭の中から溢れ出す。
その後の事は覚えていない。