八話 シャリア・レリックス♦
金髪ツインテ、シャリア・レリックス視点です。
「RERC‐A001『EAGLE』だぜ! しかも胸の製造番号を見てみろよ。一番だ……」
「この塗装の剥げ方から見ると、かなりの腕のパイロットの機体みたいだな」
「俺、生で見るの初めてだよ……。これが英雄の機体か……」
バカばっかり。こんな機体のどこがいいんだろう。耳に入って来る同級生の会話を聞きながら、私は独り憤慨する。
放課後、私のクラスメイトが格納庫に見学に行くと言うからついてきたが、こんなショボイ機体を見に来るためと知っていたら初めから来なかっただろう。
このイーグルと言う機体は、私に言わせれば全然実用的ではない。パワーを落としてまでスピードと運動性に追及する必要がどこにあるのか。装甲は薄いし武装も貧弱。おまけに射撃管制系のシステムは穴だらけ。
英雄の機体だか何だかは知らないが、こんなのを見て喜べるクラスメイトにはある意味敬意を表するレベルだ。自分じゃとてもこうは出来ない。
こんなヘボを作る会社に後れを取っているとは我が家も落ちたものだと悲しくなる。
そう。私、シャリア・レリックスの家であるレリックス家は、軍用のBHF設計、製造会社を営んでいる。レリックスと言えば、レジデントではかなり名の通った大企業だ。いや、だったと言ったほうがいいか。
何故なら、現在レジデントでBHF製造のシェアを独占しているのはRickard Engineer Ring Corporation――RERCと略される会社で、レリックスではないからだ。
クラスメイトが格納庫でイーグルを見つけた時の反応。それがつまり、レリックスとRERCの現状をそのまま表していた。
そんな事実を、クラスメイトの悪意のない感嘆によって改めて突きつけられた私は、いら立ちを隠せそうになかったので早々に格納庫から立ち去った。
♢
が、それでもムカムカを抑えられなかった私は、数十分後、もう一度格納庫を訪れていた。
「流石に誰もいないわね……」
幾ら何でも、数十分間も格納庫で騒いでいられるほど士官学校一年生は暇ではない。私? 気にしない気にしない。
静寂に包まれた格納庫には、現在私しかいない。整備部の部員も出払っているようだ。
素早く左右を確認した後、私はそぅっとイーグルの足元に近づく。
イーグルの足は、通常の機体よりも装甲面が少ない。申し訳程度に脆弱な部分を保護しているのみだ。
私はそのつま先の装甲に向かって足を振り上げ、蹴りつけた。何度も、何度も。
別に、この位でどうにかなるほどBHFの構造は脆いものではない。だからと言って好き勝手に蹴ってもいいと言うわけではないが、日頃RERCに感じている鬱憤がよほど大きいのか、私の足は中々止まらない。
「見てなさいよっ! いつか私がっ! あんた達なんかっ!」
相当に不満が溜まっていたようで、無意識のうちに叫び声を上げてしまっていた。
「ハァッ、ハァッ」
しばらく蹴り続けた後、格納庫の壁際まで下がって息を整える。蹴りつけたイーグルの装甲に傷はなく、逆に私のつま先はジンジンと鈍い痛みを発していた。
誰かに見つからないうちにここを離れよう。そう思い、格納庫の出口へ足を向けようとした時、イーグルのコックピットハッチが開いた。
ばれた――そう思考が追いついた時にはすでに、私は走り出していた。