五話 家族
レジデントコロニー群共和国は四基のコロニーから成る。1から4までの番号が振られたコロニーの内の一つ、レジデント3はその中でも特に居住地の少ないコロニーだ。
その理由は単純明快。レジデント3には軍の主力が在中しているからだ。総司令部だってレジデント3にある。だから戦争となった時一番に攻撃される。
そんな場所に民間人は住もうとしないし、第一政府が許さない。だから、レジデント3に住む人間は軍の関係者かその血縁だけという事になる。俺のオヤジは軍に所属していたし、今は俺も士官候補生として士官学校に通っている身なので、レジデント3に住むことが許可されている。
そんな数少ない住宅街の一角に、俺の家はあった。
「ただいまー」
「お帰りなさい。今日は少し遅かったわね」
玄関ドアを開けるなり律儀に挨拶を返してくれる女性は――言わなくても分かるだろうが俺の母だ。
エプロン姿の母は現在四十六歳であるが、意外と老け顔ではないらしく、ときたま三十台と間違われる。今の格好は丈の長いロングスカートとブラウス、それにエプロンをつけただけの格好だが、背中の一本の三つ編みにまとめた長い紺色の髪のおかげで地味さはなくなっている。こういう所が若く見えるポイントなのだろうか。
「母さん。俺いつものやってるから、夕飯になったら呼んでくれよな」
そう言い残し、俺は二階にある自室に引っ込む。
机の上に置いてあるデスクトップ型パソコンを起動し、カバンから取り出した大容量記憶媒体を差し込む。画面上に展開されたのは『自己進化型危険感応システム』と題打たれた大容量のシステムファイル。
俺はそのファイルを開いて、取得データの整理を始める。
窓から覗く景色は、すっかり闇に包まれていた。
♢
「またやってるの?」
耳元で声がして、画面から目を話す。
「センカ……。入って来るならノックくらいしろよ」
俺の背後からパソコンの画面をのぞき込む少女の名前はセンカ・アナクロス。俺の家、アナクロス家が養子として引き取った戦災孤児で、その証拠に、俺の髪色が濃紺の黒なのに対し、センカは夕日のような赤だ。
「ノックしても反応しなかったのはどこのどいつよ。私は悪くありません」
「分かった分かった。で?」
「お母さんが晩御飯だって」
「了解。これ終わったら行く」
「早く来るのよ。冷める前にね」
ちょっと不機嫌そうにそう言ってから、センカは俺の部屋を出て行った。あ、不機嫌なのはいつものことか。
「これで終了っと」
センカが出て行って数十秒後、俺の作業も終了したので一階のリビングへ向かう。今日の夕飯は何だろうか。