二十話 ミス
目の前を駆ける、白乳色のBHF。
それを追いかける、深海のような深い青のBHF。
――追いきれない――
白乳色の機体が直角に折れ曲がる。
それに対しイーグルは、減速とスラスターの噴出方向を変えることで行える曲線的な機動で追尾しなければならない。
文字通り最短距離で逃げる機体と、慣性の力に囚われた範疇でしか軌道を変更できない機体。
幾ら後者がBHFの中でもトップクラスの速さを誇っていようと、それがこの差を覆す要因には成り得なかった。
隕石の狭間から顔を出すと、紫電を伴った閃光が五月雨のように襲い掛かってくる。
視界内に踊るWARMINGの文字と自己進化型危険感応システムがもたらす赤い予測射線。
その予測射線から機体を外すように回避。それでも数発は完全には躱しきれず、装甲表面を叩きその部分が赤く白熱する。
射撃が途絶えたかと思うと、白乳色の機体はジグザグの機動で隕石の影へと消えていった。
それを、本日何回か数えきれないほど繰り返してきた急速旋回で追いかける。
慣性軽減機構を貫いて襲い掛かるGが俺の肉体を責め立てているのだろう。身体全体から強烈な圧迫感と、気の遠くなるような息苦しさを感じる。
先程からずっと、このような光景が繰り返されている。
強烈なGに耐えデブリの隙間から顔を出すと襲い掛かる光線。必死に追いつこうとしても、圧倒的な機動力の差の前にその差が縮まることもなく、逆にこちらは損耗していくばかり。
こんなことを続けていれば、如何に日々鍛錬を積み重ね、集中力と体力を鍛えている俺でも、いつか必ず大きなミスをしてしまう。
そして、それは起きた。
パールティアーがデブリの狭間に姿を隠した時、反射的に今まで溜まっていた息をフゥッと吐き出してしまったのだ。
普段の訓練中であれば絶対にしないであろうその動作に、俺の集中は一瞬途切れていた。
唐突に鳴る警告音。
その音が指し示す方向は、機体の頭上。
白い死神が、長大な狙撃銃を掲げていた。
「いつの――」
驚愕の声は、被弾によって掻き消された。
命中箇所は左腕の肩口。
高濃度に収束された陽電子は、肩のカーボンナノメタル製の装甲を容易く突き破り、貫いた。
次いで被弾による配電系のショート、サーボモーターの異常加熱、サブスラスターの圧縮推進剤への引火など様々な現象が一瞬のうちに起こり、左腕自体が爆発した。
視界に部位欠損のシステムメッセージが表示されるが、今はそんなものに構っている余裕はない。とにかく、第二射が来る前に隠れなければならない!
混乱した頭でもその事だけは瞬時に判断できたのか、機体の制御が可能になるのと同時に、漂っている隕石群の陰に避難する。
素早くプロパティを開いて機体の状況を確かめる。
「左腕が丸ごと爆散している……。それに伴った質量比率の変化とサブスラスター数の減少による機動性の低下。左腕が使えないことによる諸々の動作の制限……。
爆発による本体のダメージは無し、か」
この状態を鑑みるに、これまでのような無茶な速度、それに機動は不可能になったという事だ。
それはつまり、ますますパールティアーを追うのが難しくなったという事。
「くそッ!」
独り、自分の不甲斐なさを呪うように憤る。
戦いの天秤は、パールティアー側に振り切れかけていた。




